今回のお届け先はクラシック音楽の聖地・オーストリア・ウィーン。名門のウィーン国立音楽大学に見事合格し、バイオリン留学する島ゆりかさん(11)と弟の連太郎くん(8)、母のみずもさん(36)と、大阪・豊中市にひとり残る父・俊彰さん(38)をつなぐ。才能あふれる娘を支えるため、幼い弟を連れて2年半前に海を渡ったみずもさん。俊彰さんは「娘のためにはそれしか方法がなかった。覚悟を決めた」というものの、異国で肩を寄せ合い頑張る妻と子が心配でならない。
音楽好きなみずもさんの影響で、2歳半からバイオリンを始めたゆりかさんは、ウィーン国立音楽大学のマリーナ・ソロコワ教授が来日した際、その才能を見いだされ、この音大を受験することを薦められた。そして見事合格。現在ゆりかさんの個人レッスンを担当するソロコワ教授は「彼女は演奏技術だけでなく、音楽で何かを伝える才能がある」と高く評価する。そしてゆりかさんと一緒に日本でバイオリンを習っていた連太郎くんも、去年見事同大学に合格した。
みずもさんは毎朝5時に起きて子供たちの食事と弁当を作る。学校へ出かけるまでのわずかな時間も惜しんで、2人に日本語の勉強をさせ、それから2人は地元の小学校へ。最初はまったくドイツ語を喋れなかったゆりかさんだが、今では完璧で、友達もたくさん出来た。2人を学校へ送ったあと、みずもさんは市場へ。「夫は普通の会社員。生活費は夫の給料からの仕送り。ギリギリです」と、切り詰めた生活をおくる。みずもさんも当初はまったくドイツ語を喋れなかったが、子供たちの生活を守るため、短期間で習得したのだ。みずもさんの胸には、ソロコワ教授に言われた「何より大切なのは親ですから、頑張ってください」という励ましの言葉が常にあった。
その後みずもさんは自宅へ戻ると、息つく間もなく家事をこなし、子供たちを迎えに行き、そのまま音大へ。レッスンにはみずもさんも付きっきりだ。帰宅後もバイオリンの練習、小学校の宿題、日本語の勉強…と、3人の生活はまさに分刻み。そんな中で連太郎くんは「1ヵ月に1回でもお父さんと食卓を囲みたい…」と寂しさを口にする。そしてみずもさんも「1日があっという間に過ぎる。私自身のために使える時間もお金もない。夫も子供もいなかったら私には何もない…。ついそう思ってしまう」と不安を口にするみずもさん…。先の見えない生活だが、子供たちが授かった豊かな才能だけが、彼女の心の支えだ。
みずもさんたちは10日後に開かれるゆりかさんの演奏会の会場へ下見にやって来た。当日は俊彰さんが来られないため、ゆりかさんは誰もいない会場で父のためにバイオリンを奏でる。音楽で想いを伝える卓越した才能をもつゆりかさんは、父への想いが溢れたのか、演奏を終えると静かに涙をこぼした。
豊かな才能を授かったゆりかさんたちのために、すべてを捧げて異国で頑張るみずもさんへ、俊彰さんから届けられたのは家族の思い出の写真。俊彰さんが一枚一枚貼り合わせたものだ。そこには結婚前、みずもさんが社会人になる俊彰さんに送った懐かしい手紙も添えられていた。その中に書かれた「未来は自分の夢の美しさを信じる者たちのものだ…」という言葉が、今あらためて胸に迫り、みずもさんは涙をこぼす…。