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#118「オーストラリア/ブリスベン」 9月5日(日) 午前10:25〜10:55


 今回のお届け先はオーストラリア・クイーンズランド州。ブリスベン郊外にある州立のコアラ病院で、ボランティアとして活動する平野聡美さん(30)と、大阪・堺市に住む父・英秋さん(61)、母・光代さん(62)をつなぐ。「最初は3ヵ月のボランティアをする予定でオーストラリアへ渡ったが、こんなに長くなるとは。4年半が経ったが、ボランティアとしてこれからどうやって暮らして行くのか…」と、両親は娘の将来を心配している。

 聡美さんが働くコアラ病院は、ケガや病気のコアラを治療したり、孤児のコアラを大きくなるまで保護し、最終的にコアラたちを森へ帰すことを目的としている。実はクイーンズランド州の野生のコアラは、過去10年間でその数が4割まで減少し、絶滅が危惧されている。その主な原因は、急激な人口増加により宅地造成が進み、彼らの住む森が伐採され、そのストレスで病気になったり交通事故に遭うコアラが増えているからだという。この病院にはそんなコアラが年間およそ900頭も収容されている。

   強いストレスにさらされたコアラは膀胱炎や結膜炎になることが多く、聡美さんらスタッフは一頭一頭を観察し、それぞれの病状に合わせて治療をしたり薬を与え、手厚く世話をする。中でも特に献身的にコアラの世話続ける聡美さんは、ほかのスタッフからも一目置かれる存在だ。

  「コアラは私にとって恩人。今お世話をしているのは恩返し」という聡美さん。実は聡美さんは小学生の頃、原因不明の病で1年に及ぶ入院を2度も経験し、過酷な闘病生活を強いられた。家族との面会も週2,3回に制限され、「果てしない不幸でした。自分は退院できないかもしれない…と思い、未来も考えられなかった。一人ぼっちで、乗り越えられないかもしれない…と思ったとき、家族がくれたコアラのぬいぐるみがいつも見守っていてくれた。それで頑張れた」と聡美さん。そして病気を克服した聡美さんは、オーストラリアの野生のコアラの現状を知り、“今度は自分がコアラを助けたい”と、この4年半、懸命にコアラの世話を続けてきた。病院から自由な世界へ戻っていく喜びを、誰よりも知る聡美さんだけに、コアラを野生に帰す時が、何ものにも代え難い嬉しい瞬間だという。

  これまで家族からの仕送りなどで無償のボランティアを続けてきた聡美さんだが、今年から野生動物や自然環境の保護を目的とした財団の契約スタッフとして働き始めた。来年度からは正規スタッフとして働けるめども立ち、ようやく安定した収入も見込めるようになった。だが、いつも心の片隅にあるのは日本の家族のこと。聡美さんは「やっと私が元気になって、これからずっと家族と一緒にいられると思ったら、こんなところに来てしまい、また家族に寂しい思いをさせている。申し訳なく思っている」と、家族への思いを語る。

  そんな聡美さんに両親から、手作りのアルバムが届けられる。そこには家族の写真と、学生時代に美術を専攻していた聡美さんがかつて描いたイラストがちりばめられていた。長く苦しい闘病生活を克服した娘が、新たな夢に向かって元気に頑張っていることを喜ぶ、両親の思いが込められたアルバムだった。最後のページには「としちゃんは私たちの宝であり誇りです」という家族全員のメッセージが。聡美さんは「ありがたい。今までは自分の事で精一杯だったけど、これ以上家族に心配をかけず、しっかりやっていきたい」と、大粒の涙をこぼす。