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#155「ベルギー/アントワープ州メッヘレン」 7月3(日)午前10:25〜10:55


 今回の配達先はベルギー北部の小さな街、メッヘレン。ここで似顔絵師として活躍する佐藤恵美さん(30)と、大阪府羽曳野市に住む父・安平さん(69)をつなぐ。仕事も結婚もベルギー行きもすべてひとりで決めて行動してきた恵美さん。厳格な父とはずっとすれ違いが続いているという。「娘は教育大学在学中に似顔絵を描き始めた。教師になるものとばかり思っていたのに…」と、父は娘の考えがいまも理解できないようすだ。

 恵美さんは昨年9月、ベルギー人で同じ似顔絵師の夫・ヤンさん(53)と共に、ベルギー初の似顔絵専門店を開いた。実はベルギーにはプロの似顔絵師がほとんどおらず、似顔絵を描いてもらう習慣もないという。そんな数少ない似顔絵師のひとりであるヤンさんは、似顔絵世界大会で優勝経験をもつ、ヨーロッパ似顔絵界の第一人者であり、高校の美術教師でもあるのだ。

 2人の間にはもうすぐ2歳になる長女がおり、恵美さんは現在2人目の出産を目前に控えている。店先では、大きなお腹の恵美さんが初対面のお客さんを前に、その人の特徴や、一番良い表情を瞬時に捉え、一気に描いていく。ベルギーでは珍しい似顔絵のライブに、街を行く人々も興味深そうに見入っている。

 恵美さんが独学で似顔絵を描き続けて10年。その原点は大阪・天王寺の歩道橋にある。大学時代、絵が大好きなのが高じて路上似顔絵師を始め、そこで似顔絵の魅力にはまったという。「相手の反応がダイレクトに伝わることが、自分自身の感動を呼ぶものなんだと初めて知りました」。その後、アメリカで開催された似顔絵大会に出場。ヤンさんと出会い、結婚を機にベルギーへ渡った。

 それから3年。ベルギーで家族を持ち、幸せな日々をおくる恵美さんだが、ずっと心に引っかかっているのは父のこと。母は3年前に他界。昔気質の厳格な父とは、今も打ち解けられない関係が続いているという。「父は自分の気持ちを言葉で表すのが苦手な人。感情的になると言葉より先に手が出てしまう。どうすれば歩み寄れるのか…手探り状態です」と恵美さん。一方父は、「手が出るのは現代っ子には分からないでしょうね。私は戦中派ですから、親や先生に叩かれて育ち、それをありがたいと思ってきた。そういうことを教えたかったが…うまく行かなかった」と娘との関係を語る。

 そんな父から娘に届けられたのは昔、父が着ていたシャツ。実は路上で似顔絵を描き始めた頃、恵美さんはいつも父のシャツを黙って借りていたという。父はそのシャツに娘とのつながりを感じて、大切にしまっていたのだ。恵美さんは「父がいい感じに古びたシャツを持っていたので、なんとなく“路上に合うな”と思って着てたんです」と当時を懐かしむ。そして、添えられていた父からの生まれて初めての手紙。恵美さんは「読めないですよ。きっと父は頑張って書いてくれたんだと思う。それだけでうれしい」といって、封を切る事ができなかった。そんな娘の姿に父は「子が思うより、親は何倍も子供のことを思っている。離れていれば余計です」と、感極まって涙をこぼす。