今回のお届け先は、およそ1万軒ものカフェがひしめくフランス・パリ。そんな一軒に嫁いだ伊東かおりさん(30)と、京都に住む父・諭司さん(59)、母・るみ子さん(57)をつなぐ。両親は「5月に孫が生まれたばかり。カフェと子育ての両立ができているのか…生活ぶりが見たい」と話す。
中学の頃から海外に憧れたかおりさんは、高校で初めてアメリカに留学。大学生のときにニューヨーク州立大学へ留学し、そのまま大学院へ。卒業後も日本に帰ることなく、現地採用で日本の商社に就職し、バリバリのキャリアウーマンの道を歩いていた。
そんなかおりさんの人生を変えたのが、大学時代に知り合い、大恋愛していたフランス人男性ジェレミーさん(27)。「早く結婚して一緒になりたかった。私はあなたのいるところならどこにでも行く…と自分から何度かプロポーズもしていたんです」というかおりさん。そんな折、ジェレミーさんが故郷パリで母親とカフェを開店する計画が立ち上がり、かおりさんはそれまでのキャリアをすべて捨てて、見知らぬ国フランスへ嫁いだのだ。
パリ11区の大通りに面した「アチチュード・カフェ」。ここでかおりさんはウェイトレスと経理を担当し、ジェレミーさん、飲食業一筋30年の義母・アンマリーさんと共に店を切り盛りしている。オープンして2年半。かおりさんは4ヵ月前に長女レアちゃんを産んだばかりだが、カフェはいつも常連客が引きも切らず、かおりさんはゆっくり子供と過ごす時間を持てないほど忙しい毎日を送っている。
フランスでカフェ…当初は夢のような生活だと思っていたかおりさんだが、現実は厳しかったという。「フランスではウェイトレス、特にアジア人は下に見られ、ひどいことを言われることもありました」とかおりさんは振り返る。ジェレミーさんは「彼女は本当に頑張った。まったくフランス語が喋れなかったのに、勉強してすぐに喋れるようになった。お客と自信を持って会話するのはとても難しいが、彼女は見事に馴染んでくれた」と妻を称える。やがて前向きに努力するかおりさんの姿に、常連客たちも次第に心を開いてくれるようになった。アンマリーさんも「彼女はよくお客を観察している。まだフランス語が話せなかった頃も、何も言わなくてもお客の動きを見て、完璧に働いていた」とかおりさんを褒める。
そんなアンマリーさんは、日本文化に深い造詣を持っていたアーティストの夫を昨年亡くし、現在は夫がアトリエとして使っていたアパートに一人で暮している。その部屋を最近アンマリーさんは、かおりさんとレオちゃんが過ごしやすいように改装。フランスの家族との絆はますます深まっている。その一方でかおりさんには複雑な思いもある。「海外に暮して、日本の両親に孫の顔をなかなか見せてあげられないのは親不孝だなと思っています。でもこっちのお母さんを一人にすることはできない。ここで骨を埋めることになるんじゃないかな…」。かおりさんは日本の両親を想い、涙ぐむ。
パリに移り住んで3年。ここでの生活にとけ込もうと懸命に努力を重ねてきたかおりさんに、両親から届けられたのはひな人形。かつて両親がかおりさんの成長を祈って毎年飾っていたものだ。そこには"たとえ遠く離れていても、あなたの人生を応援し続ける"との思いが込められていた。かおりさんは「こっちでも娘のひな祭りを祝ってやりたいと思っていたので、すごく嬉しい。毎年大事に飾ります」といい、懐かしいひな人形を手に笑顔がこぼれた。