今回の配達先はニュージーランド・ウエストコースト。フランツジョセフ氷河で氷河ガイドをしている中泰一郎さん(28)と、北海道北見市に住む両親、祖父母をつなぐ。実は3代続く農家の長男でもある泰一郎さん。父は「跡を継ぐ気があるのかないのか…なかなか話をする時間もないし、互いに今ひとつ触れられない問題でもある」といい、泰一郎さんにはそろそろ決断して欲しいと望んでいる。
氷河ガイドは観光客を案内するだけでなく、より安全に氷河を歩いて楽しめるよう、事前にツルハシを手に不安定な氷を取り除いたり、足場を作ったり、毎朝3時間かけて手作業でルートを切り開くのも重要な仕事。多くの命を預かる、危険と隣り合わせの仕事でもあるのだ。ツアーの目玉は、自然が作った美しい氷のトンネル、アイスケーブ巡り。「こういう所にお客さんを連れて行けるのが面白い。皆が笑顔で“今日は良い一日だった”と思ってくれたら…。そういう時、この仕事は最高だと思いますね」と、泰一郎さんは氷河ガイドの魅力を語る。
幼い頃から家族でスキーやカヌーに親しんできた泰一郎さん。いつしか大自然を相手にするアウトドアの仕事に憧れ、日本でもスキーパトロールやラフティングガイドを経験してきた。そしてより魅力的な場所を求めてたどり着いたのが、ニュージーランドのウエストコーストだった。
仕事場から自宅までは車で10分。世界遺産の森のすぐそば、大自然の中に建つ一軒家を、恋人とガイド仲間の3人でシェアして暮らしている。近所にはガイド仲間がたくさん住んでおり、仕事が終われば、仲間と作った共同露天風呂やクライミングウォールを楽しみ、休日にはカヤックやロッククライミングにも出かける。仕事もプライベートも充実した今、自然の魅力に満ちたウエストコーストで、自分の可能性はもっと広がるのではないかと泰一郎さんは考えている。「今、自分の楽しんでいることを、もっとやっていきたい。それをうまく絡めて仕事にできたら…。一番大切なのは自分がハッピーであること。そうでないと人をハッピーにはできない。氷河ガイドも、自然からエネルギーをもらって、それをお客さんに渡していく仕事だと思っている」。
こうした生活を続けて5年。大自然の中で生きるという長年の夢をようやく実現した一方で、常にある思いが頭をよぎる。「まだあまり言われませんが、家族は家業を継いで欲しいと思っているはず。それは心の中でずっと引っかかっている。そろそろ本当に決めないといけない…」。泰一郎さんは迷っていた。
そんな泰一郎さんに日本の両親から届けられたのは、北海道・北見の郷土料理、カボチャ団子とイモ団子。お父さんが丹誠込めて育てた野菜を使って、お母さんが手作りした思い出の味だ。「嬉しい!子供の時から大好きだった」と喜ぶ泰一郎さん。添えられた父の手紙には、「お前もそろそろ自分の将来を判断する時期に来ているのではないだろうか?うちに戻るにしても戻らないにしても、お前がやろうと決断したことは、父さんたちは応援する…」と綴られていた。涙ながらに読み終えた泰一郎さんは、「心が決まりました。このまま僕の道を行こうと思う」と決意を語る。
そんな息子の決意に父は、「こういう決断もあるとは思っていた。素晴らしい仲間と自然に囲まれ、好きな仕事をやっている息子は私たちの誇り。こういう風に育てたのは俺だ」と、複雑な心境ながらも納得するしかない。祖父も「寂しいことだが…」と涙で詰まりながら、「これでいいんじゃないか」と、泰一郎さんの決意を温かく受入れるのだった…。