第423回 番組審議会議事録

1.開催年月日
平成13年6月8日
2.開催場所 読売テレビ本社
3.委員の出席 委員総数 11名
出席委員数 8名
出席委員の氏名 大島 靖、金剛育子、馬淵かの子、野村明雄、
尾前照雄、阪口祐康、佐古和枝、老川祥一
欠席委員の氏名 秋山喜久、熊谷信昭、林 千代
会社側出席者 土井共成(代表取締役社長)以下11名
4.審議の概要 テーマ及び視聴合評対象番組
視聴合評番組 NNNドキュメント'01
『老いて、追われて・・・ ホームレスからの脱出』
放送日時 4月22日(日)24:25~25:20
委員からは「これまで持っていたホームレスのイメージとは違い、働きたいという意志を持っていながら職が見つからないという現状もあることが分かった」「解決の糸口が示されず、やり切れない思いが残った」「番組では、温厚な人が登場していたが、実際はもっと様々な人がいる。リアリティに欠けていたのではないか」「ここ4~5年、急増しているというが、以前からホームレスはいた。どこが違うのかが描き切れていなかった」など、番組の内容について様々な意見が出された。
また、「女性が登場しなかったところに救いを感じる。男性は、家庭との結びつきが弱いためにホームレスになる傾向が強いのかもしれない」「改めて衣・食・住は生活の大前提だと感じた。これらの基盤を失う前に、何とか立ち直る事が出来るような方法がないのだろうか」など、ホームレスが生まれる背景にある問題にも言及された。

【議事録】
(社側) 現在、全国で推定3万人のホームレスと呼ばれている人たちがいます。その中で特に大阪は最も多く、1万人を軽く超えているという現状があります。大阪の放送局として、そうした実態を取材する必要があるのではないかと、考え、昨年夏から取材を始めました。
 とかくホームレスは怠け者で、仕事をする意欲がない、というとらえ方をされています。しかし、これだけ不況になっている中で、ホームレスが、どんどん増えている背景には、個人の資質だけではない事情もあるのではないか。とにかく、彼らの本音、彼らの生きざま、あるいは希望があるのかというところを含めて、ホームレスをきちんと取材したい、と考えました。
実際には、彼らから、すぐに話が聞けるわけではありませんので、ディレクターに「2か月ぐらいは、カメラなしで行ってこい」と指示しました。ホームレスの本音を、聞き出すために、クルーはカメラマンを含めて、カメラを持たずに、色々な場所を回って、取材の方針を模索しました。
 そこで分かってきたのは、彼らは、一概に怠け者とは言えないということです。実際に、彼らの80%が、いろいろな意味で空き缶拾いなどの仕事をしています。本当に、必死になって働いている姿というのを我々は目のあたりにしました。そうした実像を知らせる事で、今後、行政などが、何らかの援助を検討するきっかけにしたい、というのが今回の番組のねらいであり、意図であります。

全般を通しまして、この番組をつくられた方々が、「では、どうしたらいいのか」という解決の糸口が見つかっていないのではないかと思うのです。そういう、やりきれなさが、はっきりと出ていたように思います。
 社会的な問題提起としては大きな意味があると思うのですが、政治とか、行政を告発するというスタンスにとどまってしまって、「では、どうしたらいいのか」というところまで至っていない、というのが率直な感想です。
 非常に温かい目で、ホームレスを見ていることと、少なくとも追い払う思想がないということは、よく分かりました。しかし、それだけで、次につながる部分が、ないのではないかと思います。例えば、番組で紹介されていた民間のマンション「フレンド」ですが、どこから、どのような形でお金が出て、いわゆる社会福祉事業として、どういう形で運営されているのかなど、解決のヒントになりそうな具体的な情報が、番組を見ただけでは分からないのです。
 行政を責めても、あるいは政治を責めても解決になっていないわけですね。正直言いまして、残念だったと思います。
 もう一つ、あえて言わせていただければ、取り上げ方が情緒的に過ぎますね。もう少し、どうしてこういう状況になってきたかということの背景と、さらに、これは希有な例だと思いますが、立ち直った人のサクセスストーリーのようなものが、もう少し描かれていてもいいのではないかな、と思います。

番組では、4人の方を重点的に取材しているのですけれど、みんないい人ばかりでした。取材がやりやすい人だったのだと思うのですけれども、多分取材している過程では「お前らの来るところじゃないよ」とか、冷たく反発する人もいたと思うのです。比較的しゃべってくれたり、穏和な人を選んでストーリーをつくったのだと思うのですけれども、もっといらだっていたり、もっと猛々しい人が中にいるのではないかと思います。
 ちょっとすさんだ人だとか、アル中的な人だとか、集団生活に馴染まない人だとか、行政なんかくそくらえと考えている人が、もっとたくさんいるのではないかという思いがありますので、取材をするときに、激しく反発するようなシーンなどがあると、もっとリアルに感じられたと思います。

ホームレスが働きたいという気持ちを強く持っていることは知っていたのですけれども、やはり映像で生の姿を見、生の声を直接聞くことで伝わってくるものは大きいな、と思いました。これが、テレビの力かなと実感しました。ただ、伝わってくるものが大きいだけに、「じゃあ私たちに何ができるのだろう」という、どうしようもなさが残るのを、私も感じました。
 行政など、専門的な分野への働きかけというのは、なかなか、ひとりひとりではできないけれども、ひとりでもできることもあるのではないか、と思うのです。「カンパの宛先はこちらへ」とか「何か仕事がある方はこちらへどうぞ」とか、そういう投げかけ方をすれば、「それだったらできるな」と思う人がいるのではないでしょうか。

救いを感じたのは、女性がいないということです。高齢者全体では女性の方が人数が多いのですが、番組では、男性ばかりが描かれていました。だから、女性はどうしているのだろうか、という疑問を持ちました。こういう生活している女性が、もし登場したのなら、もっと私は悲惨な印象を受けただろうと思うのです。男性だから、まだ救われる点があるのではないかと、いう気持ちがしました。

(社側) 女性のホームレスは、全体から見ると多くはないのですけれども、確実に女性も増えています。ただ、どうして女性が男性と比べて少ないのか、ということについては、はっきりとは分かりません。ホームレスに聞いたところによりますと、求人が少なくなったとはいえ掃除などの軽作業が、まだ残されており、女性が働く場はあるけれど、男性の働き口は極めて少ない、ということでした。

そこは、非常に大事なところではないのでしょうか。女性の場合は家庭とのつながりが、まだあるのですが、男性の場合は、つながりがないというのか、自分から、それを切っているというのか・・・そういう問題と関連があるのではないでしょうかね。

そういう面から見ると、一種の男性の宿命みたいな感じもします。女性の方が、生きる力というか、人間のつながりというのをしっかり持っているのに対して、男性というのは、わりに、家庭や家族とのつながりから離れやすいというところがあります。生物学的にもそうした傾向があるのです。
 だから、ホームレスといった一つの極限の状態というのは、男性が持っている特性もひとつの要因になっているのではないでしょうか。

やはり、男の方は不器用なのですよ。男性(夫)は、家事や、本当につまらない仕事でも、やったらできるのにしようとしません。このホームレスの人でも、「それは女のする仕事だ」というような感じで突っぱねてしまって、しなやかにすき間を行くというようなことが、多分できなかったのではないでしょうか。
 ということは、家族に見放されてしまう、娘や息子からも見放されるという人には、突っぱったり、四角張ったりして、形を変えられない古いタイプの人が多いように思います。これから、私たち女の人が"教育"すれば、教育と言ったらおかしいですけれど、「協力して一緒にやろうよ」というような形にしていけば、しなやかに生きていけて、かたくななホームレスは減っていくのではないか、と思います。

空缶集めをしていた人は、番組で紹介された福祉マンション「フレンド」に、どうして入所しないのですか。

(社側) 家賃が支払えないからです。「フレンド」が公的なものであれば可能なのでしょうが、民間で運営しているので、家賃が払えない人を収容するのは難しいのです。
 しかし、野宿している、家がないということだけで、生活保護は受けられないという現実があるので、いったん「フレンド」にお金がなくても身を置いて、そこから生活を立て直していく、あるいは仕事を見つけていくというようなことも、例外的な機能として持っています。

「フレンド」では、生活保護を受けないと入所できないのですか。まず、「フレンド」に入って、そこで求職活動をやるのは駄目なのですか。

(社側) 一つの理由は、仕事があれば一番いいのですが、ない場合、最後の手段として残っている「生活保護」が、65歳未満であれば、現実には受けることができないということがあります。まだ働けるだろうと、就労できるだろうとみなされ、よほど特別な事情、それこそ病気にでもならない限り、生活保護は受けられないのです。
 野宿する前に何度も福祉の窓口を訪ねて、生活保護を受けられるように願い出ても受けられず、結局、ホームレスになってしまったケースなども番組で紹介しています。

私も、大阪駅の近辺を通るのですが、ホームレスの人も、結構いい物を持っているな、という印象を持っていました。しかし、この番組を見て、多少なりとも、また違う角度からの見方を得させてもらったな、と思います。
 一番強く再認識させられたと思ったのは、衣食住というのは人間の大前提なのだ、ということです。この番組を見ていても、ホームレスになってしまった状況の中では、なかなか前向きな発想は出にくい。そのためには、やはり衣食住というのが大前提なのかな、というのを感じました。
 もう一つ、悲しいな、と思ったのは、ホームレスの一人が娘や息子に会えない理由として、「コレ(指を丸めて)をせびりに行くからや」と話していました。その言葉を聞いたときに、「何でそうなる前に・・・」というふうに思ったのです。人間はギリギリの土壇場になって、後悔しないと分からない生き物だ、というのが何となく感じられまして、いろいろと考えさせられました。

まず評価したいと思うのは、番組をつくった側の意図の伝達が、ある意味で成功している点です。それは何かというと、ホームレスが単なる怠け者ではなくて、働かなければ生きていけないと考え、また、働く意欲もあるのだということが描けている、ということです。また、ひょっとすれば、あなた自身も会社がつぶれれば、そうなるかもしれない、彼らも普通の人なのだ、ということを、おそらく実際の取材を通じて描いた、ということではないかと思います。
 そういう意味では成功したと思うし、そういうことを伝えようとすると、もっともっと情緒的になりがちなのですが、この番組は比較的抑えた形で提起しており、私は良かったと思います。
 ただ、番組に出ていた人たちは、バブルが弾けて会社がつぶれたりなどしてホームレスになった人たちですね。しかし、野宿者なり、ホームレスというのは昔からいるわけで、こういう人たちばかりではないのですね。バブル期にいなかったかというと、いたわけで、数は今ほどではないにしてもいたわけです。そういう人たちは一体、この人たちと同じなのかどうかという疑問を、番組を見た人たちは感じたのではないかな、と思います。
 実は、私自身も30数年前に、こういった人々を取材したことがあります。この番組を見てびっくりしたのは、素顔をさらして名前まで出して、自分の身の上をしゃべっていたことです。これは、もう本当にびっくりするわけです。
 というのは、あの人たちというのは、自分がどういう経過でこうなったか、とか、自分がどういう素性の人間だ、ということを知られたがらない。匿名の世界を自らつくって、そっちに行っているという人たちも、かなりいるわけですね。これは昔から、そういう人がいる。
 それに比べて、最近の新たにドロップアウトしてきた人たちは、違うと思うのです。その違いが番組の中では、よく出てこないわけです。怠け者だと思われている人が、実はそうではない、というところを非常に強調しているのだけれども、「じゃあ全部がそうなのかね」ということに答えがないので、ちょっと違和感を感じました。
 それから、ボランティアの方々というのは大変立派だと思うけれども、では、「フレンド」というマンションが、どうやって運営されているのか、その辺が番組では分からない。もうちょっと説明があれば、我々も、それでは少しぐらいは、お手伝いできるのではないかなとか、いろいろなことが考えられるのですが、「こういうところがありますよ」というところで終わっていますから、見ている方は誠に、単にやりきれないとう思いだけが残ってしまって、非常にもどかしい感じがしました。

今までホームレスというと、怠け者とか、そういうふうな漠然としたイメージで見ていましたから、番組を見て、ちょっと身につまされるような思いがしました。それぞれ個人的には、いろいろな問題があったり、経緯があってホームレスになっていると思うのですが、その中では、仕事を探したいと思って、いろいろ訪ねても、なかなか仕事が見つからないという面もある、ということが分かりました。そういう面は、あまり知らなかったのですが、この番組によって知らされたという方も、私以外にも随分多いのではないかと思います。

(社側) 大阪にホームレスが多い理由の一つとして、これまで、日雇い労働が、失業した後の受け皿となっており、大阪のあいりん地区などに全国から職を求める人が集まってきていました。しかし、それが崩壊してしまったのでは、ないでしょうか。まず、日雇いの仕事を求めて大阪に来て、そこで仕事をしていたが、次第に仕事がなくなって野宿をせざるを得なくなった、というケースが大半だと思うのです。

(社側) 視聴者センターからの報告です。5月の1か月間、件数的にも、内容的にも、視聴者の皆さまから、厳しく叱られたという事例はありませんでした。
 ただ、いつものようにプロ野球中継を巡りまして、「いつまでも延長するな」とか、逆に「途中で切るのなら、もう最初からやめろと」とか、いろいろとお叱りは受けております。
 二元中継もありましたが、「読売テレビは巨人戦だけを放送せよ」といったような声もありました。しかし、この問題はデジタル化になって、多チャンネル化が実現されれば、解決の糸口が見つかるのかな、というふうに思っております。
 『ザ・ワイド』など、ワイドショーにも、最近、政治の話というか、政治家の言動を扱うことが多くなりまして、これに対して、特に田中外相に対して「悪口を言うのはやめろ」とか、また逆の意見があったりといった反応が、視聴者から出てきております。

(社側) 先日、読売テレビが被告となる裁判の判決が大阪地裁で言い渡されました。この裁判の内容と読売テレビの方針などにつきまして、ご報告いたします。
 今回、裁判となった番組は『ニューススクランブル』で、昨年の4月行われた、大阪府田尻町の出直し町長選挙について、選挙告示の日に放送した3分間の企画ニュースが問題になりました。
 この田尻町の出直し選挙というのは、もともと現職の町長が2代にわたって汚職事件で逮捕された、ということを受けて行われたもので、ニュースの中では、そういった過去のいきさつも含めて説明をしました。
 従って、前町長、元町長、両氏とも実名を字幕で出し、顔の映った映像を使用しました。そのことに対して、元町長が原告となり「実名入りの映像を放送したことはプライバシーの侵害に当たる」と、当社に対して1,000万円の損害賠償を求める裁判を起こしました。
 原告の元町長は、汚職事件で、執行猶予のついた有罪判決を受けています。ただし、昨年の4月、このニュースを放送した段階では、その執行猶予の期間も終わっており、裁判の過程で元町長は一私人として生活を送っていると主張し、前歴を公表されたことが、プライバシーの侵害に当たる、と主張しています。
 それに対して、当社が主張したのは、元町長の犯罪は、現職の町長という立場で行われた重大な権力犯罪であり、しかも2代にわたって行われたという異常事態を考えますと、出直し選挙にあたって実名も含めて報道することは、報道の社会的意義からして、正当なものである、ということです。
 それで判決です。要点は二つあります。
 1点は、実名で報道したということについてで、判決では「報道の社会的意義を認め、違法性はない」として、この点については、当社が主張していたことを、ほぼ全面的に認めました。
 ところが、顔を映した映像を使用したということについては「映像のインパクトの強さということを考慮した場合に、映像まで使う必要はなかった」との判断でした。従って、当社に対して1,000万円の損害賠償請求のうち、50万円の支払いを命じたということです。
 我々の方は、翌日、大阪高裁に控訴しました。控訴した理由は、実名報道と、映像の使用を分離した形で判断した点が、納得できないということです。
 日常、我々がニュースを放送する場合は、当然、人権の問題、あるいはプライバシーの問題などを考えて、実名でいくのか、匿名でいくのかという判断は慎重にしています。実名で報道すると判断をしたときには、映像の使用も一体として報道するというのが映像メディアである我々の基本的な立場です。映像を中心にしたテレビ報道の特性を考えますと、今回の判断は、テレビ報道の根幹に関わると考えています。
 当社の問題だけではなくて、テレビ報道全般にわたる問題だと理解していますし、判決では「動く絵だけではなくてスチール、写真についても不可」という判断をしていますので、新聞報道にも影響が出るものと思います。
 そういう観点から、直ちに控訴すると同時に「読売テレビの控訴にあたる見解」として「判決は社会的意義があるとして字幕による実名報道を認めた点で評価できるが、映像の使用は認めていない。これはテレビ報道の特性を否定するもので承服し難い。テレビ報道においては、字幕と映像は一体というのが一般的で、使用した映像も、元町長が現職当時、町長室でインタビューに答えたものを6秒間、実名の字幕つきで放送したもので、人権にも十分に配慮しており、判決の『前科とともに放映することは、原告が有罪判決を受けたことを公表する方法としては極めて効果が大きい』という指摘は納得できない」、こういう見解を、社外にも正式に発表しました。
  • 平成13年度読売テレビ番組審議会委員
  • 委員長    熊谷信昭   兵庫県立大学名誉学長、大阪大学名誉教授
  • 副委員長    馬淵かの子   兵庫県水泳連盟   顧問   元オリンピック日本代表
  • 副委員長    川島康生   国立循環器病研究センター   名誉総長
  • 委員    秋山喜久   関西電力株式会社  顧問
  • 委員    金剛育子   能楽「金剛流」宗家夫人
  • 委員    林  千代   脚本家
  • 委員    阪口祐康   弁護士
  • 委員    佐古和枝   関西外国語大学教授
  • 委員    北前雅人   大阪ガス株式会社   代表取締役副社長執行役員
  • 委員    谷  高志   読売新聞大阪本社   専務取締役編集担当