今回のお届け先はスペイン・マジョルカ島。人口たった30人ほどのオリエント村にある隠れ家的なリゾートホテルで、シェフとして働く平林由佳さん(28)と、大阪に住む父・博さん(59)、母・輝代さん(56)をつなぐ。小さいときから由佳さんを厳しくしつけてきたという父に、今は由佳さんからほとんど連絡はないという。「厳しくしつけるのは親の責任だと思ってきた。成人すれば酒を飲みながら話をしようと思っていたが、その頃に日本を離れてしまい、思いを伝える機会がなかった。親としては娘にひと声をかけてやりたいが…照れくさくて」。父は娘にどう対していいのか戸惑っている。
幼い頃から美容師になるのが夢だった由佳さん。だが大学進学を望む父に大反対されて夢を見失い、あてもなく海外を旅する日々が続いた。そして6年前にスペインへ。この時、レストランで働いたのがきっかけで料理の虜になった。2年前にはマジョルカ島に渡り、いくつかのレストランで修業をしながら料理を学んだ。料理人となってまだ5年だが、その腕前と情熱を見込んだこのホテルのオーナーが、由佳さんをシェフに大抜擢したのだ。
ホテルの料理人は由佳さんただ一人。レストランのテーブル数は15もあるが、由佳さんはたった一人ですべてのメニューを考え、毎日3時間かけて仕込みをし、ディナータイムは戦場のような厨房を取り仕切る。だが由佳さんは「毎日仕事をするのが楽しい。今日も頑張るぞと思いながらやっている」と話す。そんな由佳さんが作るスペイン料理は、日本人ならではの繊細な味付けで、ヨーロッパ各地からやってくるお客さんを魅了しているのだ。
由佳さんは1年前にこの島で知り合ったニコラスさん(30)と結婚したばかりだが、仕事を終えて帰宅するのは毎日午前0時過ぎ。朝が早い仕事のニコラスさんとはすれ違いで、ほとんど顔を合わせることはないという。そのため週に1度は同じ日に休みをとり、2人で過ごす時間を作っている。休みの日も買い物をし、ニコラスさんのために料理の腕を振るう由佳さん。ニコラスさんは「"専属のシェフ"がいつもおいしくてヘルシーな料理を作ってくれるから僕は幸せ。彼女は僕をとても大切にしてくれる」と由佳さんを称える。
仕事も家庭も充実し、夫の家族たちにも可愛がられている由佳さん。だがそんなマジョルカでの生活を、父にはほとんど伝えていないという。「小さい頃から本当に厳しい父で、正直嫌いだった。今でも父には厳しいイメージがあって、フランクに話すことができない」と由佳さんは話す。
そんな父から由佳さんに届けられたのは包丁入れ。もの作りが好きな父が、普段は口にできない娘への思いを込め、2週間かけて手作りしたものだ。そこには「今よりもっと幸せになりや」と、父からの言葉が綴られていた。父の想いに胸を打たれた由佳さん。「結婚式の時、式場に向かう車の中で父と二人きりになった。そのとき"今までありがとう"と言いたかったけど、結局言えなかった。今、両親に"生んでもらってありがとう。これからもよろしく"と伝えたい…」といって、大粒の涙をこぼす。