今回のお届け先はスペイン・バスク自治州の州都・ビトリア。創業71年になる老舗チョコレート店で職人見習いとして働くオルティスしのぶさん(34)と、愛知県岩倉市に住む父・高義さん(66)、母・春江さん(63)をつなぐ。実はしのぶさんが国際結婚をして嫁いだ先が家族経営のチョコレート店で、家族全員がチョコレート職人なのだ。「まさか国際結婚をするとは…。最初は反対でした」という母。父は「習慣も言葉も違うのに、毎日どう生活しているのか心配」と娘を案じている。
バスクへ嫁いで約10ヵ月。しのぶさんは夫のファンさん(37)や義父のもとで毎日チョコレート作りの修業を続けている。チョコレート作りでもっとも大切なのは温める温度だという。1℃でも間違えるとつやが出ず、味も落ちるため売り物にならないのだ。「最初は"温めるだけじゃない。簡単じゃん"と思っていたけど、私が作るのと家族が作るのは、全然違った」と、チョコレート作りの難しさを語るしのぶさん。最近、ようやく作業の一部を任せてもらえるようになり「チョコレート作りはクリエイティブ。すごく創造的で楽しい」と、その魅力にはまりつつあるようだ。
名古屋でOLをしていた3年前、語学留学に来ていたファンさんと出会い、昨年結婚。バスクでの生活が始まったが、知識も経験もない状態でいきなりチョコレートを作ることに。ファンさんの一家は市内に3軒の店を構え、しのぶさんは毎日何十種類ものスイーツのレシピを学びながら、義母と義弟が働く本店を手伝ったり、叔母が経営する支店へ配達をしたり、朝8時から夜の9時までみっちり働いている。その合間に家事をこなし、週1日の休みには語学学校で勉強。職人として主婦として学生として、この約10ヵ月、めまぐるしい毎日を送ってきた。そんなしのぶさんを義母は「実の娘のように思っています。ここでの生活は大変だと思うけど、彼女はとても努力していますよ」と褒め、いずれは夫婦で店を継いでほしいと期待している。そんな義母の温かい言葉に、思わず涙するしのぶさん。言葉の問題で家族とうまくコミュニケーションが取れず、期待されているのが分かっていても、応えられなくてストレスがたまることもあるという。それでも「つらいことは多いけど、日本の家族には楽しいことだけを話そうと決めています」と言い、日本の両親に弱音を吐いたことはない。しのぶさんは「彼の家族も私を理解しようと努力してくれているのを感じる。だから感謝して頑張りたい」と、前向きだ。
はからずもバスクで歩み始めたチョコレート職人としての人生。さまざまな壁にぶつかりながら、人知れず努力を重ねてきたしのぶさんが今、夢に描いているのは、いつかバスクのチョコレートを日本に伝えたいということ…。そんなしのぶさんに日本の母から届けられたのは、しのぶさんが幼い頃に着ていた着物。いつか娘が結婚したときに渡そうと、大事にしまっていたものだ。遠い異国で幸せな家庭を築いて欲しいと願う母の想いに、しのぶさんは思わず涙ぐむ。そしてしのぶさんは、誰の手も借りずに最初から最後まで初めて一人で作り上げたチョコレートを、日本の両親に感謝を込めて届けるのだった。