夫の財産リストとモラハラ被害の証拠を揃え、離婚協議へ。裁判に持ち込もうとする夫に対し、不貞行為の証拠を提示し、離婚に同意させる。熟年離婚では入念な準備と慎重さが離婚後の生活を大きく左右する。
一人娘の結婚式を終え、自宅に帰ってきた専業主婦・西園寺文子。夫・正は礼服を乱雑に脱ぎ、ソファで大きないびきを掻いて眠りだす。文子はため息をつく。この時、正の健康診断書を見つめ…。
――1年後の袴田法律事務所。文子はフリー調査員・梅本くるみ(渡辺直美)から、夫・正が教え子である女子大生・浦井亜沙子と腕を組んで歩いている写真を見せられていた。これで有利な条件で離婚できると安堵する文子。実は彼女、1年前のあの日、離婚を決意していた。夫の健康診断書にあったどの検査項目にも「良好」という結果が並んでいて、しかも、推定寿命の欄には「89歳」とある。夫は今年で64歳、娘も嫁いだ今、あと25年も暴君な夫と2人きりで暮らすなんて耐えられない…。文子は思い切って、袴田法律事務所の扉を叩いた。そしてこの1年、弁護士・袴田幸男の指導の下、「完璧な熟年離婚」に向けて、入念に準備を重ねてきた。袴田によると、熟年離婚で重要なのは「離婚後の生活設計に必要な資金」。特に専業主婦の場合、生活資金のめどが立たない限り、離婚はしない方がいいという。これを受け、文子は生け花教室を始め、この1年で124万円も蓄えた。また、袴田によると、熟年離婚によって妻が得られる可能性があるお金は大きく分けて「財産分与」「年金分割」「慰謝料」の3つ。「財産」に関しては、たとえ夫名義であっても、妻にも半分の権利がある。文子は海外ドラマ『鋼鉄の女スパイ マリリン』を参考に、夫の預貯金や保険をはじめ、隠し財産を調べた。「年金」については、日本年金機構に問い合わせて金額を教えて貰う。そして、問題の「慰謝料」。少しでも多くの慰謝料を得るため、文子は夫に婚姻を継続しがたい不法行為がないか調べてきた。そして今回、女子大生との2ショット写真をようやく得たのである。だが、くるみが撮った写真では、不貞行為の証拠としてはまだ不十分。袴田は文子に、くるみが決定的な証拠を掴むまではもうしばらく辛抱するように忠告するが…。
その日の夜、西園寺家。「こんな時間までどこをほっつき歩いてんだ!」生け花教室で帰りがほんの少し遅くなった文子は、正に怒鳴りつけられる。文子がいくら謝っても、正の怒りは収まらない。「生け花教室など辞めてしまえ」と、文子の大切にしている花ばさみを捨てようとする。文子はとっさに花ばさみを胸に抱き、家を飛び出してしまう…。
文子が向かった先は、袴田法律事務所だった。しかし、有利な条件で離婚を成立させるためここは我慢するよう、袴田をはじめ野々村香苗(矢田亜希子)、アルバイト・篠塚里奈(岩﨑名美)、そして、大家の遠山芳江(美保純)に諭される。一度は納得し、家に帰ろうと立ち上がる文子だったが、めまいを覚えてしまう。文子の体はもはや限界に来ていた。「…私、このまま一緒にいたら…あの人を殺してしまうかもしれない…」と花ばさみを握りしめる文子。彼女の悲痛な叫びに、袴田はついに立ち上がる。
袴田は翌朝、文子の代理人として西園寺家を訪ね、正のモラルハラスメントを理由に、離婚請求をする。正は頑なに離婚を拒否。文子には一銭も渡さないと、西園寺家の顧問弁護士・中谷卓也を立ててきた。中谷は2人を元のサヤに収めようと、「文子が生け花教室を始めて、家庭をないがしろにした」と主張し、文子の落ち度を攻めてくる。ところが、袴田は自信満々に、文子の日記を差し出した。文子は袴田の指示でこの1年、自身がいかに夫に尽くしてきたか、家事の記録を写真に撮り、毎日、事細かく日記に綴っていたのだ。そこからは夫から受けたモラハラも垣間見れて…。ぐうの音も出ない中谷。ここはひとつ文子に謝り倒して、離婚請求自体を取り下げてもらうよう、正にアドバイス。正も渋々、了承し、結婚して初めて文子に謝るが…。
「そんな軽い頭を下げられても、どうにもならん…」
文子の言葉に、ぎょっとする正。だが、これは正がいつも文子に放っていた言葉だった。確かに謝罪の言葉を口にしていた正だが、一体、妻が自分の何に傷つき、苦しんできたか、全くわかっていなかった。呆れて思わず、笑ってしまう文子。すると、正は激高し、文子に掴みかかる。とっさに正を止める中谷弁護士。中谷は文子の意思は固く、慰謝料を最小限に食い止めるためには調停、そして裁判に持ち込むしかないという考えに至る。しかし、正は離婚すること自体、納得出来ない。「お前のような世間知らず、別れて一人でやっていける訳がない!絶対に後悔するぞっ!」と捨て台詞を吐いて行く。
その言葉の通り…。文子が生け花教室に行くと、誰も生徒が来ていなかった。刹那に正が裏で手を回したのかと思ったが、そうではなかった。西園寺家は代々の名士の家柄で、生徒は皆、文子が西園寺家の妻だから習いに来ていたのだった。そして今回、離婚問題で揉めているという噂を聞きつけて、皆、教室に足を運ばなくなったのだ。袴田法律事務所に赴き、意気消沈する文子。かと言って、これまでの生活に戻るのは出来ない。たとえ調停や裁判で慰謝料の額が減らされることがあっても、前に進むしかない……。そんな文子に、袴田は言う。調停の前に、もう一勝負しよう、と。
文子は数日後、正を呼び出した。文子には袴田と香苗が同行し、正も弁護士の中谷を連れてきた。ここは34年前、正が文子にプロポーズした場所で、正は妻が家に戻ってくるものだとタカをくくっていたが、勿論、そうではなかった。文子は結婚して34年間の悲しみを正にぶつける。文子が娘を産んだ時、何の労いの言葉もなく、「なんだ、女か」と正が吐き捨てたこと、正の度重なる浮気に悩まされたことなど…。だが、弁護士の中谷は言う。そのようなことでは法的に婚姻生活を継続しがたい決定的な理由にはならないし、過去の不貞行為も証拠がないので慰謝料発生事由にも当たらない、と。正もこうなったら裁判や調停で徹底的にやり合うしかないと強気に出る。ところが、その時だった。「残念ながら、裁判になって困るのは西園寺さん、あなたの方ですよ」袴田が写真を差し出した。それは正が教え子である女子大生の亜沙子とキスしたり、ラブホテルに入っていく写真だった。くるみの調査が間に合ったのだ。ところが、正は「ただのつまみ食いだ」と開き直る。中谷も不貞行為の慰謝料なら大したことないと一蹴する。だが、袴田は負けていない。「スキャンダルになりますよ。教え子との不倫は」と。愛人が教え子だと知らなかった中谷はギョッとする。確かに中谷の言う通り、裁判をしても慰謝料は少額で済むかもしれない。だが、このことが裁判で公になれば、大学教授の職は失い兼ねない。大学教授という仕事は正の人生にとってすべてだった。このことを十分、理解する文子は、裁判になる前に離婚を受け入れてもらえるよう、正を、34年前、共に人生を歩んで行こうと言ってくれたこの場所に呼び出したのだ。これは、妻として最後の情けでもあった。正は返す言葉も見つからず、「そこまでして、俺と別れたかったのか」と呟いた。文子は1年前、夫の健康診断書を見た時、自分の人生についても考えていた。自分ももう若くない。とはいえ、これからの人生も長い…。迷うこともあるが、これだけは言える。「西園寺文子のまま死にたくなかった」文子は正に深々と頭を下げ、力強い足取りで去っていく。一方、正は力尽き、その場に座り込む。そんな夫婦の最後の姿を見守る袴田と香苗、中谷…。
こうして文子と正の離婚は成立する。しばらくして文子の生け花教室には、生徒が戻ってきていた。どうやら、正が生徒たちに戻るよう自ら掛け合ってくれたようだ。今となっては、これまで自分に尽くしてくれた文子に、正は感謝さえしていた。
袴田は言う。「いい離婚とは、人を成長させるものなんです」と。