今回の配達先はアメリカ・ロサンゼルス。映画産業の中心地・ハリウッドで、撮影のための小道具を扱う会社のスタッフとして働く小林盛治さん(49)と、滋賀県に一人で住む母・かず江さん(80)をつなぐ。音楽が好きで、最初はミュージシャンを目指してアメリカに渡った盛治さん。母は「どういうきっかけで映画の世界に入ったのか理由は聞いていませんが…今はどんな仕事をしているのか見てみたい」と話す。
盛治さんの職場は1000坪もある巨大な倉庫のような建物。扱う小道具はおよそ10万点。映画やCM、ミュージックビデオなどを制作する会社からの要望に対応し、そのシチュエーションにぴったりの小道具を選んで貸し出すのが盛治さんの仕事だ。
アメリカの音楽に憧れ、20年前にアメリカへ渡った盛治さんは当初、楽器店で働きながら生計を立てていた。音楽で成功する夢は叶わなかったが、そこでギター修理を身につけたことが転機となった。楽器店の常連だった現在の会社の社長が、盛治さんの腕を見込んでスカウトしたのだ。そんな手腕が特に発揮されるセクションが、楽器を集めたミュージック部門。ギターだけでも300本が揃う。昨年日本でも公開された音楽映画「ランナウェイズ」の音楽セットは盛治さんが担当したものだ。さらに日本やアジアが舞台の作品は盛治さんの独壇場。「ラストサムライ」の小道具も盛治さんが手がけたという。
古いものや特殊なものはオークションで落とすことも多いが、どうしても手に入らないものは自ら作るという。ローリングストーンズの再現VTRで使用されたベースギターも盛治さんのカスタムメイドだ。「当時、何本も作られたものではないので、探し出すのは無理。これは撮影の2日前に写真が送られてきて、僕が似たベースをペイントし直し、似たパーツを作って仕上げたもの。アメリカには“Show must go on”(何があってもショーは続けなければならない)という言葉がある。何があっても撮影に間に合わせる…そういう強いポリシーはありますね」。ハリウッドの小道具業界で日本人は盛治さんただ一人だという。アメリカ人ばかりの世界で認められるには、相手の求める以上のものを提供しなければならないし、そのために人一倍の努力を欠かさない。そんな精神で盛治さんは高い信頼を勝ち取ってきたのだ。
今も壊れた楽器の修理や定期的なメンテナンスは盛治さんの大事な仕事。「昔から工作が好きだった。手先が器用なのは、洋裁が得意な母親譲りだと思う。母とは4,5年に1度しか会えないが、会うたびに年を取ったなぁと感じます。病気で手術をしたりして、心配も増えましたね」と、盛治さんはひとり日本で暮らす母の身を案じる。
そんな母から届けられたのは、3年がかりで手縫いした見事なキルトのタペストリー。「私は元気にやっているから心配せず、あなたは大好きな仕事に打ち込んでください」。そんな母の想いが込められていた。盛治さんはタペストリーに顔を埋めると「実家の匂いがします。今年は里帰りしたくなりました」と、母の想いに感激する。