今回の配達先は100万人以上の日系人が住むというブラジル・サンパウロ。この町で日本語教師を務める赤堀園子さん(32)と、滋賀県に住む母・典子さん(59)、妹・聖子さん(30)をつなぐ。園子さんが嫁いだのは、日系三世の三味線奏者・雄三さん(26)。だが地球の裏側への嫁入り、さらには経済的な不安から、母は「結婚なんてとんでもなかった。2,3年は承諾しかねた」と振り返る。
園子さんは大学を卒業後、日本で一度就職したものの、友人の勧めで青年海外協力隊として初めてブラジルへ。雄三さんとはこの時に出会った。任期を終えて帰国したあと、雄三さんとの関係は恋愛へと発展。「両親に結婚を反対されましたが、最後は“反対しても、自分たちがあなたを幸せにすることはできないから”と…」と、最終的には認めてもらった園子さん。二人は昨年7月に結婚し、サンパウロで新しい人生をスタートさせた。現在、園子さんは、日系ブラジル人を中心に150人の子供が通う「平成教育文化学院」で、日本語教師として働いている。
園子さんから見ると、夫の雄三さんは少し変わったところがあるという。「おじいちゃんやおばあちゃんが使っていた日本語をそのまま使うので、洋服のことを着物と言ったり、床を土間と言ったり、私たちが知らない日本語を使う」というのだ。新婚の二人の家には仏壇があり、雄三さんは朝晩2回、仏壇にお供えをする。サンパウロでは町の中でも、人々の生活にたくさんの日本文化が溶け込んでおり、また、今では日本ですらあまり見られなくなった習慣が、ブラジルの日系人の生活には残されているのだ。
雄三さんが講師を務める三味線教室も大盛況。学んでいる日系人たちは「三味線には日本人としてのアイデンティティを感じる」「演歌が好きで、バックで演奏している三味線に興味を持った」と、日本らしさにとても興味を持っている様子だ。演奏家としても活動している雄三さんは、ある日、日系人がほとんどいない地方の町で演奏を行った。お客さんはこの町の小中学生。音楽教育の一環として日本の音楽を聴きに来たのだ。三味線の認知度は低いが、その情熱的な音色とリズムはまたたく間にブラジルの子供たちを魅了し、会場から大きな手拍子が湧き起こった。マネジャーとして同行した園子さんは、そんな夫を誇らしく、そして羨ましく思う。園子さん自身、教師として「日本人の血を持ったブラジルの子供たちと日本をつなげたい」という夢があるからだ。
そんな想いを胸に、毎日生徒たちと向き合う園子さん。だが、あえて日本語しか使わない園子さんの授業は、日本語を話さない生徒たちにはなかなか面白みが伝わらず、興味を持ってもらうのが難しいようだ。そんな園子さんに、日本の家族から届けられたのは日本の絵本。授業の助けになるようにと、子供にも理解しやすい愉快な内容のものを母が選んでくれたのだ。添えられた手紙には、ブラジルでの娘の幸せを切に願う家族の気持ちが綴られていた。園子さんは「どんな言葉を使っても感謝しきれないぐらいありがたい」と感激する。
翌日、園子さんはさっそく授業で子供たちにその絵本を読んで聞かせる。普段は騒がしいブラジルの子供たちも、日本から届いた絵本に興味津々で聞き入って…。