第416回 番組審議会議事録

1.開催年月日
平成12年10月13日
2.開催場所 読売テレビ 役員会議室
3.委員の出席 委員総数 11名
出席委員数 8名
出席委員の氏名 大島 靖、熊谷信昭、林 千代、馬淵かの子、
野村明雄、尾前照雄、阪口祐康、小谷直道
欠席委員の氏名 秋山喜久、金剛育子、佐古和枝
会社側出席者 土井共成(代表取締役社長)以下11名
4.審議の概要 テーマ及び視聴合評対象番組
視聴合評番組 アニメ「犬夜叉」
放送日時 毎週月曜 午後7時00分~7時30分

【議事録】
アニメの世界では妖怪の現実離れした動きでも自由に大きくできて、すごく夢があると思います。妖怪をやっつけるのは構いませんけれども、出来ればあまり人を殺したり、ドバーッと血が出るような残酷なものではないものにして欲しいと思います。

この話はまことに荒唐無稽に見えます。しかし、物語の筋そのものはなかなか面白そうで、私が昔、立川文庫の忍者ものなどを読んで血湧き肉躍ったのと同じように今の子供たちは楽しむのだろうと思います。ただ、ちょっと気になったのは犬夜叉の言葉が、ちょっと、きついのではないでしょうか。

(社側)全く、そのとおりで「ばばあ」とか言っております。しかし、この物語は、犬夜叉とかごめの2人の主人公の成長物語なのです。犬夜叉はこれから主人公のかごめと一緒にある目的を持って旅をします。その旅を経て彼が成長していくわけですから、初めからいい奴にしてしまうとその辺が見せられないものですから、ちょっと汚い言葉を使う設定になっております。

犬夜叉が、後々は良い少年になっていくいう意味からいえば、今はアンチテーゼという形で悪く描くというストーリーづくりは非常によく分かります。多分、面白く展開していくのではないかと思って興味深く見せていただきました。原作の劇画は静止画ですけれども、アニメになったら動いていますよね。その意味からいうと、手がちぎれたり残酷な部分が過剰に描かれているところがあると思います。

珍奇なるものに憧れる気持ちですとか、神聖なる近寄り難い権威ですとか、あるいは異常性とか、超能力とか、そういったものに対する憧れというのは、誰もが持っていると思うのです。それに血湧き肉躍るアクション性が結合し、本当に楽しい番組になると思います。最後は、勧善懲悪で着地することを強く期待をしているところです。

この作品には現代人が忘れてしまった何百年もかかって培ってきた日本人の心理を描く事も含まれているということです。具体的には、どのような形でそういうものが示されるのか、という点に興味があるのですが、例えば鳥居をくぐると不浄なことや殺生はできないというような心理、教えられて習慣、感覚になっていたようなもの、という意味ですか。

(社側)今回も出てきた「村」があります。あの集落は「かえで」という巫女が治めているのですけれども、人間と妖怪が共存できるような世界を求めています。その集落の日常を写すことによって戦国時代の人間と畏れの対象となるものとが共存する姿が描ける。また、15歳の女子中学生のかごめがその世界に行っているわけで、現代人である15歳の少女の目を通した戦国時代の報告みたいなところが描けるわけです。モノローグが幾つかありましたけれども、「なぜ」とか「どうして」というところの一つひとつが、今回のフィクションの世界を我々現代人がのぞいている感じにしたい、15歳の女の子の素直な気持ちがその時代をどう見ていくかという感覚を、これからもストーリー進行上大事にしたいと思っています。

「いよいよ21世紀は女の世紀だなあ」という印象を受けました。ひと昔前なら、オバケに古井戸に引きずり込まれた女の子は、ただもう親と家を恋しがってめそめそ泣くだけで、それを勇ましい少年が出て来て助ける、というのが日本の物語ですね。この番組では古井戸に引きずり込まれて見たこともないオバケが出てきても全然怖がっていない。それで男の子が木にへばりつけられて「何だったら助けてあげようか」というような女の子で、これはまさに女の世紀を象徴していると感じたわけです。

ストーリーの速さに新しさを感じました。テレビというよりも、何かテレビゲームみたいな速さで、活劇場面などはもう目まぐるしくて、子供以外はついていける人はあまりいないのではないかと思うぐらいでした。私などはもうちょっと緩急をつけて欲しいと感じました。神社の空気に畏れがあるとか、不気味さがあるとかというような雰囲気を出す場合には、もうちょっとじっくりと、そこで間を置かないと、怖さとかを感じないのではないでしょうか。井戸の中は怖いよとか、大きい樹齢千年の木の前でシーンとした感じというのを味わう間もなく、次へ行ってしまっているような感じがしました。

アニメというのは映像と音でストーリーを伝えていくわけですが、それだけにイマジネーションも広がりやすくて、作者の意図が文字よりも伝わりやすいと思います。ただ他面、文字では読む人が場面場面を想像すると思うのですが、アニメは音と映像で見る人に訴えるために、それがどうしても欠けてしまうというデメリットもある。それだけにアニメの善し悪しを決めるのは、テーマをどこに持って来て、それをどう訴えるかにかかっているのだろうと思っています。この作品が狙っておられるところは、畏怖心とか、日本の自然に潜む神々とかだと思うので、単なるエンターテインメントで終わるのでなく、そこを詰めていかれたらいいのではないかと思います。特に四魂の玉というのがその畏怖の象徴で、それを飲み込んでしまうと無敵になって傲慢になる。畏怖することを忘れてしまうと人間というものは傲慢になるんだよ、というあたりが究極の意図かと思うので、そういうメッセージが伝わるような作品になってほしい、と期待しております。

500年前の世界に引きずりこまれてもまた現代に戻れるという仕掛けですと、絶望的なものがこの世にはないという印象を見る人に与えます。例えば、人を殺しても死刑にはならないとか、監獄へ放り込まれてもこの世は終わりではなくて、またすぐに出て来る事が出来る、とか、底のない井戸に引きずり込まれても現世に帰ろうと思えばしょっちゅう帰れるとか、そういう感覚ですね。そういうイージーな感覚にも通じるような気もします。要するに、すべて楽天的に、楽に考えよう、という風潮と通じる気がします。

視聴者センターが9月の1ヶ月間に、視聴者の方から受けた声の総数は5,661件です。この中で、苦情・抗議が600件と多くなっています。その主な原因は、ジャイアンツの優勝が決まった9月24日の夜、試合終了後も祝勝会の中継などでかなり大幅にジャイアンツ優勝関係の番組を延長したため、「いつまでやっているのか」という抗議が殺到したことによるものです。また、この番組の後に『サイコメトラーEIJI・SP』という、若者向きの人気番組の放送予定がありまして「いつから始まるのか」という苦情と問い合わせを多数いただきました。  件数の順番では『おもいッきりテレビ』『ザ・ワイド』と続いていますけれど、68件、66件という数で通常の月よりは少なく、特に一つのテーマに苦情が集中する、ということはありませんでした。
  • 平成12年度読売テレビ番組審議会委員
  • 委員長    熊谷信昭   兵庫県立大学名誉学長、大阪大学名誉教授
  • 副委員長    馬淵かの子   兵庫県水泳連盟   顧問   元オリンピック日本代表
  • 副委員長    川島康生   国立循環器病研究センター   名誉総長
  • 委員    秋山喜久   関西電力株式会社  顧問
  • 委員    金剛育子   能楽「金剛流」宗家夫人
  • 委員    林  千代   脚本家
  • 委員    阪口祐康   弁護士
  • 委員    佐古和枝   関西外国語大学教授
  • 委員    北前雅人   大阪ガス株式会社   代表取締役副社長執行役員
  • 委員    谷  高志   読売新聞大阪本社   専務取締役編集担当