第444回 番組審議会議事録
1.開催年月日 |
平成15年7月11日 | |
2.開催場所 | 読売テレビ本社 | |
3.委員の出席 | 委員総数 | 10名 |
出席委員数 | 8名 | |
出席委員の氏名 | 熊谷信昭、秋山喜久、金剛育子、 野村明雄、阪口祐康、佐古和枝、老川祥一、川島康生 |
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欠席委員の氏名 | 林 千代、馬淵かの子 | |
会社側出席者 | 土井共成 (代表取締役会長) 以下14名 | |
4.審議の概要 | テーマ及び視聴合評対象番組 | |
視聴合評番組 | NNNドキュメント'03 「100年目の潮風~海の子たちと小学校~」 |
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放送日時 | 2003年6月29日(日) 深夜00時55分~01時50分(55分) | |
放送エリア | 全国ネット | |
番組審議会では、ドキュメント'03「100年目の潮風~海の子たちと小学校~」について意見を交換した。 委員からは「我々が忘れかけている、教育とはこういうことなのだ、ということがよく表現されている」「教育問題にとどまらず、個性的な地域づくりをするのか?あくまで均衡を保つべきなのか?国のあり方についても大きな問題を投げ掛けている」など、教育や地域のあり方を考えるための素材を、的確に提供しているという意見が相次いだ。 一方「学校の統廃合の問題は様々な要素を含んでいる。冷静な判断に必要な材料が足りなかったのではないか」「教育委員会や地方自治体は"悪"、こども達は"かわいそう"というとらえ方は偏っている。問題は、大きな財政的な負担を受け入れるのかどうかだが、この番組はそういう判断や考え方を提示できていない」と、統廃合問題をどう伝えるべきだったのかについても意見が出された。 この後、7月1日に発足した「放送倫理・番組向上機構(BPO)」について説明、続いて6月に寄せられた視聴者からの意見や抗議、苦情などについて概要を報告した。 |
【議事録】
●(社側)本日ご審議いただきますのは、毎週日曜日の深夜0時55分から全国ネットで放送しています『NNNドキュメント'03』の枠で放送しました『100年目の潮風~海の子たちと小学校~』です。この枠は通常は30分の枠ですが、この回はスペシャルとして55分に拡大して放送いたしました。
この番組は、皆さんご存じのとおり、日本テレビ系列の各局が企画を持ち寄り、互いに吟味した上で、それぞれの局が制作し、全国ネットで放送していくというユニークなドキュメント番組で、既に33年目を迎えている超長寿番組でございます。
今回の番組のプロデューサーから、番組の内容やねらいについて説明いたします。
●(社側)『100年目の潮風』という番組で取り上げた学校は兵庫県浜坂町の御火浦(みほのうら)小学校という小学校で、日本海に面した漁港にある小学校です。ここの存在を知ったのは10年以上前で、一度は取材をしたいなと思っていたのですけれども、来年、統廃合になりそうだということがわかり、2年前から取材を始めました。
ここは過疎の村で児童数が21人という非常に小さな学校です。小さな学校ですが、地域の住民と一緒になって学校を盛り立てています。その中に、カメラマンが入って最初に感じたことは「いまだに、こんな教育があるのか」という驚きで、その気持ちが番組を制作する出発点になりました。
そして、取材をしていくうちに、この小学校を取材することで今の社会が忘れ去ってしまった共同体意識だとか、教育の原点のようなものが浮かび上がってくるのではないかと気付き、さらに企画を練りました。ご覧になっていただいて、皆さんがどのようにお感じになられるのかは様々でしょうが、まずは見ていただいて、今の教育について、少しでも視聴者の方に考えていただければ、という思いでつくりました。
<VTR視聴>
●(社側)ご覧いただいた番組の視聴率は、大阪が4.8%、占拠率は21.5、東京の視聴率は3.7%で占拠率は23.2でした。それではご審議をお願いいたします。
●この番組は、教育問題だけではなくて、国づくりのあり方についても大変示唆に富んだ、また大きな問題を投げ掛けた非常にいい番組だと思います。
今まで日本の国づくりというのは、国土の均衡ある発展ということで、みんなが高速道路を持ったり、都会的なものになっていくことが国民にとって幸せなのではないかという発想のもとに国づくりをやってきました。今、国土審議会でも、自然が非常にたくさんあって、人と人とが触れ合えるコミュニティーがあり、教育も画一的でなくていいのではないかという、「個性ある自立社会」を目指してやろうという提案をしているのです。
けれども、そういたしますと政治的には、「いや、まだ田舎は発展してないんで、均衡ある発展だ」、という主張が強くて、我々としては、こういった個性的な社会をつくっていく方が、みんな幸せになるし、国としても多様性があっていいのではないかということを申し上げているのですけれども、なかなか難しい問題があります。
このドキュメント番組は、そういった意味では、これから国づくりをどういうふうにしていくのかという問題を、投げ掛けていると思うのです。小さくても心豊かであり、非常に人間性の富んだ教育もできるし、生活もできるという社会を目指していけばいいのではないかなと、思うのですけれども、国土審議会でそれを提案しますと各代議士先生から「いや、均衡ある発展だ」「もっと田舎に金を寄こせ」と、こういう話になってしまうのです。その辺のことを、みんなで、もう一遍考え直していく必要があるのではないのかなと思っております。
ただ、ちょっと気になりましたのは、番組で紹介された小学校の建物は非常に立派ですね。そうすると負担している税金と自分たちで使っているお金を比べてみると、自分たちが負担した税金はおそらく1割あるかないかぐらいではないのかなと思うのです。よそから支援を受けないとやっていけないということになると合併という話も出てきてしまうのです。
やはりナショナルミニマムで、ある最低限の生活なり、教育なりは、みんなが受けられるように補助をするなど、負担し合うことは必要かと思いますけれども、あまり贅沢なものつくって9割以上が、よそからのお金だということになると、合併して、もうちょっと効率化してくれよという話になってしまうと思うのです。
ある程度、地域は地域として安全で、なおかつ快適な施設はつくる必要があると思います。しかし、別に校舎を木造にせよとは言いませんけれども、21人のために、あそこまで立派な小学校をつくってしまう必要があるのかなというようなことが、裏腹の問題としてあるのではないかと思います。
基本的には、地域々々が自然を大事にして、コミュニティーを大事にして、個性を大事にして、個性的な教育もやり、個性的な生活ができるような国土づくりというものを目指していくべきだと思います。けれども、なかなかその辺が世論の賛成を得られないというのが現状なので、国土審議会であまり「均衡ある発展」ということだけをやれという方向に、向かわないように、ぜひマスコミの方々にも、その辺をご支援いただきたいと思います。
ナショナルミニマムは必要だと思いますけれども、基本的には地域々々の個性を大事にしていくまちづくりであり、地域づくりが大事ではないかと思っているのですけれども、まだ、その辺のコンセンサスが得られません。こういう番組をどんどん流していただいて、そういったことを強調していただくというのは非常に結構だと思います。
●私は、この番組を見たときに「ウワー、何といい学校でしょう、私に孫がいたら、転校でもさせたいな」と思うぐらい、うらやましい学校だと思いました。子どもたちも画一的でなくて、伸びるものは伸ばしてあげられる。そういう学校のあり方を本当にうらやましく思いました。
もしこの学校が統廃合されて、閉校されたら、学校の施設は転地学習のための場所として残したり、校舎を潰さないで、各小学校が、あそこで生徒を1週間ぐらい預かっていただいて、いろいろなことに活用できるのではないでしょうか。あんなきれいな海でしたら、海で泳ぐのも安全で、プールで泳ぐよりよほど楽しいでしょう。そういうことを進めるには、どこへどう言っていけばよいのかな、などと思いながら見ていたのです。
この番組は1年以上かけて取材していらっしゃるのですけれども、見ていて子どもの成長が手に取るように分かりました。特にナオちゃんという子どもが、同じ日に、ほんの1時間ほどの間に、悔し涙と嬉し涙を同時に流した場面が感動的でした。私もスポーツをやっていますので、選手が流す悔し涙と嬉し涙の意味についてよく話をするのですが、あの場面を見ていると、何も言わなくても、それを見た選手は、グッとくるものが多分あると思います。演出なしで、ああいう場面に出会って、子どもの真実の涙を映してもらえたということを、すごく嬉しく思います。本当に楽しくて考えさせられる番組だったと思います。
●大変いい番組だったと思います。さきほど、ご説明にありましたように、我々が忘れかけているというか、ほとんど忘れられてしまった「本来の教育というのは、こういうもんだね」ということを示したいという意図は十分伝わったと思います。
それから、制作者のメッセージはもちろん込められているのですが、それを、あまり押しつけがましくなく表現していました。この種の番組では下手をすると誰かが悪い、行政が悪いとか何とかということを安直に言って、そこで答えを出してしまうようなものが多いのですが、この番組はそういう意味の押しつけがましさはなくて、非常に淡々と、かつ子どもたちのけなげな、あるいは明るさ、そういうものを素直に描いていてよかったなと思います。
また、映像も非常にきれいで、見ていて気持ちのいい番組だったと思います。
ただ欲をいうと、もう少し説明が欲しかったなという気がしました。つまり、廃校になるのは市町村合併のあおりだと、こういう説明でしたが、市町村合併が、どうして廃校につながらなければならないのか、そこら辺の理屈が説明不足でした。本当はもっといろいろな議論があったのだろうと思うのだけれど、その辺がちょっと分かりにくかったです。
それから少子化云々ということは当然、誰でも考えることなのですが、ではこの学校のピークのときには子どもたちは何人ぐらいいたのか?今21人ということですが、そのあたりの比較がないと視聴者は判断が出来ません。それがないと、こんなに子どもたちが楽しく、生き生きやっているのに、何か無理矢理、学校を潰してしまうのはもったいないねと訴える、ただの感傷になってしまいます。おそらくもっといろいろな事情があって、このままでは継続しにくいということだと思うのです。
けれども、番組で説明された限りだと、統廃合をする理由として、人数が多い方が子どもたちにとって、発想が豊かになるとか、そのような理屈を言っていましたけれど、その限りだと、ちょっとおかしな議論だと思うのです。もう少しいろいろな理屈があったのではないかなという気がします。そこら辺の説明が、もう少し、番組のところどころに入っていれば、見ている人が、もっと納得がいったり、あるいは納得がいかなかったり出来たはずで、考えさせるという意味で、もう少し考えるポイントを提供できたのではないのかなという気がします。
●今のご意見に全く同感なのですが、こういったビデオを見せられますと、一体番組審議会というのは何をするのかな、「大変結構でございます」といって、それで終わってしまうのかなという気がいたします。
けれども、あえて申し上げますならば、私は医者ですので、医者の立場から類似点を少し申し上げますと、このごろは「納得の医療」といいまして、患者さんに治療法を選択させるということが広く行われております。しかし、無責任な医者というのは「こういう方法、こういう方法、こういう方法があります。どれを選ばれますか」と患者さんに言うのです。これはもう全く無責任なのですね。
プロフェッショナルとしては、「この治療法は、こういうエビデンス(根拠)があります」ということを、ある程度申し上げた上で「さてどうでしょう」と、判断を仰ぎます。
この番組でも、「先生どうされますか」とか、「私はこうしたいと思います」とか、そこまで突っ込まなくても、もう少し突っ込みがあってもよかったのではないかと思います。それがないと、「ああ、この学校は潰れるんですね」「寂しいですね」「皆さん、やっぱり何とか存続させてあげたいですね。しかし時代の流れですね」と、このようなことで終わってしまうのではないかという気がいたします。あえて控えられたのかもしれませんけれども、もう一歩でも、もう半歩でも踏み込めばよかったのではないかと思いました。
もう一つは、非常に良いテーマで、今の教育が忘れているものを見出して放映してくださった。これは素晴らしいことだと思うのです。けれども、そのことと、この学校がなくなったら、こういった教育もなくなってしまうのではないかということとを、この番組では重ねて表現しているのです。私は決してそうではないと思います。日本にはこういった教育が、まだまだあると思うのです。
それとこれとを一緒にして、だから学校を併合していくのは悪いことだというふうな印象を与えるとすれば、これはミスリードではないかという気がいたしました。
●この番組は教育現場の問題をとらえていますけれども、国全体のあり方ですとか、国のこれからの考え方とか、そういうところにも問題を提起する番組だったのではないかと思います。戦後の高度経済成長期に合わせて、教育問題も変化してきたわけですけれども、今は不登校ですとか、いじめですとか、さまざまな問題があって、今までの教育のやり方でよかったのかということが問い直されています。
今は、そういう時期で、個性を大事にしようとか、学校から飛び出て、画一的ではなく地域のボランティアの方々とか、地域のいろいろな技術を持った方を学校に招くなどして、地域の人とのつながりを強めよう、などといったことが最近、皆さんから言われてきています。この番組で紹介された学校は、そういうことを以前から、ずうっと続けておられたのだなということがよく分かります。
この間長崎で、12歳の少年による幼児殺害事件のような、ああいう惨い子どもの事件がありましたけれども、この番組で紹介されたような地域の、こういう学校で、こういうやり方をしていれば、あのような問題は起こらなかっただろうなということを感じました。そういう意味で、すごく大事なものを提起していると思います。心の教育とか、いろいろなことが今、急に言われていますけれども、そういうものの原点を問い直させてくれる番組だと思います。
一方、統廃合の問題は冷静な目で見ると、少子化の問題とか、経済問題とか難しい面もあります。この学校にどういう事情があるのか分かりませんけれど、今後の見通しとして年々児童数が減っていって、近々もうゼロに近いような状況になるとか、そういう冷静な判断が出来るような、いろいろな資料も必要だと思います。単に統廃合が悪いというのではなくて、そういった観点からの見方というか、どのような問題があるのか、その辺のことを知りたいと思いました。
ただ非常に大事な問題を提起していただいた、いい番組だと思います。
●非常にインパクトの強い番組だな、というのが最初の印象です。その理由の一つは、私などは世代的には、画一的な教育を受けてきた世代なのですけれども、そういう立場から見ると、この番組で紹介された小学校の教育を見ていると、地域が一体となって子どもを育てて見守っていこうという、このような教育現場があるのかと、驚きがありました。漁に出てワカメをとって、ワカメの干し方を地域の人が教えるなどということは、僕らの世代の教育という観点からは、あまり考えられません。そういう意味でのインパクトがあったというのが一つです。
それともう一つは、子どもたちの明るさが映像を見るだけで伝わってきて、それがすべてを語っていると言えるのではないでしょうか。私は西宮に住んでいますけれども、西宮北口あたりでは夜になると、塾帰りの小学生らがたくさんいます。その子どもたちと比較したときに、子どもの表情の明るさというか、笑顔というのが全然違うと感じました。百の理屈を重ねるよりも、その映像がすべてを語っており、まさにそれがテレビの強さだと思います。
そのインパクトの強さが、印象となって残っているのかなと思いますが、その二つの理由で、この番組のねらいである、今の教育のあり方に対する疑問を、非常に的確に視聴者に訴えていると思います。そういう意味で番組の意図が達成できている、良い番組ではないかと私は思いました。
ただ、私だけが疑問に感じたのではないと思うのですが、見ていて一つ疑問があるのは、この学校では例えば3年、4年、あるいは5年、6年と2学年を一緒に教えています。工作とか音楽とかなら、別にそれはそれでいいのかもしれませんけれども、例えば算数であるとか、国語であるとか、社会などの場合は、やはり3年生にはこういうカリキュラムがあり、4年生にはこういうカリキュラムがあるとなっているはずです。それを3、4年一緒に教えることで、卒業するときに、先ほど委員が言われたナショナルミニマムを達成することが果たしてできるのでしょうか。
おそらくこの学校では現地なりに、いろいろな工夫をしていると思います。この番組を見ていて、その辺のところが一体どうなっているのだろうという疑問が沸いてきまして、もうちょっと説明があれば、もっと分かりのいい番組になったのではないかなと思います。
●先ほどもご指摘があったように、小・中学校が荒廃している中で、この番組は、本当に大きな感動をもって見させていただきました。ご説明があったように長寿番組として、その制作・企画の競争の中でこのテーマは、生まれてきたものだと思います。やはり33年の歴史と伝統というか、その中での競争による淘汰というか、それが行われた結果、生まれた傑作というべきだと思いますね。
それから現地の撮影が大変だったのではないかなというふうに想像しております。取材の制約もあったと思いますし、それを克服してじっくり構えて画面をよくまとめておられるという点で、これは前にも申し上げたのですが、年月をかけて行うこういう取材を認める読売テレビの器の大きさを改めて感じた次第です。
それからメインのテーマではありませんけれども、子どもの話し声が番組のあちらこちらに入ってきますね。これは非常にいい雰囲気をつくっています。音響というのか、効果というのか、録音というのか、技術的にどういうのかは知りませんが、その方々の努力も素晴らしいなと感じました。
それと全体として、昔を懐かしむ気持ちではなくて、過疎の村の、この御火浦小学校に伝わっている心豊かな大切なものを残したいという呼びかけが、正しく見る者に伝わっているなと感じました。
学校の統廃合の問題ですけれども、感情が先走った押しつけがましい反対論ではなくて、子どもの教育について、こういう共同体の意識というのが大切ではないですかということを、番組では雄弁に訴えているわけですね。その反射効果がどうなるかは、いろいろなほかの要素もありますから、結果は別にしまして、そういう点で、よく伝わっていると思います。
番組全体として非常によく考えられており、企画されたところ、意図されたところが正しく伝わっているのではないかと感じました。
●私は教育委員長をやっております立場から、学校の統廃合の問題が出てきますので、非常に深い関心を持って拝見したのです。この家族的な少人数の教育、地域の特性に根差した教育のよさを描写しておられる部分については、全く問題はありません。こういう教育もあるのか、こういう教育は大事にしたい、というようなことを訴えかけるという点では何も問題はないのですが、番組として非常に不十分というか、問題だと思う点がございます。
学校の統廃合というのは、現在、日本中で進んでおり、小学校から始まって、今、高等学校まで及んでいます。地方自治体あるいは学校を維持管理している教育委員会等は「やはり統廃合は必要だ」ということを言うわけです。それに対して生徒や保護者たちは必ず反対をします。
統廃合をするときに残る方の学校は、ほとんど何も言いませんけれども、廃校になって、ほかの学校に統合されてしまう学校の卒業生や在校生や保護者は強烈な反対をします。そのときの統廃合がどうしても必要だという側の表向きの正論は、「学校教育には適正規模というものがあるんだ」というものです。この番組で紹介されたような小学校ですと、野球もできないし、サッカーも、もちろんできません。個人的な水泳とか、ピンポンなどはできますけれども、今のようなことはできないし、例えば音楽文化の点で言えば、コーラスというようなことも楽しめません。だから「学校教育には適正規模というものがあるんだ」と主張します。
従って、子どもがどんどん増えていたときには、学校はどんどん増やしていかなければいけなかったけれども、それと同じぐらいの勢いで急激に子どもが減ってきつつあるときに「一遍つくったものは、減らすのは常に悪なのか。そういうものではないだろう」という片側の正論として、統廃合は必要だという側の表向きの意見が出るわけです。
それには反対だという側の意見は、この番組の中身に象徴されるような「みんな一生懸命やっています」「学校もいい学校です」「人数は減っても、みんな仲良くいい教育をやっています」と、いうものです。そして「卒業生の気持ちも考えてください」というような主張は、廃校になる学校の関係者の一致した表向きの意見です。
番組の最後にちょっと出てきましたが、「第一遠くなるじゃないか」という意見もよく出てきます。この番組の場合も「新しい学校は4キロも離れている」というようなことを言うわけです。
この番組で、少し視点が間違っているのではないかと思ったのは、この統廃合は市町村合併の余波で起きてきた問題で、これが社会の流れだと、それに巻き込まれようとしているのだ、という説明でしたが決してそうではありません。原因は、端的に言えば金の問題なのです。先ほど委員がおっしゃったように、要するにお金の問題であって、大阪にしろ、京都にしろ、市町村の統廃合が行われるから学校を減らさなければいけないのだというような、そのような状況にはないわけです。今日配布された資料にもそう書いてありますけれども、そういうものではないのです。
市町村合併の結果、統廃合の問題が起こるケースもあるでしょうけれども、今、全国的に起こっている統廃合の問題は何が原因で起こっているかというと、子どもの数が減ってきたにもかかわらず、今のままでいいのかという問題なのです。今のままでいいとしても、大きな建物にわずかな数の子どもたちだけが残っているような学校を、すぐ近くにほかの学校もあるのにそのまま置いておいて、その費用を全部税金で、あなた方が負担してもいいのですかという議論です。
「いい」と言うのだったら、それでいいわけです。自分たちが出した税金ですから、自分たちが納得できるような使われ方をするなら、それでいいわけです。しかし、税金でやってもらいたいこと、あるいは社会的にしなければいけないことや、充実させなければいけないことはいっぱいあるのです。医療にしたって、福祉にしたって、安全の確保にしたって、環境の改善にしたって、ぜひやってもらいたいというものはいっぱいあって、どれにも金がかかって、それぞれに関心のある人は、それぞれが一番大事だと言うのです。そのために金を使えとみんなが言うから、では全体としてどうするのかという問題になるわけです。
こうした番組では、見る人に、そういう判断なり考え方を伝え、いろいろな基本的な問題があるということを示して、問いかけるところがないといけないのではないでしょうか。「こんないい学校を潰して、子どもたち可哀相じゃないか」ということだけで済む話なら何も問題ないのですけれど、それで済まないところが、悩ましいところなのです。
だから4キロも離れていると言っても、学校へ行くのに片道1時間や1時間半歩かなければいけなくても、勉強するためには別にどうということはありません。近いに越したことはないにしても、目と鼻の先にある学校に行かさないと子どもたちが可哀相だ、というようなことばかり言っていても、問題は解決しません。子どもたちと一緒に、1時間ぐらいかかる学校に行き帰りするというのも、それはそれで、いろいろな教育効果も期待しようと思えばできるのです。
経済的には非常に効率が悪くても、みんなのお金を、それに使っていいではないかと主張したり、あるいは「どう思いますか」ということを問いかけたりするのであればいいのですけれども、この番組は、そうはなっていません。私はそういう意味で、この番組は非常に感動的で、いい側面を伝えてくれていると同時に、問題の提起という点では「教育委員会は悪」「子どもたちは可哀相」と、甚だ偏った表現になっているように思います。
そういうことで済む話ならいいのですけれど、そうはいかないのだというところを、やはり考えさせてもらうようにしないことには、番組としては不十分だと思います。私は、55分あるこの番組の全編を見せていただきましたけれども、つくづくそう思いました。
ちょっと長くしゃべりすぎましたが、そういう意見に対して、もし反対なり、あるいは応援のご意見があればいただきたいと思います。あるいは池田さんもおつくりになった側として、いろいろご意見とか反論もおありかと思うので、釈明でも結構ですので、どうぞおっしゃってください。
●(社側)釈明になると思いますが、今、問題の提起として不十分ではないか、というご指摘がありました。我々スタッフの間で、その部分に関して事前にいろいろな議論をいたしました。統廃合の問題は現実問題としてあって、現地でも非常に議論になっていました。ご指摘のとおり、お金の問題も統廃合の理由の一つです。番組の中で使った「市町村合併の余波」という表現が、言葉足らずだったかもしれません。
「じゃあ、どうするんだ」と問題を提起する部分をどう描くかについて、ものすごく悩みました。その部分のボリュームを、どれぐらいにして、どれだけの説明をすればいいかということについては非常に悩みました。
結果的に番組がああいう形になったのは、失われつつある共同体意識に重点を置くことにしたためです。ですから統廃合の問題を取り上げるボリュームがかなり小さくなった、という面があると思います。
●しかし、拝見すると「こんないい学校が潰されようとしているんですよ」という番組ですね。ですから、先ほどお話がありましたが、こういう教育は良い教育ではないかということには、みんな賛成しますよ。こういういい教育環境というのは、どの学校にでも欲しいものだと思いますね。
しかし、こういう教育は小さい学校でしかできないのでしょうか。また、番組で紹介された学校がなくなって、ほかの小学校と合併したら、こんな教育はもうできなくなるのでしょうか。
1学年1人とか、学校中で20人ちょっとぐらいとか、こういう小さい学校でないと、こういう良い教育ができないということで、それをぜひやるべきだというのだったら、金がどんなにかかってもやろうということをはっきり訴えればいいのです。できないとなれば、どうすればいいのだということになるのですよね。
ですから、この番組に示された判断材料だけで、「だから地方自治体はよくない」と、「子どもたちは可哀相」「教育委員会はもってのほか」と言われたのでは本当に困るのです。
●番組をまとめあげる上で、現実を見れば、教育委員会の言うことがおかしいという判断はできません。統廃合の是非ということに誰も正解を出せる状況にありません。
「どうすればいいのだろう」というところは、番組を見てくれた皆さんに考えてもらいたいという意図もあったのです。問題提起の部分は番組のあちこちに、ちりばめたつもりではあるのですけれども、しかし、ご指摘のとおり、そこの部分に関しては十分に見ていただいた人に伝わらなかったのかもしれません。
●いい悪いは別として、誰が、どういう金で維持していくのだということが抜けていますと、もう問題の一番肝心のところが丸抜けになるのです。表には出しておられませんけれども、この番組は結果として、そういうことを訴える番組になっています。
紹介された小学校は、ほとんどが税金で維持されているわけですから、根本の問題もあわせて判断してもらうような番組でないと、ちょっとまずいのではないかという気がしたのです。
●均衡ある発展というのは税金をたくさん取れるところから地方へ回すということです。大阪などは自分らが払っている税金の3割を持ってきて、「3割自治をやらせてくれ」と、訴えています。その一方で、番組で紹介されたようなところだと、漁村ですから、おそらく90何%がよそからの助成でやっているわけなのです。
そうすると町の学校なり、地方財政を賄っていくのに全部県や国からの補助でやっていくという話になってくるわけです。ナショナルミニマムとして、ある程度は必要でしょうが、それをどこまで容認するかということです。みんなが同じ経済的な豊かさにならないといけないのかどうか、どこかで割り切らないといけないですよね。
同じ高さにならなければならないとなると、少しは効率化して合併せよという話になってまいります。自分たちは自分たちでやっていくということで、3割から4割は補助をもらうけれど、5割から6割は自分たちでやるという話ならばいいのですけれど、その辺の妥協点というか、均衡点をどこに持つかというのは難しい問題ですね。
●難しい問題ですよ。そこが問題の根幹になるのです。
●(社側)このほど読売テレビも加盟しております日本民間放送連盟とNHKが共同で、これまでありました、第三者機関を再編成しまして新たな機関を設立しました。
新しい第三者機関の「放送倫理・番組向上機構、BPO」は、7月1日に発足いたしました。これは、これまでございました「放送番組向上協議会」と「BRO、放送と人権等権利に関する委員会機構」を統合してできたものでして、第三者機関としての機能を、さらに強化して、人権の問題や青少年と放送の問題などに迅速、的確に対応していこうというねらいを持っております。これまで別個にありました視聴者対応窓口も一元化されて運営されているということでございます。
この機構の委員長には、これまで「BRC、放送と人権等権利に関する委員会」の委員長をされておられました清水英夫さんが就任されました。また二つの機関に所属していました「放送番組委員会」「BRC、放送と人権等権利に関する委員会」それから「放送と青少年に関する委員会」の三つの委員会はBPOの中に継承されまして、それぞれが独立性を保って運営されるということになっております。
BRCの委員長には飽戸弘さん、それから放送番組委員会の委員長には木村尚三郎さん、青少年委員会の委員長には原寿雄さんがそれぞれ就任し、以下ご覧のような委員のメンバーで、これから運営されていくことになっております。我々、放送局としましては、これらの委員会の円滑な運営に一層協力していくと共に、三つの委員会からいろいろ指摘されるような放送倫理上の問題が、もし起きますれば、改善策を含めた取り組み状況を報告したり、我々内部で放送倫理の向上を図っていくというようなことに努めていくということになります。
●この委員会が、人権侵害があったと認めたら、どういう措置をとるのですか。
●(社側)人権侵害があったと認定された局は、勧告に従い謝罪放送し、名誉の回復に努めます。また、いろいろな対応策を決めたり、それをBRCに報告して再発防止に努めることになります。
●それによって侵害された人の人権が回復することもあるでしょうが、何もないのに因縁をつけてくることもありますわな。
●(社側)まず受け付けるかどうかについて、事務局でかなり調査をいたしまして、受け付けるとなったら迅速に結論を出します。裁判と違って、半年ぐらいを目途に結論を出すことを目標に作業を進めることになっています。
BRCでは、この6年間に11件を受理し、そのうち2件については人権侵害があったと認定し、9件についてはそこまではいきませんけれど、放送倫理上問題があったとしました。
<視聴者センター部報告>
●(社側)続きまして、先月寄せられました視聴者の声を報告いたします。
6月の視聴者からの声の総数は6,176件、5月が8,600件余りと非常に多かったのですが、平常に戻った感じです。主な意見・苦情ですが、プロ野球中継に対しては、186件ありました。先月は600件ありましたから、およそ400件減っております。
この中で多かったのは、SMAPというグループがゲストでプロ野球中継に出演したのですが、これに対して「試合がメインなのか、このSMAPがメインなのか、どちらですか」「こんなゲストの声などは聞きたくない」「野球を見せてほしい」という意見がたくさんありました。
●社側)最後に次回の読売テレビ番組審議会の開催予定を確認させていただきます。次回は9月12日金曜日の午前11時から読売テレビ本社役員会議室、この場所での開催を予定しています。よろしくお願いいたします。本日はご審議ありがとうございました。
- 平成15年度読売テレビ番組審議会委員
- 委員長 熊谷信昭 兵庫県立大学名誉学長、大阪大学名誉教授
- 副委員長 馬淵かの子 兵庫県水泳連盟 顧問 元オリンピック日本代表
- 副委員長 川島康生 国立循環器病研究センター 名誉総長
- 委員 秋山喜久 関西電力株式会社 顧問
- 委員 金剛育子 能楽「金剛流」宗家夫人
- 委員 林 千代 脚本家
- 委員 阪口祐康 弁護士
- 委員 佐古和枝 関西外国語大学教授
- 委員 北前雅人 大阪ガス株式会社 代表取締役副社長執行役員
- 委員 谷 高志 読売新聞大阪本社 専務取締役編集担当