第451回 番組審議会議事録

1.開催年月日
平成16年4月9日
2.開催場所 読売テレビ本社
3.委員の出席 委員総数 10名
出席委員数 8名
出席委員の氏名 熊谷信昭、秋山喜久、金剛育子、林 千代、馬淵かの子
野村明雄、阪口祐康、川島康生
欠席委員の氏名 佐古和枝、老川祥一
会社側出席者 土井共成 (代表取締役会長兼社長) 以下13名
4.審議の概要 テーマ及び視聴合評対象番組
視聴合評番組 NNNドキュメント04「死刑~検証、見えざる極刑の実態~」
放送日時 2004年2月22日(日)深夜24時25分~55分(30分)
放送エリア 全国ネット
4月の番組審議会は4月9日(金)読売テレビ本社で行われ、報道番組、ドキュメント04「死刑~検証、見えざる極刑の実態~」について審議した。
委員からは「この番組を見て、死刑囚の日常など、新たな事実を多く知った。死刑について議論する材料を提供しようという番組の意図は果たされているのではないか」「この番組は、死刑に関する事実を知らせる意義深いものだ。こうした実態を踏まえて議論を続けることが大切だ」など、様々な立場の人に幅広く取材し、死刑の実像に迫ろうとした姿勢が評価された。
一方、「冒頭に、縄や階段など、刑場の再現映像が示され、気分が悪くなるようなインパクトを受けた。制作者は、死刑制度の賛否には中立の立場をとったというが、視聴者に、命を絶つことへの抵抗感を植えつけた上で、さまざまな実態を伝えるのは、公平ではなかったのではないか」「死刑執行に関する詳細な情報は、一般市民にとって闇に葬られてもよい情報ではないか。もっと、社会の制度として議論できる情報を伝えるべきではないか」など、どのようなスタンスで、どのような種類の情報を提供すべきかについて意見が交わされた。
この後、3月に寄せられた視聴者からの意見や抗議、苦情などについて概要を報告した。

【議事録】
(社側)本日ご審議いただくのは報道局が制作しましたドキュメント04『死刑~検証、見えざる極刑の実態~」です。この番組は2月22日に放送したものです。ドキュメント04は、もう何度もこの番組審議会で取り上げさせていただいておりますので、番組自体の説明は省かせていただきます。
それでは、このテーマを選んだ狙いなどにつきまして担当記者から説明をさせていただきます。

(社側)まず、このテーマを取り上げようと思ったきっかけから話をさせていただきます。私は、去年7月まで裁判と、大阪地検特捜部などを担当する司法クラブに所属していました。そのときに、大阪教育大学附属池田小学校の裁判をずっと傍聴していたのですが、その取材の過程で、現在は、すでに死刑囚になっている宅間守被告の国選弁護人の弁護士と話をしていまして、そこでこのテーマの取材に取り掛かるきっかけを見つけました。
その弁護士の方が、私達と事務所で雑談しているときに、「僕は死刑廃止論者だ。しかし、今回の事件に限っては、死刑は仕方がない」ということを、おっしゃったのです。私はびっくりしました。そして、死刑ということ自体、何なのだという疑問を持ちました。
自分自身に問いかけてみましても、死刑が絞首刑であることぐらいしか知らなかったので、そこから、まず、いろいろと制度について掘り下げていく取材をしていこうと思いました。マスコミにとって死刑という題材を取り上げることは、若干タブー視するきらいがあり、本当の事実が世間に出ていないという現状に、取材を進めるうちに徐々に気づきました。
番組をまとめる段階で気を付けたことは、タブーであろうが何であろうが、事実を淡々と出していこうということです。死刑について、賛成、反対を言う前に、まず、どのような事実がこの国にあるのかというのを知っていただこう、その上で番組を見終わった視聴者が「どうなんだろう」と考えるきっかけになるような番組にしたいという思いで編集作業を進めました。
放送後、いろいろな反応をいただきまして、正直、「やってよかったな」という気がします。そしてさらに、じっくり考えながら見ていただけるような番組も、今後、自分の課題としてつくっていきたいと思っています。

<VTR視聴>

(社側)このテーマは大変高い関心を集めまして、放送時間が深夜であったにもかかわらず、大阪での視聴率が8.2%、占拠率は30%、東京では6.1%、占拠率は25%と、この番組の平均視聴率を3割ほど上回る、かなり高い数字を記録しております。それではご審議をよろしくお願いいたします。

私どもは仕事柄、折に触れて死刑のことを考えることが、おそらく普通の人よりも多いと思います。しかし、結局、堂々めぐりみたいな話になってしまいます。それは、被害者の立場に立てば、どう考えても廃止というのは是認できないということになります。理屈ではいろいろあるし、議論のポイントも幾つかは整理できるのですけれども、では、自分の家族なり何なりが殺されたとき「お前、そんな理屈が言えるんか」と自分に問いかけると、結局、答えは出ないのです。
先ほどディレクターの方が言われた国選の弁護士の方の意見も、私はよく分かります。頭で考えると廃止論は、確かにそのとおりかもしれません。誤判の可能性を否定できない以上、それはそのとおりなのだと思うのですけれども、なかなかそうは言えないと思うのです。
番組という観点からいきますと、正直、私も知らなかった新たなことを、この番組を見て、初めて知りました。私は、死刑については、理屈の問題は知っておりますし、処刑の方法が絞首刑だという程度のことは存じていますけども、それに至るまでの経過がどうで、死刑囚がどういう生活をしていて、階段が何段かなどのことは全然知りませんでした。
それが示されていたというところが、この番組を見た視聴者の方に一番インパクトがあったところだと思うのです。そういう意味で、単に賛成、反対というのではなくて、まずは事実をつかまえていこうではないかという番組の企画意図は、成功しているというふうに思いますし、番組を見て、私は非常に感心いたしました。

死刑の制度をめぐっては賛否両論といいますか、本当にいろいろ議論が分かれるところで、今もおっしゃいましたように、「これで答えが出た」とか、「どっちが正しい」とか、そういう解決方法はおそらく永遠に出ないのではないかと思います。
ただ、この番組を拝見しまして、私どもが単に死刑制度は賛成か反対かといろいろ申しますけれども、今まで実態というのを全然知らなかったなということに気が付きました。例えば、死刑囚の日常ですとか、いろいろな冤罪問題のこともあります。この番組は、こういう重いテーマを正面から受け止めて、淡々と事実を視聴者にお知らせするという意味で、非常に意義深い番組ではないかと思いました。
ですから私どもは、この問題、非常に重いテーマから目をそらさずに、こういう実態を見ていって、いつまでもこうやって議論を続けていくということが大事だなということを痛感しました。そういう意味で非常に意義深い番組だったなと思います。

死刑問題で、我々が普段あまり考えていなかった問題を、こういった番組を放送することによって、真剣に考えねばならないという意識を国民に持ってもらったということでは大変意義のある番組であったと思います。
それで、どういうふうに我々考えていけばいいのかなということですけれども、基本的には人権というのは、人の命というものをどう考えるかという問題が基本になってくると思います。そのとき被害者の人権、命と、やはり死刑にしても人為的に人の命を奪うわけですから、加害者の人権、命、双方の人の命の重さを考えていかなければなりません。
その、どちらに力を入れるかによって、かなり結論が変わってくると思います。やはり人を殺したら原則死刑だと、しかも非常に重い重労働的なものが課せられた上で死刑になるのだということであれば抑止効果が働くのか。あるいは少々精神的に異常な人であれば、別に刑を重くしたところで抑止力が働かないのか。抑止効果があるとすれば、やはり被害者のほうの人権を重んじるべきではないのだろうか。
私は日本では、加害者側の人権に重きを置くような感じがあると思います。けれども、世の中から犯罪をなくするという意味からは、被害者の人権を、命を大事に考え、そのためにやはり死刑が非常に有効であるか、あるいは有効であるような死刑制度というのをどうつくればいいのかという問題があるかと思います。
重大な犯罪を起こせば、原則みんな死刑になるのだということになると、常識的には抑止効果が、かなり働くのではないのかなと思います。また、外国では無期懲役になった場合でも、絶対減刑のない無期懲役、重無期懲役というのですかな、そうした罪もあるそうです。
今の日本の場合ですと、無期であっても10年ぐらいで出てきてしまう可能性があるという制度になっているけれども、制度的な改良を加えて、死刑を廃止して無期懲役制にする方がいいのか。あるいは死刑でも、同じやるとしても絞首刑がいいのか、電気椅子がいいのか、銃殺がいいのか、その辺は、今度は加害者の人権というものから考えて、どちらが死んだ後、醜いか、醜くないか、あるいは本人に苦痛がないのか、あるのかというふうな問題を含めて考えていく必要があるかなと思います。
この番組の中でも言っていましたけども、死刑判決を受けてから、全くすることがないというのが、本当の意味で罪を悔い改める時間になるのかどうかという点についても、制度的な改良を加える必要があるだろうと思います。
それから、国民の80%の人が死刑に賛成だという調査結果が出ているようですけれども、この番組の場合、弟さんが殺されたという例が示されていました。しかし、弟と自分の子ども、あるいは妻を殺された場合では、かなり感情が違うのではないかなという気がいたします。
いずれにしても、こういった番組をきっかけに死刑制度をどうしていくべきなのかということについて、議論が起こってくればいいなと思っています。

重いテーマなので、送られたビデオを見るのもちょっとびびって、ぎりぎりまで我慢していて、ようやく昨晩この番組を見たのですけれども、夕べは眠られませんでした。そんなぐあいでちょっとショックがきつかったのです。
番組で、亀井さんが、「死刑があるのはアメリカと日本だけだ」とおっしゃっていましたけれども、中国も死刑をやっています。中国は、麻薬だとか、そういうものに対して厳しくやっていて、摘発されると弁護士もろくにつけないで、裁判は1週間位で終わってしまいます。そして、1か月もたたないうちに、銃殺にするそうです。それも公衆の前で、処刑するのです。各省にある体育館、例えばオリンピックスタジアムみたいなところで、公衆の面前で銃殺するということまで厳しくやりながら、いまだに麻薬の摘発が続いているということです。よくびっくりするのですけれども、いくら死刑があっても、銃殺されてでも、やはりそういう犯罪はなくなりません。
日本では、こどもを殺したり、本当に許し難い罪を犯した人が死刑になるのですが、中国などでは麻薬を運ぶだけで死刑になりますし、それを知りながら運んでいます。そういう国もあるということを亀井さんも、ちょっと調べて発言なさってほしかったと思います。
昔、古代の中国では死刑のやり方も、罪の重さに応じて、より残酷な方法で殺したのですね。もう痛くて苦しくて、なかなか死にきれないような死刑のやり方も、中国の小説などを読んでいるとあるのですよ。
日本も、死刑を廃止すると抑止力がなくなってしまいます。「この人3回ぐらい死刑にしないといけないわ」と思うぐらい許し難いようなことを平気でやった人は、それなりの罰を受けてしかるべきだと思うのです。
先ほどお話にありましたが、重労働を科して、永遠に出てこられないという罪があればよろしいので、もし死刑廃止が通るのであれば、それこそ終身重労働を科して、永遠に出てこられない、そういうような罪を考えてほしいなと、いつも思っております。

いい企画であったと思います。こういうテーマを、今後もいろいろと掘り起こしてやっていただきたい。
私たちの医療の世界でも、見えない制度ではなしに、見ていただけない制度がいっぱいあるような気がします。そういうものを掘り起こして、実態を国民の前に見せていただくというのは大変いいことだと思います。
番組の中で、死刑を「見えない制度」と表現していましたけれども、それは、見えるのですけれども誰も見せてくれないのです。それを見えるようにするのが報道に関係する方の使命ではないかという気がしますので、ぜひとも、こういう企画は続けていっていただきたいと思います。こういういい企画で、しかも視聴率が大変高いのであれば申し分ないのではないかという気がいたします。
ただ、こういうテーマを取り上げた場合には、中立の立場で示すということが大変難しいと思いますね。今回のテーマも、ディレクターが、どういうお考えかは存じませんけれども、番組は、どちらかというと「死刑はやめた方がいい」というムードになっておりますね。しかし、その反対の立場、反対の意見が出てくる事例も、あるのではないかと思うのです。そういう事例は、やはり平等に出すということを考えていただいた方がいいのではないかなという気がいたしました。
死刑そのものについての意見を申し上げますと、国選弁護人の方のご意見というのを最初におっしゃいましたけれども、「死刑に反対だけれども、この例は仕方がない」ということです。であるなら、「仕方がない」ケースだけを死刑にすればいいのであって、そういう点から言うと、この意見は死刑廃止論としてはおかしいのでしょうね。
それと先ほどから、無期懲役といってもすぐ出てくるということですが、日本には終身刑というのはないのですか。

無期懲役はありますけど、実際には出てくることになります。ずっと永遠に出てこないという刑はないですね。
刑に対する考え方として、基本的には二つの考え方があるのです。ひとつは、自分のやった罪に対する報いだというとらえ方。もうひとつは、いわば人間の更生改善のためのものだというものです。つまり、罪は罪として犯したけれども、その人間がよくなれば、社会全体としてマイナスが多少プラスになるわけだから、刑というのも、そういう形でとらえていくべきだというものです。
こうした二つの考え方があって、その後者の考え方からいくと、無期懲役という形で、ある意味、更生改善、反省の機会を与えて、それがずっと浸透して、その反映の結果、更生改善してきたならば外へ出してもいいではないかという考えになるのですね。
どちらが主流かというと、この折衷みたいなのが主流というふうに考えていただいたら結構だと思うのです。だから、どうしても更生改善という視点が出てくると、罪は罪だけれど、長い間反省したのだから、これは世の中へ出してもいいのではないかという考え方が出てくるということなのです。

(社側)まず私の根本的な考えとしましては、死刑には賛成です。やはり被害者の遺族の方々の涙を取材すると、どうしても、許せない犯罪というのはあるのだなというのは日々感じます。
そこが番組づくりで、一番苦労したところなのです。番組はディレクターの個人の意見を出す場ではありません。淡々と事実を積み重ねていく中で、賛成、反対の意見を平等に出していくのですが、でも番組の柱になる方は、どちらかというと「死刑に疑問を感じている」という考えの方です。そういう中で本当に七転八倒しました。番組の制作を終わってから、どう思っていただけるかというのが一番気に掛かったところです。
無期懲役の話については、やはり触れるべき情報だったなと感じています。統計を見てみると最短で12年で出てきて、平均すると大体20年ぐらいで出てくるということです。無期懲役で出たにもかかわらず、5年後には、再犯で、ほぼ全員が戻ってくる。中でも15%ぐらいは、また殺人を犯して戻ってくるのです。そういう事実にまで踏み込んでこそ、番組にもっと深みを出せたのではないかと、そのような反省点があることを痛切に感じています。

もう一つ、今回は時間の制約があって、なかなか、こうした視点は持てなかったのは当然だと思うのですが、ニュージーランドは昔、死刑があったのですが、ある時期死刑を廃止しました。廃止と同時に、これが本当に見合いの制度になるのかどうかは別にして、被害者への国の補償制度を充実させたのです。
要するに、被害者の人権と、加害者の人権があるのですが、死刑廃止ということになると、被害者、特に遺族の感情としては当然、皆さんお分かりのとおりのものが出てきます。他方において、被害者側に対する配慮になっているのかどうか分からないのですけれども、バランスの取り方として、国が遺族の方に対して、犯罪被害についての補償制度を充実させたということです。そういうバランスの取り方も、一つの方法としてあると思います。
確かに世界の潮流は死刑の廃止の方向にあります。しかし、これは取材費の問題もあるかもしれませんけれども、各国を取材して、死刑の廃止、その部分だけをとらえるのではなくて、被害者と加害者、あるいは社会秩序の維持という中で、どういうシステムを組んでいるのか、どうバランスを取っているかという情報も入れたら、もっと深みが出ただろうなと思いました。

死刑廃止論の中で冤罪論がありますね。冤罪率というのは高いのですか。

日本では起訴されたもののうち99.9%は、有罪判決を受けています。その中で、冤罪となるのは、正直言って、ごくわずかじゃないでしょうか。

冤罪かどうかというのは、例えば、5年なら5年ぐらいの間で判断するということにして、刑の執行を待つということは考えられないのでしょうか。

免田さんなどは、再審が認められるまでに、何十年もかかっていますよね。だから、一定の期間を置いてということもあるかもしれませんが、バランスの取り方というのは難しいですね。
冤罪がどのくらいあるか分かりませんけれども、可能性として砂浜の中で何かを探すような話です。ただ、「その可能性がある以上は…」というのが、死刑廃止の論拠の一つになっています。
しかし、これは正直言いまして、どれだけ突き詰めても裁判官が判断を間違えるという可能性は、絶対否定できないと思います。というのは、裁判所の考え方というのは、ある意味で確率論です。こういう事実のもとでは、通常はこうあるはずだというものです。私らは「経験則」と言うのですけれども、この事実が可能性としては一番高かろうと考えて、事実として認めるのです。では、それと違うと言いたい方は、それなりの立証をしないと認めませんよ、というのが裁判所の基本的な考え方なのです。
確かに、それは、ほとんど9割9分の可能性で正しい見解だと思うのですが、では絶対100%正しいのかと言われたら、断言は出来ないのです。合理的にはこうだとしても、それと、ずれた可能性というのが、どうしてもあり得ます。そうすると、冤罪の可能性は、絶対ないとは私も、言い切ることが出来ません。

この番組を見て本当に非常に気持ちが重苦しくなって、一日、「何でだろう?何でだろう?」と思っていましたが、それは、死刑そのものよりも、この番組のつくり方に、すごく腹が立っていたことに気が付いたのです。
先ほど制作動機を聞かせていただいたのですけれども、どちらかというと、やはりこの番組は「死刑というものはよくない、廃止だ」ということを前提につくられているような気がしています。番組の冒頭で、「15の階段」と「縄」が紹介されます。これは見ている人に、かなりのインパクトを与えると思うのです。これだけで多分、気分が悪くなる人が多いと思うのです。普通に生活していたら、こういうものを目にすることはないと思うのです。最初に、こういう形で「命を絶つということはいけないことよ」というものがバンと来るのです。
なおかつ、番組の柱として選ばれている方が、弟さんを殺されていながら、最後の段階で結局、加害者が死刑に処されたことに対して疑問を感じるという流れになっていて、罪を憎んで人を憎まずというところへ番組は持っていっているのです。
そうしてみると、私自身は、死刑が廃止であろうと、賛成であろうと、それはどちらでもないのですけれども、見ている側は、言葉は悪いですけれども、その制作意図にはめられたという気持ちを強く持つのです。もし番組の中で、妻子を殺された方を取り上げていたら、違う形が出てくると思うのです。
殺されたのが弟さん、それも、それぞれ違う生活の中で生きていた三十歳になる弟さんであるから、多分加害者と向き合う10年という年月の間に、相手とコミュニケーションを持って許せたと思うのです。けれども、これからかわいい子どもが生まれて、その子どもを育てて社会に送り出すという明るい未来を、妻子が殺されたために絶たれたという人を主人公に持ってきたとすると、違う意味が出てきたと思うのです。
なぜ、あの方を主人公にしたかということ自体、ちょっと疑問がありました。その意味で、この番組に対して、言い知れない不快感がずうっと尾を引いていた、ということがあったと思うのです。
制作サイドの思いが、最初から死刑廃止、「こういうことはいけないよ」ということを意図されてつくられていて、最初にああいうインパクトのある映像を持ってきたのではないかという考えもあって、ちょっと割り切れない思いが残りました。

私も、今のご意見と同じです。制作者の苦悩といいますか、ご苦労はよく分かりますけれども、先ほどおっしゃった制作意図が本当に、この番組を通じて正しく伝わっているかどうかということについて疑問に思います。むしろ、今ご指摘があったように、おどろおどろしいような空間を垣間見せたり、あるいは選択的に奇をてらうような死刑に関する情報を意識的に流しており、どちらかというと、そういう方向でつくられたと思うのですね。
ですから、私などは視聴率が高いことが意外ですし、逆に深夜番組で、30分の長さでよかったと思います。30分という短い時間で、この問題を取り上げるには少し大変だろうなということは、一方でよく分かるのですけれども…。 もう一つ、こういった死刑に関する情報、ましてや死刑執行に関する情報などは、専門家の間では熱心に議論をされたらいいと思うのですけれども、一般の市民や、ことに子供などがいるところでは、本当はタブーであっていいと思うのです。むしろ闇に葬られるべき情報ではないかと思います。
従って取材者側の情報公開の要請に対して、法務省が真っ黒塗りの資料を出したというのは当然だと思いますし、あの場面で「世論が、この死刑制度を揺り動かすことになるのではないかということを恐れているのだ」というナレーションがありましたが、これなどは、私は適切でない、理解できないと思うのです。
それから、どちらかといえばテレビ的センチメンタリズムがベースにあって、論理的な問題提起になってないと、そんなふうに思います。えらいストレートに言って申しわけないのですが、分かりやすく申します。
私は、国の統計の80%の側、死刑存続を認める側にいる人間です。やはり死をもってしか償い得ない犯罪があると思います。応報刑というのが最も犯罪抑止力があるのではないかと思います。特に最近のように犯罪が凶悪化してきている場合は、社会は防衛すべきです。先ほどお話がありましたけども、累犯があんなに多いという状況、それを聞けば聞くほど、死刑というのは残すべきだと、そう考えます。
私は、冤罪があっていいとは、もちろん申しません。ですけれども「冤罪の可能性があるから死刑はやめるべきだ」というのは論理が逆転していると思いますね。番組では政治家を2人持ってきておられましたが、政治家ではなくて、むしろ学者の先生を賛否両論で出された方がよかったのではないかと思います。第一、昔の宗教裁判ですとか、あるいは正木ひろしさんの言われる「暗黒裁判」というような、そんな時代と今の裁判の実態は違うと思いますのでね。冤罪のない裁判手続きを充実させる方が大事であって、冤罪の可能性があるから死刑はやめるというのは、私は考え方が逆転していると思います。

私は以前、大学の法学部の刑法の教授から死刑の執行の現場の話を長時間にわたって詳しく聞いたことがあるのです。その刑法の教授は、大阪の拘置所の中での死刑執行の現場に何回も立ち会っていて、きょう見せていただいた映像どころではない生々しい話もたくさん聞きました。しかし、映像として見せていただいたのは今回が初めてなので、そういう意味では、やはり別の非常に強い印象を、この番組から受けました。
委員の皆さまがおっしゃったことと私は同じ意見なのです。おつくりになるにあたっては、死刑を存続すべきだという意見と、廃止すべきだという意見がある現実の中で、出来るだけ公平性を保ちたいと努力したとおっしゃっていました。一生懸命、公平になるようにおつくりになっているのだろうなとは思いましたが、結果として、最初に弟さんを殺された兄さんの映像が出てきて、最後は、その人が結局は、死刑の執行はすべきでないとなっているわけですね。途中で、「執行をやめてくれ」という嘆願書を出したというような場面があったと思います。最初と真ん中と最後に、その人の場面が入っているわけで、受けた印象としては、やはり死刑はないほうがいいという、そういう印象を伝えようとしている番組だというふうに受け取れましたね。
ですから、何人かの委員がおっしゃったように、他人の始まりの兄弟が殺されるのと、子供、孫が殺されるのとでは、しかも三十過ぎの独立した弟さんの場合と、2歳、5歳の子供さんとか、お孫さんの場合とでは、同じではないですよ。ですから、そういう点で努力はなさっているのでしょうけれども、公平性という点で確かに保たれているという印象は受けなかったですね。
死刑の執行については幾つも疑問があって、この番組の中でも死刑囚が「刑が確定してから執行までの年月が長すぎるのが非常につらいんだ」と言っていましたが、これは規則では「死刑が確定したら6か月以内に執行すること」という法律があるわけでしょう。それを、法律によってすべて行うべき法務省が、法律違反を公然とやっているわけです。法務大臣が、何となく気持ちが悪いから判を押したくないというだけで自分の役職を果たしていない、これは職務義務違反ですよ。
この番組は、これで大変インパクトのある番組でしたけれども、皆さんもおっしゃったように、もし今後さらに続けて取材なさるなら、もっともっと突っ込むべき点や別の切り口があると思います。また、本当に客観性、公平性の保たれた番組をおつくりになるように、さらに努力されるべきだろうと思いました。

先ほどの記者の方のお話で、再犯率がきわめて高率だということでしたが、そういう事実は初めてお聞きしました。むしろそういう具体的な情報を提示されると、また、見る人の意見が変わりましょうし、そういう参考になる事実や情報を流してほしかったなと強く感じました。

(社側)続きまして、3月に寄せられました視聴者の声を報告します。今年に入りまして件数は少ない状態が続いていたのですが、3月に入って、プロ野球が始まりますと苦情が増えてまいり、以前の水準に戻っております。
苦情が多かったものの中で『ザ・情報ツウ』におきまして、ストーカー被害に遭った女性の顔にモザイクがかかったり、かからなかったりすることに対して問い合わせとか苦情がありました。実は、これは被害者の女性が、取材の段階では「顔を出してもいい」ということだったのですが、放送が始まってから「やはりモザイクをかけてほしい」と要望したということで、急遽モザイクをかけることになり、こういう形になったと日本テレビは申しております。

(社側)次に、先日、視聴率問題とは別に日本テレビのニュース番組の中で幾つか問題が発生しました。この件で、きのう日本テレビから関係者の処分が発表されました。それにつきまして丸山専務から報告いたします。

(社側)本日の新聞でも、一部既に報道されておりますけれども、日本テレビが夕方放送しております『ニュースプラスワン』というレギュラーの報道番組がございます。これは当社にも流れている番組ですが、その中で、「やらせ」かどうかは微妙なところなのですが、いわゆる不適切な演出が、昨年3件のあったということで、日本テレビは昨日関係者の処分を発表しました。
それによりますと、氏家会長以下、役員が自主的に報酬の一部を返上、報道局長以下、関係者を懲戒処分とするということです。
「3件ございました」とお話ししましたけれども、例えば一つの例を申し上げますと、防水加工を施した衣類を洗濯機にかけると洗濯機が爆発するケースがあるという事案を、特集の形で実証するという企画がございました。その中で、実際にやってみたところ、最初はなかなか爆発しなかったということがございまして、結果的には、中に入れましたレインコートの袖をわざと縛って爆発が起こりやすいような形で撮影をしたと、こういう事案でございます。報道番組の中でやりました企画が、そういった形で「やらせ」に近い不適切な演出があったということが判明しました。
その結果、申し上げましたような関係者の処分を、昨日行ったということでございます。

(社側)続きまして、審査室から報告いたします。前回の番組審議会で答申をいただき、読売テレビ放送基準の改正をいたしましたが、その趣旨を徹底させるためにハンドブックを作成しました。その実物をお手元に配っておりますが、それにつきまして久保審査室長から説明させていただきます。

(社側)このたび「読売テレビ放送基準ハンドブック2004」という、新しい放送基準についてのハンドブックをつくりました。中身について、簡単に紹介させていただきます。
中身はご覧になっていただくと分かりますように、18の章、149条の放送基準について、条文と、その解説文を合わせて載せております。実は、これまでは、放送基準の条文と、解説文を別々の冊子として配布していたのですが、それを1冊にまとめて、見やすいようにしたということが一つ目の特徴です。
二つ目として、新しいハンドブックには、多くの関係法令も載せました。コンプライアンス、法令の遵守を明確に打ち出させていただいたということになります。
さらに具体的な事例とか、注意事項も載せまして、分かりやすく、使いやすくしたということです。
既に本社と東京支社で、社員、関係プロダクションのスタッフを対象に、臨時の研修会を開きまして、新しい基準についての説明を行い変更の内容やその背景の理解を徹底させました。
これからは、この新しいハンドブックと既に出ています「報道・番組制作のガイドライン」それに「放送用語のガイドライン」、この三つの冊子を参考に、注意深い番組づくりを進めるよう指導を徹底させていきます。

(社側)読売テレビ番組審議会は5月が年度初めになっておりますので、今回が平成15年度の納めの会になります。高田専務より皆さま方に一言ごあいさつをさせていただきます。

(社側)今、事務局から話がございましたように、本日が平成15年度の締めの審議会になります。皆さま方には、大変熱心なご審議をいただきましてありがとうございます。委員の任期は1年ということになっておりますけれども、皆さま方には引き続き、16年度も委員をお引き受け願いたいと思っておりますので、ひとつよろしくお願いをいたします。
ところで15年度も、テレビメディアをめぐって、さまざまな問題が起こりました。個人情報の保護の問題、あるいは人権擁護の問題、青少年への影響の問題、こういった問題が一部立法化をされたわけでございますが、さらに、つい最近、週刊文春の出版差し止めの問題が起こりまして、私どもテレビ業界も、こういった問題について真摯に受け止め、よく考えていかなければならないと思っております。
先ほど丸山専務から報告がありましたように、日本テレビで不祥事が相次いでおります。「やらせ」の問題のほかに、昨年は視聴率の不正操作問題というようなこともございました。こういうことで世間の目が、我々テレビ業界に対して、厳しくなっております。幸い読売テレビは、昨年、こういった問題を起こすことなくやっておりますけれども、これも番組審議会の皆さま方のご指導の賜物だというふうに我々は考えております。引き続き読売テレビとしても独断に陥らずに、視聴者にとっていい番組づくりに励んでいきたいと思います。
第三者機関としての番組審議会の存在は、ますます重みを増しております。毎回この審議会でいただく委員の皆さま方のご意見は誠に的確で、鋭く問題点を指摘される一方で、この読売テレビを育てていこうという、こういう熱意も私たちに、ひしひしと伝わっております。どうぞ16年度も引き続きよろしくご指導のほどお願いをいたします。
  • 平成15年度読売テレビ番組審議会委員
  • 委員長    熊谷信昭   兵庫県立大学名誉学長、大阪大学名誉教授
  • 副委員長    馬淵かの子   兵庫県水泳連盟   顧問   元オリンピック日本代表
  • 副委員長    川島康生   国立循環器病研究センター   名誉総長
  • 委員    秋山喜久   関西電力株式会社  顧問
  • 委員    金剛育子   能楽「金剛流」宗家夫人
  • 委員    林  千代   脚本家
  • 委員    阪口祐康   弁護士
  • 委員    佐古和枝   関西外国語大学教授
  • 委員    北前雅人   大阪ガス株式会社   代表取締役副社長執行役員
  • 委員    谷  高志   読売新聞大阪本社   専務取締役編集担当