今回のお届け先はペルーの首都リマ。ペルーリーグでプロのサッカー選手として活躍することを夢見て、1年前にこの地に渡ってきた中村元樹さん(23)と、兵庫県芦屋市に住む父・直樹さん(56)、母・明代さん(53)をつなぐ。ペルーでプロに挑戦したいと言われた時には反対したという父は「ペルーまで行かなくても日本で努力すればいいじゃないかと思った」というが、母は「若い時しかできないこと。秘かに応援はしていた」と思いを明かす。
現在はペルーリーグ2部の「コープソル」に練習生として参加し、プロ契約を目指す元樹さん。小学1年からサッカーを始め、高校卒業後はアルバイトで貯めたお金で単身ドイツへ渡り、ユースチームで経験を積んだ。2008年には日本のセレッソ大阪に練習生として参加したが、プロ契約までは至らなかった。そこへ「ペルーでプレーしないか」という話が舞い込んだ。憧れのプロになれると期待に胸をふくらませてペルーに渡った元樹さんだったが、契約寸前だったチームが資金不足で解散するという不運に見舞われた。その後は練習生としてさまざまなチームを転々とし、今のチームには2週間前にやって来たばかり。「練習で自分のプレーを見せることが売り込みです。1日でダメだと言われることもある。1日1日が崖っぷちです」と元樹さんはいう。
未だプロ契約には至らない元樹さん。この1年間収入はなく、貯金も底をついた。今は両親から月およそ5万円を仕送りしてもらって生活している。プロを目指すには決して若くはない23歳。「今はサッカーのことしか考えられない。今のチームとうまく契約にこぎつけたい。ちょっとずつステップアップしていくしかない」。不安を抱きながらも、いつでもプロとして戦えるよう、ひたすらハードな練習に打ち込む毎日だ。
そんな強い意志を支えるのは、日本で味わった屈辱の日々だという。「プロサッカー選手を目指していると口にしただけで笑われ、バカにされた。逆にそれを見返してやるという気持ちがバネになったと思う。その中で自分のできることをしっかりやって、今こうして近くまで来られた。早く結果を残して、両親を安心させたい」と元樹さんは語る。
ワールドカップ開催日。元樹さんは華やかな舞台で活躍する同年代の選手の姿を下宿先のテレビで見ていた。「本当にすごい。この年でワールドカップを経験できるということに、羨ましい気持ちもあるし、負けていられないという気持ちもある」と元樹さんは複雑な思いを覗かせる。
ある練習日、リーグ戦でのチーム連敗から、これまでの監督やトレーナー全員が解雇され、やってきたのはチームの総合監督だった。「また新たに自分のプレーをアピールし直さなければならない」と、元樹さんは動揺しつつも気を引き締める。この日のプロ選手対練習生の10分ほどのミニゲームは、元樹さんにとっては人生のかかった10分間となった。そんな中で見事にゴールを決めた元樹さん。総合監督は「彼はスピードもテクニックも持っている。プロ契約できる可能性はある」と評価した。
そんな厳しい状況でプロを目指して挑戦し続ける元樹さんに、母から届けられたのは、元樹さんの大好物、ビルマカレー。いつも練習で疲れて帰ってくる元樹さんのために、母が作ってくれたおふくろの味だ。懐かしい味に「めちゃうまい!あのお母さんじゃなかったら今の俺はない。好きなこともできていなかったと思う」と元樹さんはしみじみと語る。