第431回 番組審議会議事録

1.開催年月日
平成14年4月12日
2.開催場所 読売テレビ本社
3.委員の出席 委員総数 11名
出席委員数 11名
出席委員の氏名 大島 靖、秋山喜久、熊谷信昭、金剛育子、林 千代、
馬淵かの子、野村明雄、尾前照雄、阪口祐康、佐古和枝、
老川祥一
欠席委員の氏名 なし
会社側出席者 土井共成(代表取締役社長)以下11名
4.審議の概要 テーマ及び視聴合評対象番組
視聴合評番組 ドキュメント'02
『見棄てられた理由 ~C型肝炎200万人の闘い~』
放送日時 2月17日(日)24時25分~25時20分
放送エリア 全国ネット
 番組審議会では、ドキュメント'02『見棄てられた理由 ~C型肝炎200万人の闘い~』について意見を交換した。
 委員からは「大変重い内容で、強いインパクトを受けた」「医学会、現場の医師、行政、患者がバラバラで、統合されていないことからくる、日本の医療の弱点が明確に描き出されていた。こうした、根本的な問題を、今後様々な場で論議していくべきだ」「C型肝炎の恐ろしさは聞いてはいたが、これ程までの危機感はなかった。問題の重大さを知らしめたという意味で、成功している」など、テーマとしたC型肝炎の実態を、的確に伝えているという意見が相次いだ。
 また、「国の無策という"罪の告発"と同時に、啓蒙の要素もあったほうが、バランスが取れたのではないか」「国会や厚生労働省の動きもフォローしてほしかった」など、さらに深い情報やとらえかたを求める声も上がった。
 この後、3月に寄せられた視聴者からの意見や抗議、苦情などについて概要を報告した。

【議事録】
(社側)番組のタイトルを『見棄てられた理由(わけ)~C型肝炎200万人の闘い~』としましたが、C型肝炎の罹患者は200万人をかなり上回るのではないかと言われています。「見捨てられた」と 表現したのは、15年間にわたって厚生労働省が、旧厚生省時代を含めて、この問題に関して非常に消極的であったため、そういたしました。
我々は、1年前に三浦先生という、自らC型肝炎から肝臓ガンに移行して、病と闘っている町のお医者さんと出会いました。彼は、肝臓癌に有効だといわれる新薬を使わせてくれという運動、「新薬認可運動」というのを病の身でありながら続けています。
そうした三浦先生の活動を縦軸にして、第2の国民病ともいわれるC型肝炎の蔓延の実態や、なぜ、国は放置し、今も積極的な対策をとれないのか、というところに迫りたいと思いました。
放送は2月17日だったのですけれども、この放送の後、視聴者の反響も大きかったのですが、他のマスコミからも反響がありまして、「薬害肝炎」という言葉が、使われるようになってきました。我々が放送した時点では、そういう言葉はなかったのですけれども、「薬害エイズ」「薬害ヤコブ病」と同じような問題として、新聞の見出しや、テレビニュースのナレーションなどでも「薬害肝炎」という言葉が出てきております。
そういう意味では、どれぐらいの大きさかは分かりませんけれども、一石を投じることができたのではないかと、思っております。 かなり苦労した取材でした。若い杉山記者が困難な取材に立ち向かったというところは、番組をご覧いただいて、感じ取っていただけたかと思います。

(社側)番組をつくる段階で、私が念頭に置いたのは、まず見ている人に少しでも、危機感を持っていただきたいということでした。C型肝炎は全く自覚症状がないために、気が付いたら、もう肝臓ガンになってしまっていて手遅れだった、ということがほとんどです。確実な治療はないのですが、見付けるのが早ければ早いほど、自分の生活を律して、お酒を控えるとか、疲れないようにするなどの、努力をすることで、肝臓ガンが発症する確率を低くすることが出来るのです。
私の母親と同じぐらいの年齢の人、つまり55歳ぐらいの方が最もリスクが高いので、そういう方々に見ていただき、危機感を持って「ちょっと血液検査へ行こうかしら」と思ってもらえるような番組にしようと心がけました。
そして、もう一つ心がけたことは、薬害エイズで行政の無策が罪になるという判決が出たのですが、C型肝炎も薬害エイズと同じで、何もしなかったことで厚生労働省の官僚は、罪を問われるべきなのではないかということを、描くことでした。そのことは表に出ていないから、責めを負うということにはなっていないのですが、行政の責任を少しでも明らかにすることによって、さらなる薬害がなくなっていけばいいな、という思いを込めてつくりました。

<VTR視聴>
大変重い内容でございますから、見ている者の気持ちとしては暗くなってしまう。しかし、強いインパクトを受けましたし、テレビの作品としては成功しているのではないかと、思います。
医学的に解明されていなかったころの、罹患者については、これはお気の毒ですけれども、どうしようもないというふうに思います。しかし、それから後の問題については、幾つかの問題提起がされていると思います。
一つだけ、教えていただきたいと思うのですが、新しい薬を厚生労働省が認可した場合に、その副作用等に対する責任というのは、国家賠償法の対象になるのでしょうか。それが厚生労働省として対策を進めていく上で非常に大きな壁になっているのではないでしょうか。
とすれば、番組で描かれていたような責任逃れの発言も、官僚の立場に立てば、ある程度は、やむを得ない部分があるのではないかと、感じます。その点はどうなのでしょうか。

(社側)まず結論から申し上げますと、日本の現在の制度ですと、副作用が出た場合、国家の責任が問われます。現に、過去に裁判所の判決によって国家賠償を命じられたケースがあります。
そのために、三浦医師は、アメリカの制度と同じような制度を、日本にも導入したいという思いがあるのです。アメリカの制度は、すべて患者側の自己責任です。製薬会社や行政などが情報開示をして、こんな副作用がある、こんな効果があるというのをすべて患者に知らせた上で、自分の責任のもとに、あえてその薬を使おうと判断をした人は、使えばいいという考え方です。

逆に言いますと、厚生労働省が認可した薬を、そのまま使って副作用が出た場合には、情報開示の如何によらず国家賠償の責任があるいうことなのですね。 私は、この番組に、行政の不作為の罪を告発するという視点と同時に、C型肝炎というものに対する一般的な啓蒙というか、知識を広める要素が、もう少しあった方が、バランスが取れたのではないかという印象を受けました。
10万人の署名とか、あるいは、厚生労働省を取り囲むという運動体の方々の活動も紹介されており、三浦先生も運動されているお一人かと思いますけれども、それよりも、三浦先生のように、地道に地域で医療活動を展開していかれるという点に、共感できました。やはり、個々のお医者さまの側にも、一定の責任はあるのではないかと、そういう印象を受けました。

番組を見終わって、ため息が出ました。200万人もC型肝炎に罹った人がいて、さらに、まだ自分がC型肝炎に罹っていることが分からない方が一杯いるというので「ええっ」と思いました。まず、その人たちのところに、医院なり、役所なり、保健所なりが行って、罹っているかどうかということを、きちっと検査をしないと駄目だと思います。
そういう意味では、この番組を見た人は、すぐにお医者さんに行って検査されているのではないかと思います。たくさんの方が見て検査を受けるきっかけになったのであれば、この番組は、つくった意義があったと思います。

言葉は知っていましたけれども、実際、番組を見て、いろいろなことを考えさせられました。
もし、ひとつの命を助けるために新しい薬を使えば、「こうこう、こういうリスクを背負いますよ」と言われた場合、多分、命を助けるために、リスクを背負う方をとると思うのです。 そのときには、命が助かることを優先しますけれども、その新しい薬の副作用が出た場合、結果的には、何年か後に製薬会社や行政の責任を問う、ということになるでしょう。それは、多分、人間のエゴから生まれることではないかと思うのです。
問題提起だけではなくて、その辺のところを、もう少し番組の内容に入れていただいたら、よかったと思いました。次の争いの焦点になるのではないかということを考えました。
何年か前に、お医者さんが、こういう事を言われました。つまり、「60代の人が輸血するときに、今この輸血をすることによって、HIVとかC型肝炎にかかるリスクがあっても、輸血を勧めます」と。
HIVやC型肝炎は、検査をしても、調べた血液が罹った直後のものであれば、罹っていることがわからないこともあります。そういうリスクがあっても、患者が60代であれば、平均的には寿命があと20年か30年だから輸血を勧めるというわけです。
しかし、それが若い方である場合には「考えてください」と、現実に親族の方に言われました。それを考えたときに、番組で、小さいときに血液製剤を使われたことが原因で、C型肝炎に感染した学生さんが出てきましたが、そのときに母親はどうしたのであろうか、ということを考えてしまいました。
それから、「私は被害者であり、加害者である」という三浦医師を縦糸にして、この番組をつくったことで非常に重いテーマを表現することが出来ており、よかったと思います。それと同時に、学生さんが二十歳になって、初めてC型肝炎に感染していることが分かったというやりきれない気持ちを話し、その二つの要素が番組に含まれていたために、訴える力が非常に強かったのではないかと思います。番組を見ている人たちに、いろいろなことを考えさせることが出来たのではないか、課題を与えたのではないかと思って、私は、この番組は非常に良かったと思いました。

私も、言葉としては聞いていましたけど、こうやって具体的に、いろいろな方々の活動とか、思いとかを見せていただいて認識を新たにし、勉強させていただいたなと思います。「大変なことだな」という思いがズシンと来ました。
番組を、息を呑むようにして見ていたのですが、見終わって、ではどうすればいいのだろうと、考え込んでしまいました。重たい気持ちで、「何とかしなきゃいけないことだよな」とは思っても、「じゃ、どういう方策があるんだ」「私に何ができるんだろう」と、そこにとどまってしまいます。
自分のことなら、きちんと管理しようということで済むのでしょうが、三浦先生などが一生懸命活動しているのを見ると、私もずっと市民運動をやってきましたから、何か応援が出来ないかと考えてしまいます。
見ている方の中には、共感して何か応援しようかな、という人もいるかもしれません。今回に限らず、いろいろなドキュメンタリーを見て、問題提起されて、「ああっ」と共感して、応援したいなと思うことがあるのですけれども、実際に何が出来るのかわかりません。
だから、そういうときに、字幕ででも「カンパはこちら」とか「送金はこちら」とか、具体的に表示していただければ、「何か自分にもできることあるのかな」「ささやかなことかもしれないけども何か支援できる」「ひょっとしたら後押しできる」などと思い当たり、空気も変わっていくかもしれません。そうした糸口を、提示していただいたら、もっと大きな協力の動きが生まれるかもしれないなと、今回に限らず、そういうことを時々考えます。
ただ実際に、それをするためには基本的な情報を、自分で納得できるぐらいはもらっておかないと、そう簡単に応援することはできません。今回、番組を見て、すごく深刻な問題だということは、よく分かったのですけれども、基礎的な知識がまだ私には十分に伝わらず、具体的な応援活動をしようというところに踏み出すまでは、ちょっと情報が足りないなというか、勉強が足りないなと感じました。
でも、いろいろなことを考えさせていただいた、とても貴重な番組だったと思います。

この番組は、非常にインパクトが強くて成功している番組だと思います。理由を2点、あげさせていただいて、最後に、これを踏まえて1点だけ、要望を出させていただきたいと思います。
まず、成功していると私が感じた理由の第一点は、今までも何度も繰り返されているように、組織の論理で、個人の生命身体という人権が侵害されているということを、侵害されている方の目からとらえるという、ジャーナリズム本来の視点でとらえていたことです。そのことによって番組を見た人に、また同じことが繰り返されて、今度は自分が、番組に出ておられた方の立場になるかもしれないというインパクトを与えている点が、成功した第一の理由だと思います。
第二点目ですけれども、これは当たり前のことなのですが、三浦ドクターを中心に据えることで、誰もが死というものと向き合わざるを得ない運命を抱えていると、見ている人に実感させたことです。番組の中では「砂時計」という言葉を使われていましたが、これは誰しも当てはまることで、その中でどう生きていくべきかという重い問題も提起されていると思います。
この2点の理由から、非常にインパクトのある番組になっていると感じました。
最後に要望ですけれども、この番組でも出ているように、この構造は、今までも何度も繰り返されている構造です。現在、規制緩和だとか、事前規制から事後規制へ、ということが議論されていますけれども、人の生命身体は、事後救済では救えない問題です。しかし、一方で規制緩和という時代の流れがあります。そうすると、そのギャップを埋めていくのは、ジャーナリストの仕事だと思うのです。
水俣病から始まりまして、今まで、この種の問題は多くありましたが、ほとんどの場合、被害が拡大してからの報道が中心だったと思います。これからは、もう一歩進んで、被害が拡大する前の報道が、マスコミにとって大きな課題となっていると思います。今後は、その方向へも、進んでいただきたいということを、私の要望とさせていただきます。

C型肝炎への危機感や、重大さを世の中に広く知らしめたという意味では非常に成功した番組だと思っております。我々も、身近にいろいろな人がいて、C型肝炎の恐ろしさは知っていたのですけれども、200万人と、ここまですごい人数にまで広がっているという意識は全然ありませんでした。それから、C型肝炎による発ガンの恐ろしさ、死に至る可能性の強いことも、この番組で知ったという意味で、大変よい番組であったと思います。
ただ問題は、この先、国として何をすべきか?ということで、国の無策を追及するだけでは、この問題は、なかなか解決しないのではないでしょうか。厚生労働省の責任を問えば問うほど、今度は逆に、新薬の審査がどんどん厳しくなり、100%近く安全だという証明が得られるまで、なかなか薬として認可されなくなります。ある意味では、国の責任と、早く新薬を使いたいという患者の願いとが、トレード・オフの関係になるということではないかと思います。
また、国の責任でやれということになると、(インターフェロンによる治療費が)半年に200万円で、患者数が200万人とすると、1年間に8兆円かかるという話ですね。そうなると財政的にも693兆円の赤字を抱えた国が、なかなかやりにくいという問題も出てくるのではないかと思うのです。
基本的には、米国のように自己責任、情報公開を徹底すべきです。国は出来るだけ早く国民に、いろいろな情報を公開し、研究者も、学者も、出来るだけ早く情報を公開するという中で、製薬会社なり、患者が、自分たちの責任においてやっていくという考え方に転換していかないと、常にこの問題はモグラたたきのように起こってくると思うのです。
ただし、その際には、投与される方に副作用というものがおこることがありますから、その辺をどう考えていくかということが必要になってくるのではないかと思います。ここからは、第2編として、国の医療行政全体を、どういうコンセプトでやっていくのか、これが、テレビ番組の対象になるかどうかはわかりませんが、表へ出してみんなで議論していくことが大事だと思いました。今の日本みたいに、何でもかんでも国の責任というふうに始めると、ますます中へこもってしまうと思うのです。

番組としては、非常にいい番組だったなと思っています。特に、気づかないうちに、とんでもない事態になってしまっているということを知らせるのが報道機関の使命であって、C型肝炎の被害にしても、最近でこそ、いろいろ報道されていますが、あまり気づかれないで今日に至ってしまっています。いくつか例がありますが、この番組はその一つなわけで、そういうことを大いに知らしめていくということは誠に大切なことだと思います。
 番組で古い映像が出てきましたけれど、売血の問題点をキャンペーンで指摘したのは読売新聞です。昭和30年代「黄色い血」キャンペーンで初めて輸血のための採血の方法に、善意の献血だけではなくて、売血というものがあり、お金を稼ぐための一つの手段になっていて、非常に汚れた血が増えて問題を起こしていることを知らせました。これも、新聞のキャンペーンがなければ、気づかれなかったわけで、そういう意味で、こういうことを報道することは非常に大事だと改めて感じるわけです。
ただ、当座は、ことの重大さが分からないというケースがしばしばあるのです。HIVもそうですし、ヤコブ病もそうです。担当のお医者さんも、国も、被害を出そう、などと思ってやっている人は、まずいないわけで、よかれと思ってやっているのです。
番組に登場している三浦さんというお医者さんも、患者を助けようと思って自分の血を輸血したわけなので、善意が仇になるというのは誠に不幸な現象ですが、そういうことも、事の一面にはあるのです。だから、問題はどこにあるのかというところを、もう少し整理をして提起していただくとよかったな、という気がするわけです。
つまり、その時点では、被害が出るのかどうかが分からない。しかし、本当に分からなかったかというと、必ずしもそうではなくて、HIVの問題もそうでしたが、実は、ある一部のところでは危険性が指摘されていたということがあります。それが、まともに取り上げられず、倉庫の中で書類に潜ったままになっている、という問題があるのです。
であれば、どうしてそれがきちんとした対応がとられなかったのだろうか、というところを、もう少し掘り下げて取材しないと、いけないと思います。同じようなことが、これからも、いろいろと出て来得るわけで、再発を防ぐためには、そういった問題が、なぜ、ここまでに至ったのかという分析がほしいな、という気がします。
この番組の中でも、(顔を出さず)音声で厚生労働省の役人が「お医者さんが悪い」と言うと、それに対してお医者さんの方は、「いや、それは国がやることだ」という水掛け論的なところがありましたが、これでは、お互いに責任をなすり合っているのだな、という印象だけで、結論的には何となく「国の無策」というところで終わっているような気がするのです。結果から見れば、国は無策だったと言えば、それで済んでしまうのですけれども、必ずしも確信が持てない段階で、ある施策を実施して、それに伴って、別の被害が出た場合どうするのでしょうか。仮に、私が国の立場だったら、当然いろいろなことを考えるだろうと思うのです。
「そんなことはかまわないからやっちまえ」と、もしも、やってしまうと――以前、小児マヒの生ワクチン問題というのがあり、特効薬と言われていたのに、何年か後になって副作用が出て、逆のことが言われましたが――いろいろな問題が予想されるわけです。だから、あと先を考えながら、どういうふうにしたら一番いいのだろうかということを、みんなで考えていく必要があると思うのです。
厚生労働省の方は、メディアに言いたがらないことが多いでしょうから、きちんとフォローするのは難しいことだと思うのですが、もう少し、そこら辺を丹念に取材し表現していくと、もっと啓蒙的な効果が出てくるのではないかと思います。
何となく国が悪い、国が無策だと言えば、それで納得してしまうというところで終わってしまうと、通常の薄っぺらな番組と同じことになってしまうので、せっかく、こういう貴重な努力をされての番組ですから、あと一歩踏み込んでほしかったと感じるわけであります。
特に、最後の部分で、せっかく国会で請願が採択されたのに、7か月経っても回答がないままだというナレーションで終わっているのですが、実際はどうなっているのだというところを伝えてほしかった。情報提供や、情報公開というのであれば、その部分は「今、ここまで来ているんだ」とか、あるいは「また机の上に放り出されたきり何もやってないんだ」とかを、取材すべきです。そして、では、どうしてそうなっているのか、というところも指摘をしていただいた方が、いいのではないかと思います。
「今もって回答がない」と、また放ったらかしにしているな、という印象だけで終わっていると、真実は何なのかということが分かりません。少し欲張った注文ですが、そのようなようなことを感じました。

私は、非常にやりきれない気持ちといいますか、持って行き場のない怒りのようなものが、こみ上げてきました。C型肝炎ですとか、薬害エイズとかが、漠然と怖いということはよく分かっているのですが、今回の番組で、いろいろと詳しい情報を得ることが出来ました。C型肝炎に罹った人が200万人で、また、罹っているかどうかも分からない方が半分もいるとか、そういう事実を具体的に知らされ、怖いものだなということを、改めて感じました。そういう意味で、多くの方に危機感を持ってほしいという、第一のねらいについては、非常に訴えるところが大きかったと思います。
 薬害エイズにしても、狂牛病の問題にしても、日本の国は次々にこういう問題が出てきますが、国の方だとか専門家が皆、責任のなすり合いをやって、うやむやで終わってしまっています。こういうことが次々に出ると、また、ほかにいろいろ出るのではないか、あるのではないかと、そういう怖さを感じます。そういう意味で、単発のドキュメンタリーで終わらせるのではなくて、第2弾、第3弾で、国の体質や日本人の体質の、どこをどういうふうに考えていかなければならないのか、という突っ込んだところを、具体的に指摘していただきたいと思います。

私が、非常に親しくしていた同僚教授が、HCV(C型肝炎)で現職中に亡くなりました。それを、目の当たりに見ていて、本当に切ない思いをしたのですが、この番組を拝見して、この問題はHIVの問題と同じように、本当にやりきれない思いがする事柄だと思います。
ただ、私が申し上げたいと思っていたのは、お医者さまも専門家なのですけれども、分かっていないことの方が多い、と言うとちょっと語弊がありますが、分からないことが一杯あるのです。特に人間は、最も複雑な、究極の機械みたいなものですから、お医者さまの能力が低いというのではなくて、対象が難し過ぎるというせいもあって、なかなか分かっていないことも多いのです。治療法にしても、よくよく調べてみたら、今まで定説的な方法が間違いだった、というようなことが、たくさんあるわけです。
科学者の立場から言いますと、分かっていないことの方が多いので、大変だと思うのですが、行政になると、専門家ではないですから、ますます分からないわけです。しかし、自己責任だというのは最終的には、そうなのでしょうけれども、全く分からない専門外の素人を助けてくれるのが専門家であり、行政ではないかと思うのです。最終の責任は自己責任かも分かりませんけれども、やはり専門家と行政とは、応分の責任があると思うのです。
そういう点で見ると、この番組のストーリーが、今現在、日本で流行しております「行政は悪で、一般というか民間――番組で紹介されたお医者さまも、この場合そうですけれども――は善」という、そういう画一的なパターンに沿ったストーリーになっているので、そういうストーリーだけでは、解決、ソリューションにはならないのではないかと思うのです。
この番組では、三浦さんというお医者さんが一生懸命進めようとしておられる新しい薬の問題についても、「今なお続く国の無策に迫る」という、とらえ方になっています。取り返しのつかない副作用や悪い影響が後で出るかもしれない新薬を、まあ大体よさそうだから使えというようなことを、行政が言うべきだというのでしょうか。
それは、とるべき対策をさっさと、とらなかった行政の責任が追及されるのと同じように、方向は違うけれども、後で何かが起こった場合には、やはり行政の責任が問われるいう意味では同じなのです。今なお続く国の無策の構造に迫る、と言われるけれども、その一方で、一つしくじれば、行政の責任が徹底追及されるということもあるので、画一的な割り切りで「行政は悪、民間、一般人は善」という、そういうストーリーだけでは進まないと思うのです。
そうすると結局は、情報を公開して最終的には自己責任だということなのでしょうけれども、この問題については研究者とお医者さまに頼るよりしようがないので、「お医者さまよろしく」ということになるのではないかと思います。

非常にいい番組だと思いました。「C型肝炎200万人の闘い」というタイトルのとおり、肝炎の方々が非常に増えていて、大変な問題になっているし、また肝炎に罹ったかもしれないと、心配な方々がたくさんいらっしゃるということは、よく分かります。そして、タイトルの後半の「見棄てられた理由(わけ)」ですが、こちらの方は非常に重要な課題で、この問題は未解決なのです。
これは、日本の医学、医療の弱点と貧しさが根底にあると思うのです。研究をやっている学会を中心にした活動、いわゆる学会のアクティビティーと、日常の医療を担当している医師会の先生方の努力、それから患者さん、行政などの理解と協力など、医療というのは総合戦なのです。
それらが一体となって、ビールスとの闘いとか、健康を守ることとかに、当たっていかなければならないのですが、それぞれが、きちっと統合されておらず、バラバラというのが日本の非常に弱いところだと思っています。そういう意味では、まだデベロップト・カントリーと言えないのではないでしょうか。
ですから、この番組は、非常に大きな問題提起を行っていると思っておりますし、こういう問題を医学会総会などで議論しなければならない、国民のためになっているのか、なっていないのかというのが一番大事ではないかと、私は訴えているのです。日本の医学は、先端的なことは相当のレベルまでいっているけれど、こういう点は非常に遅れています。
ですから、医学に関わる人々、全部が一緒になって国民の健康を守るということ、場合によっては国会を動かすということが必要です。国会でこういう問題が討議されることは、あまりありません。医療費の問題はやかましく言うけれど、こうした根本にある問題はほとんど討議されていません。そのことに、私は非常に不満なのです。
国民の健康を守るというのは、国として一番大事なことだと思いますが、これは行政だけでは守れないし、医師会だけでも守れないし、国民にその意識がないと守れないのです。いろいろなものを評価するにしても、患者さんの協力を得ないと、それができないのです。そういう点で日本は非常に遅れていると思うのです。
この薬が、いいのか?この患者さんは薬を飲んだ方がいいのか?外科で治療した方がいいのか?そういうことをきちっと評価するシステムがないのです。だから全部輸入品なのです。外国で評価されたものを、日本で使っているということです。日本で評価して外国に輸出したという例は、慢性疾患の場合は非常に少ないのです。日本は、システムの上で負けていると思っているので、それをつくらないと、一流の医療の国家とはいえないと思っています。
この番組は、そういう点の問題提起にもなっているので、私は、これを医者にも見せたいと思います。それから、この番組のテーマにはありませんでしたけれども、患者さんに、どのぐらい医療に参加していただけるかというようなことが、重要なことです。
外国の人は、例えば、心臓の動脈が詰まっているとか、首の動脈が詰まっているような場合、内科でやった方がいいのか、外科でやるのがいいのか分からないということになれば、成功するか失敗するかどちらになってもいいからと言って、患者さんがそのプロジェクトに参加してくれるというのです。
日本の場合は、動物実験みたいに自分が研究の材料になるのは嫌だと、自分は治してもらいに来ているので、そういう材料になるのは嫌だということで、合意していただけないのです。例えば、新しい薬の治験の際に、実薬と偽薬をそれぞれ試して、どちらがいいか調べなければならないのですが、患者さんになかなか参加してもらえないのです。
治験では、本当にいいかどうか分からないときは、偽薬と実薬を使ってみて、効果を比べなければならないのです。偽薬でも、それを投薬するために、患者さんが医者のところに来るだけで効果がある場合もあるのですが、偽薬と実薬を比べてみて、はっきりと実薬の方がよいという結果がでると、効果が確認できます。けれども、場合によったら実薬の方が悪いことだってあり得るわけです。
そういう、息の長い臨床研究が日本ではできない。患者さんに治験の対象になってもらえないのです。ということは、医療に対する不信があるのです。不信というか、誤解というか、モルモットになりたくないというわけですが、患者さんもそういうことではいけないと思うのです。
近代の医学は病理解剖をして、それからどんどん発展してきましたよね。病理解剖というのは、患者さんにとっては何のメリットもないのです。遺族にとっては、生き返るわけではないし、手間を食うだけです。けれども、近代医学の基礎というのは、それをベースにしてできてきているのです。
ですから、治療医学の方も、そういうベースがないと、動物実験だけでは駄目なのです。やはり、患者さんに治験などの対象になっていただくということがないと、駄目なのです。
外国の人は、患者さんにとって、いいかどうかが分からないことを、日本の医者は黙ってやっているのか、と言うのですね。患者さんも、それで満足しているのか、と言われると恥ずかしくて、なぜできないかということが、答えられないのですよ。
だから、患者さんも医療の当事者だと思ってもらわないといけない時代になっているのです。今までやったことがなかった先端的な治療をする場合は、患者さんに材料になっていただくような格好で、評価をやるわけです。動物実験もやって安全性を確認して、これを患者さんにも使うというときは、インフォームドコンセントをとって、倫理委員会を通って、それで行うわけですけれど、患者さんから「嫌だ」と言われたら、できないわけです。患者さんが「多少危険があってもやってもらいましょう」ということで初めてできるわけですね。
そのようにして、新しい医療というのは定着していくのですから、国民と、医療をやっている研究者、学会、それから行政、これが一体となるシステムが日本は非常に弱いと思うのです。バラバラでやっているのです。そこのところが非常に大きな問題なのです。
特に、21世紀は、症状のある病気より症状のない病気との闘いなのです。今は、症状がなくても病気の人がたくさんいるのです。生活習慣病などは、みんなそうです。高血圧にしても糖尿病にしても、肝炎しても、みなそうでしょう。症状が見えません。
けれども、戦争などでは、敵が見えなくてもミサイルを撃ちますね。だから、病気でも症状がなくてもやはり撃つ方法があるのです。慢性の病気、疾患の対策となりますと、組織戦になるわけですよ。研究者だけでもできないし、みんなが一緒になってやらないと守れないのです。
そういうことが、必要な時代になっているのに、日本は、認識がまだ低いと思うのです。学会の認識も低いし、医師会の認識も低いし、みんなの認識が低いと思うのです。これからは、こういう問題を解決するには、全体的なシステムをつくっていかないと解決しないと思うのです。
何かが起こったら、そのときだけ「あっちが悪い」「こっちが悪い」と言うだけです。どこもみんな悪いといえば、どこもみんな悪いわけですね。どこかが足りないと言われたくない、皆ターゲットになりたくない、ということでは解決しないのです。医療は、国家的な事業であり、国民の健康を守るのが一番大事なことだという思想で、真面目に取り組まないと、日本はまだ一流の先進国とは、なかなか言えない点があるのではないかと思います。
外国から、慢性疾患の対応について、日本では、なぜ原因を早く見つけ、対応できなかったのかと、言われるのですが、それは、システムがきちっとしてなかったということではないかと思うのです。それぞれが責任持ってやらないと、駄目です。学会などが、どうしてもっと強力に言わなかったのか、というようなことを、私としては言いたいのです。
学会で肝炎を研究している人たちは、「肝臓学会」をつくっているわけですが、そこで、「これでいいのか」という声が、どうして出てこなかったのかということも私は、言いたい気がするのです。
そういう意味で、番組で、国全体として意識がまだ少し足りないところを、もうちょっと言っていただいて、国会でしっかり、こういう基本的な問題を論議していただくことが必要だということを訴えてほしかったです。アメリカなどは、健康問題は国会で、もっともっとやっています。大統領が出ていろいろ議論したりしています。
日本の国会では、そういう議論はあまり聞いたことがありません。もっとしっかりやってもらっても、いいのではないかと思います。経済問題も大事ですけれど、健康問題も大事です。
この番組は、私にとっては、非常に印象深くて、よく、こういう難しい問題を取り上げたなと思っています。ちょっとしゃべり過ぎましたけれど、そういう印象でございます。

(社側)次に、視聴者センターから、先月に寄せられた視聴者の声を報告いたします。いよいよプロ野球が始まりまして、おかげさまで開幕2連戦は高視聴率を取ることができましたが、一方で今年から始まりました画面表示が「小さ過ぎて見にくい」「リプレイのたびに画面を横切るロゴマークがうるさい」「情報が多すぎる」など苦情が2日間で120件もありました。早速スポーツ局に、その旨を伝え、日本テレビとともに改良を加えたところ、今週の苦情は激減しております。
プロ野球中継は我が系列の生命線でもございますので、これからも、このようなメンテナンスを大事にしていきたいと思っています。3月は以上です。
  • 平成13年度読売テレビ番組審議会委員
  • 委員長    熊谷信昭   兵庫県立大学名誉学長、大阪大学名誉教授
  • 副委員長    馬淵かの子   兵庫県水泳連盟   顧問   元オリンピック日本代表
  • 副委員長    川島康生   国立循環器病研究センター   名誉総長
  • 委員    秋山喜久   関西電力株式会社  顧問
  • 委員    金剛育子   能楽「金剛流」宗家夫人
  • 委員    林  千代   脚本家
  • 委員    阪口祐康   弁護士
  • 委員    佐古和枝   関西外国語大学教授
  • 委員    北前雅人   大阪ガス株式会社   代表取締役副社長執行役員
  • 委員    谷  高志   読売新聞大阪本社   専務取締役編集担当