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#107「スペイン/バレンシア」 6月13日(日) 午前10:25〜10:55


今回のお届け先はスペインのバレンシア。この街に工房を構え、スペインタイル作家として活動するセンドラ船戸あやこさん(40)と、千葉・松戸市に住む父・実さん(77)、母・広子さん(73)をつなぐ。17年前にスペインへ渡ったあやこさん。父は「娘は自分で決めたことはとことんやる。引き留めたところでどうしようもなかった」と当時を振り返り、母は「最近大きなコンクールで入賞したと聞いたので見てみたい」とあやこさんの作品が気になるようだ。

 大学時代にスペイン美術を学んだあやこさんは、その豊かな色彩に惹かれ、17年前バレンシアの陶芸専門学校に入学。首席で卒業した。あやこさんが制作するスペイン独特の伝統タイルは、虹の7色が基本。まず粘土を成型して2日間天日干しし、14時間かけて窯で焼く。さらにうわ薬をかけて再び14時間窯入れ。最後に自身のデザイン画を元に絵付けをして3回目の窯入れをする。980℃という低温で焼くことで、スペインタイル独特の鮮やかな色合いが出るのだという。「スペイン人の生活の中に自分の作品が溶け込んでいるのを感じる時が一番嬉しい。こんなに打ち込めるものに出会えて運が良かった。私は幸せだと本当に思えます」と、あやこさんはしみじみと語る。

 タイル作家であると同時に、スペイン人の夫ホセさん(52)との間に生まれた2人の子供の母でもあるあやこさん。子育てが落ち着いた5年前からはオブジェの制作にも取り組み始めた。そんな彼女の作品が最近、スペイン最高峰と言われるコンクールで初めて入賞を果たした。しかも来場者による人気投票では、世界47ヵ国1500人の陶芸家による作品の中から1位に選ばれたのだ。本当の意味でスペインの人たちに認められたとあって、あやこさんは「すごく光栄。どんな賞よりも嬉しい。ちょっとは親孝行ができたかな」と話す。

 17年前、夢だけを抱えてひとりスペインに渡ったあやこさん。頼る人もいないこの地で彼女を支えたのは「夢を形にしたい」という強い思いだけだった。「あんなに勉強した3年間はなかった。強い決意をもってスペインに渡ったのに、途中で諦めることなんてできなかった」とあやこさん。そして案内してくれたのが、当時住んでいたアパートの目の前にある公衆電話。日本の母と自分を唯一繋いでくれたものだ。「学校よりどこより、この電話ボックスが懐かしい…」。あやこさんの胸に、その頃の思いが甦る。

 ある休日。ホセさんの両親や親戚が集まり、あやこさんの受賞を祝うホームパーティーが行われた。ホセさんがバレンシア発祥の料理であるパエリアを作って振る舞う。「女性は毎日家事や子育てをしているので、休みの日には男が料理をするんです」とホセさん。今はスペインの家族に囲まれて幸せに暮らすあやこさんだが、スペイン人と結婚すると告げた日、母はそれまで見たことのなかった涙を見せたという。「何も言えませんでした。自分で決めたことだから泣き顔は見せられない、幸せにならなくちゃと思いましたね」と、あやこさんは当時の気持ちを振り返る。

 3年間のスペイン留学のはずが、最愛の家族にも恵まれ、いつしか17年。そんなあやこさんに母から届けられたのは、昔から祝い事があると必ず母が作ってくれた手作りのコロッケ。「コンクール入賞のお祝いに、想いを込めて作ったコロッケです」と綴られた母の手紙に、あやこさんは大粒の涙をこぼす。