今回のお届け先はイギリス。この地で付けひげ職人として奮闘するパシェカ由利子さん(30)と、大阪・岸和田市に住む父・勝基さん(58)と母・絹枝さん(54)をつなぐ。6年前、かねてから興味のあったメイクアップの勉強をするためイギリスに渡った由利子さん。メイク学校の授業で知った付けひげ製作の世界に心惹かれ、卒業後、職人の世界に飛び込んだ。日本を離れるとき、母は特に反対はしなかったが、父は「心配で反対した。帰国して日本で働いて欲しい」と、今でも娘が帰ってくることを願っている。
付けひげ職人になって4年になる由利子さんが働く工房は、映画や舞台の付けひげを専門に製作しており、「ハリー・ポッター」のダンブルドア校長やハグリッド、最近では「シャーロック・ホームズ」など数多くのハリウッド映画で採用されている。特殊メイクの中でもひげやカツラに関しては、アメリカよりも舞台演劇の歴史が長いイギリスの方が優れていると言われているのだ。
付けひげ製作はまず俳優の顔を採寸し、工房のボスであるサラ・ウェザバーンさんがひげの下書きをするところから始まる。そのあとの工程を由利子さんが手がける。下書きを紙に写して土台にはりつけ、上から目の細かいレースをセット。そこに、さまざまな色に染めたヤクの毛を一本一本結びつけていく。細かな作業だが、由利子さんは「達成感がある」と仕事を楽しんでいるようだ。だが、やり直しのきかない最後の仕上げのカットだけは、まだサラさんが行っている。
実は由利子さんの通っていたメイク学校で、付けひげ作りを教えていたのが今のボス、サラさんなのだ。由利子さんは「それまで映画は俳優が自分のひげで演じていると思っていたので、付けひげは衝撃でした。卒業してメイクの仕事をしていましたが"やっぱり付けひげをやりたい"と思い、直接この工房に電話をして"タダでいいから働かせて欲しい"と頼んだんです」と当時を振り返る。サラさんは「彼女のように付けひげをやりたいという生徒は稀だった。今は手放せない存在」と、由利子さんを高く評価している。そして「もうすぐ由利子にカットのトレーニングを始めようと思っている。頑張ってもらいたい」と、期待も大きい。
3年前にはイギリスで知り合ったポーランド人の男性と結婚もし、職人としても着実に技術を磨き続ける由利子さん。「あと10年は付けひげをやって極めたい。イギリス生活も楽しい。日本に帰る気持ちはない」と、今後の人生はイギリスで送る覚悟のようだ。
そんな由利子さんへ、母から届けられたのは珊瑚の指輪。母が祖母から受け継ぎ「私が死んだときに娘に渡そうと思っていた」という形見の品だ。そこには、由利子さんともう一緒に暮らすことはできないという母の覚悟が込められていた。そんな母の想いに、由利子さんは「大事にします」といいながらも複雑そうだ。そして、娘を応援する母の思いが綴られた手紙には「私も心を入れ替えないと…もっと頻繁に日本に帰れるようにしたい。心配をかけて申し訳なく思っている」と言って涙をこぼす…。