今回の配達先はドイツのシュトゥットガルト。この町でドイツの国家資格である難関の製菓マイスター試験に向けて奮闘するパティシエの岩切直子さん(36)と、東京に住む母・順子さん(67)をつなぐ。菓子作り一筋に生きる直子さんに、母は「お菓子に夢中になるのもいいけど、結婚や子供を持つことにも真剣に目を向けて欲しい」と、その将来を心配している。
直子さんはドイツに来て5年。最初の1年半で、菓子店で働くための職人資格「ゲゼレ」を取得した。3年間ドイツの菓子店で働いたあと、現在は州立の職業訓練校で、マイスターの国家資格を取得するために学んでいる。ドイツ菓子は法律によって原材料の種類や割合、製法まで細かく定められており、決まりを破った場合は罰金が科せられるという。マイスター資格を取るためには、そういった法律も学ばなければならないのだ。
ドイツ菓子の伝統を守り、自分で店を持つことができるマイスター資格。4ヵ月後に迫ったその試験は超難関で、実技は1日8時間で3日間にわたり行われ、決められた時間内にいくつもの課題作品を作らなければならない。「マイスターの試験が終われば、日本へ帰る予定です。お菓子を勉強するからには、自分の店を絶対に持ちたい」と、直子さんは夢を膨らませる。
元々日本の大手食品会社でケーキなどの商品開発に携わっていた直子さん。そこでお菓子作りにのめり込み、職人になることを夢見て会社を辞めた。その後はケーキ屋で働きながら、夜間の製菓学校に通い、さらにヨーロッパのお菓子を極めたいと、5年前にドイツへ。
現在は7つ年下のパン職人の恋人・日高さんと暮らす。彼は一足先にマイスター資格を取得し、現在は170年以上続く老舗のパン屋で働いている。日高さんの仕事に合わせ、2人は夜7時には就寝し、午前1時には起きる毎日。日高さんを送り出したあと、直子さんは朝まで5時間近く勉強する。マイスター試験は実技以外にも経済学、教育学などの筆記試験があるのだ。もちろんすべてドイツ語で、「彼に教えてもらうことも多い」と直子さんは話す。一方、日高さんは「勉強をしに来た以上は独立し、日本でもドイツパンを作りたい。彼女と一緒に店を持ちたい」という。日本に帰国し、2人で店を開くためにも、直子さんは自分の夢に向かって一歩一歩、歩み続ける。
そんな直子さんにとって気がかりなのは、独りで暮らす母のこと。「遠く離れて何もしてあげられないのは、子供として負い目はあります」と直子さん。だが今回、日高さんを初めて見た母は「安心して娘を託せるような方で安心しました」と、少しほっとした様子だ。
そんな直子さんに届けられたのは、母が愛用してきたカメラ。直子さんの成長や家族の記録をカメラに収め続け、その写真を母は宝物にしてきたのだ。添えられた手紙には「直子も早くあなたの家族を作ってください」と綴られていた。直子さんはカメラを手に、「母が撮ってくれていたから、子供の頃の思い出がある。いろいろなことを思い出します…」と涙し、「今、家族になりたい人がいるので、心配しないでください」と語りかけて母を安心させる。