今回の配達先はアラスカ州シトカ。この町で老人ホームの看護助手として生きるハンディ沙織さん(34)と、堺市に住む父・正生さん(70)、母・美沙子さん(63)をつなぐ。14年前にアラスカへ渡り、現地の男性と結婚。以来11年間、遠く離れたアラスカに根を張り、看護助手として働く沙織さんを、両親は「娘は弱音を吐くこともない。どういう形で仕事をしているのか知りたい」と心配する。
彼女の働く州立の老人ホームは、ヘアサロンやビリヤード場、フィットネスルームまで完備し、まるで高級ホテルのような雰囲気。入居者は認知症を患う人や体の不自由な人など70人で、沙織さんはそのうち20人を、3人の看護助手でチームを作って担当している。着替えやトイレ、風呂の介助など、それぞれの生活習慣に合わせた細やかな対応が求められる仕事だ。「孤独、退屈、不自由。この3つの気持ちを満たすように…というのが、ここのコンセプト。なるべく家庭の雰囲気を出せるように心がけている」と、沙織さんは話す。
この仕事を選んだのは、結婚してこの町で暮らし始めたとき、少しでも安定した職に就きたいと考えたからだった。だが取り組むほどにやりがいを覚え、今では天職だと感じるようになったという。「小さい頃から祖父母と同居していたので、この仕事は自分に合っていると思う。皆さん私より長く生きている分、いろいろな経験があってアドバイスもしてくれる。自分も勉強になる」と、この仕事の魅力を語る沙織さん。その丁寧な仕事ぶりは高く評価され、2004年には、優秀な看護助手としてアラスカ州から表彰されるまでになった。同僚らも「彼女は謙虚で気配りができ、洞察力もある」と称え、99歳になる入居者は「彼女はすべてをやってしまうのでなく、私が自分で行動できるように考えて手助けしてくれる」と、大きな信頼を寄せている。
現在、夫ジミーさん(40)と2人の子供と暮らす沙織さん。家事は夫婦で分担するなど、ジミーさんも沙織さんが仕事を続けられるよう、この11年間ずっとサポートしてくれている。そんなジミーさんだが、結婚の報告のために来日した際には、沙織さんの父から大反対された。そんな父が2人を認めたきっかけは、父が沙織さんのために電子レンジを買った時、ジミーさんが言ったひと言だった。「沙織は僕の家族だから僕が買う」。それを聞いて父は"こいつは覚悟があるんだ"と、あらためて納得したという。その時の父の気持ちを初めて知った沙織さんは、感動で思わず涙をこぼす。
入居者を家族同然に思い、親身に世話をする沙織さんだが、そんな大切な人たちとも必ず別れがやってくる。「これまで何人も別れを体験しました。でも、悲しいけど、最後までお世話できたという充実感の方が大きい。ここにいる間は、できるだけ楽しい人生を送ってもらえるようにお手伝いしたい」。沙織さんは看護助手としての想いをそう語る。
そんな沙織さんに届けられたのは、母特製のちらし寿司。祝い事の時にはいつも家族で囲んだ思い出の味だ。そこには"アラスカで自分が信じた道、看護助手の仕事をまっとうしてほしい。支えてくれる家族を大切に、幸せな人生を歩んで欲しい"との想いが込められていた。沙織さんは「いつも心配をかけてきたけど、元気で頑張っています」と両親に深く感謝し、夫や子供たちと共に、懐かしい母の味を味わう。