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#143「オーストラリア/ブルーマウンテンズ」 4月3(日)午前10:25〜10:55


 今回の配達先はオーストラリアのブルーマウンテンズ。ここで和牛の牧場を営む鈴木崇雄さん(43)と、千葉県に住む母・すみさん(77)をつなぐ。一人で暮らす母は、「牧場を一緒に手伝っている孫たちの様子を見てみたい」と、遠く離れた息子や孫たちに想いを馳せる。

 世界自然遺産の山岳地帯ブルーマウンテンズに広がる崇雄さんの牧場は、広さ360エーカー、東京ドームおよそ31個分という広大なもの。オージービーフが世界的に有名なこの国で、あえて和牛にこだわり、130頭を飼育してオーストラリア国内に出荷している。「和牛は世界的に見ても類いまれな品種。脂肪の量、風味、脂の質は、ほかとレベルが違う。もっとその素晴らしさを知ってもらいたい」。和牛にこだわる理由を崇雄さんはそう話す。

 農業大学を卒業し、栃木の牧場に就職した崇雄さんは、そこで妻の裕子さん(44)と出会った。結婚したのは「いつか自分の牧場を持ちたい」という共通の夢があったからだ。そして20年前、2人でその夢を叶えるためオーストラリアへ。現在は15歳を筆頭に3人の子供たちも牧場を手伝う。今や子供たちの力なくしては、牧場は立ちゆかないほどだという。そして裕子さんは牧場の片隅にある畑で野菜を育て、夢だった自給自足に近い生活を実現させている。子供たちもそれぞれ畑をもち、野菜を育てている。裕子さんは「将来子供たちが日本に帰りたいとか、街に住みたいと思えば、それは彼らの自由。でもこういう暮らしもあるということ、“生きる原点”は最初に見せておきたい」と、その思いを語る。

 家族みんなで力を合わせて牧場を営む崇雄さんだが、一番の心配は日本に1人残してきた母のこと。離婚後、女手ひとつで息子を育てた母。崇雄さんは「お金の不自由を感じたこともないし、やりたいことは何でもやらせてもらった。今は母が1人でいることが不安です。何かあったとき、すぐ誰かが駆け付けられるわけじゃないから…」と心配する。

 オーストラリアでは和牛は知られていても、食べたことがあるという人は少なく、まだまだその価値は知られていない。そんな状況もあり、牧場の経営は軌道に乗っているとは言い難い状況だ。和牛の美味しさを最大限に引き出すにはどうすればいいのか、崇雄さん自身も模索中で、さまざまなエサを試しては、試行錯誤を重ねている。和牛の良さを広めるべく、家族で奮闘する崇雄さん。「母は僕にいい学校に入って有名な会社に就職することを望んでいた。しかし、こういう名もない個人経営の牧場でも、こんなに幸せに暮らしているんだということが母に伝えられれば…」。崇雄は牧場の仕事に誇りを持ってそう語る。

 そんな母から崇雄さんに届けられたのは、母が旅先で撮り溜めたスナップ写真。その中には友人に囲まれて満面の笑みを浮かべる母の姿があった。添えられた手紙には「母さんの日常生活です。毎日楽しく暮らしています」と、息子を安心させる言葉が綴られていた。オーストラリアで一緒に暮らすことを崇雄さんに勧められたこともあるが、「息子にはなるべく迷惑をかけたくない」と1人日本にとどまることを選んだ母。「こうして友人と楽しく旅行をしている姿は息子としては何よりうれしい。元気なうちは好きなことをしてもらって、困ったことがあったら強がらずに知らせて欲しい」。崇雄さんは写真で微笑む母を見つめながらそう語る。