今回のお届け先はポルトガルのリスボン。この地でパティシエとしてポルトガルの伝統菓子を作る森本こずえさん(28)と、大阪・池田に住む母・満寿美さん(52)、祖母・ふさ子さん(77)をつなぐ。
ポルトガルに渡って5年。現在こずえさんは、スポーツジムに併設されたレストランとカフェ、両方のスイーツをたった一人で担当している。ポルトガルはお菓子天国といわれるほど、街にはスイーツ専門のカフェが多い。しかしそこに並ぶのは生クリームでデコレーションしたものではなく、ポルトガル伝統の甘くて素朴な焼き菓子ばかりだ。今やポルトガル人にも好評なこずえさんのスイーツだが、そこに至るまではさまざまな紆余曲折があった…。
こずえさんは高校を卒業後イギリスに渡り、フランス菓子の専門学校へ。そこで数々の賞を受賞し、主席で卒業。その腕を買われて、イギリスでパティシエとしての第一歩を踏み出した。その後、お店を出すという友人に誘われ、新天地で勝負しようとポルトガルへ。だが、それまで腕を磨いてきたフランス菓子をポルトガルでは受け入れてもらえなかった。「ポルトガル人は知っているものしか食べない。保守的な部分があるんです」と、こずえさんは話す。
閉鎖的な食文化、伝統という壁にぶち当ったものの、伝統菓子の作り方を教わる人もいなかった。仕方なく自分で食べ歩き、試作を繰り返しては、独学でこの国の味を学んできた。「負けず嫌いなので、絶対に作ってやる!と思っていました。当初は自分の味で勝負しようと考えたこともありましたが、ポルトガルにはポルトガルの味がある。今はお客さんが何を望んでいるかを一番に考えますね。その中で自分のオリジナリティを出していければ…」。こずえさんは菓子作りに取り組む想いをそう語る。
現在、職場で知り合った婚約者のダニエルさん(25)と二人暮らし。実は23歳の時に一度イギリス人男性と結婚したものの、生活のすれ違いから離婚。失意の彼女を支えてくれたのがダニエルさんだった。2人は数日後に結婚を控えていた。そんな今、こずえさんが想うのは母のこと。子供の頃から母は仕事で忙しく、親子水入らずで過ごす時間が少なかったため、ずっと距離を感じていたという。「家に帰ると誰もいなくて、一人でご飯を食べることもよくあった。そういう時は寂しくて泣いたこともありました。"なんで私の家族はこんなんやろう?"って。でも自分が家族を作ることになり、母が家族のために一生懸命やってくれていたことに気づくようになりました」と、こずえさんは語る。
結婚式は市役所の一室で、婚姻届の提出と同時に行われる。入籍の際、家族や友人が証人として立ち会うスタイルだ。だが仕事のあるこずえさんの家族は来ることができないという。「本音は寂しいけど、2回目なので無理は言えない」と、こずえさんは寂しそうに笑う。
だが結婚式前日。一人異国で人生の新たな一歩を踏み出すこずえさんに、母から真珠のネックレスが届けられる。娘の幸せを願い、母が自ら選んだ祝いの品だった。結婚式に着る服にぴったりと合うデザインで、こずえさんは「さすが母ですね。今までお互いの気持ちを話すことがなかったけど、私のことを想ってくれていたんですね…最高の母です」と、感激の涙をこぼす。