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#098「イタリア/フィレンツェ」 4月4日(日) 午前10:25〜10:55


 今回の配達先はイタリア・フィレンツェ。名だたる芸術家たちの作品がいたるところに残るこの町で、画家として生きる白井良磨さん(35)と、神奈川県横浜市に住む父・良夫さん(63)、母・律子さん(60)をつなぐ。良磨さんがイタリアに渡って12年。普段、あまり連絡は取っていないという父は「絵で将来生活できるのか、一番心配」といい、母も「無謀じゃないか」と案じている。

 築600年の教会を改装したアパートの住居兼アトリエで絵を描き続ける良磨さん。実は実際にお客さんから絵の発注を受けるのは町の工房で、その工房の指示通りに絵を描くのが良磨さんの仕事だ。決められた絵を決められた納期までに完成させる、いわば職業画家なのだ。だが良磨さんが描いたそのままでは売り物にならない。そこには芸術の都フィレンツェならではの事情があるのだ。

 工房に持ち込んだ絵は、さらに泥のようなものを塗られて汚され、あえてアンティーク風の味わいを出す。工房スタッフは「フィレンツェの人たちは古い絵に慣れているから、新しい絵は生々しく見え、違和感を覚えて売れない」と、その理由を語る。

 なんとか絵を描くことだけで食べている良磨さんだが、それでも生活はギリギリ。一日中黙々と注文の絵を描き続け、その日の仕事を終えると、寝るまでのわずかな時間、自分だけの創作のひとときをもつ。オリジナルでは抽象画を描く良磨さんは「目に見えないものを表現したい。普段は仕事で形のある(わかりやすい)絵を描いているので、その反動ですね。自分のやりたい絵と、売れる絵が違うことには葛藤があります…」と、悩みを打ち明ける。

 良磨さんが画家の道を志したのは父への反発からだという。「昔は父みたいに普通に大学に行って、普通に会社に入ってサラリーマンにはなりたくなかった。レールが敷かれているようでつまらない。父と違うことがしたかった」と良磨さん。そんな思いから美術大学へ進学し、油絵を専攻。いつしか父とは会話をすることもなくなっていった。そして卒業後イタリアへ。念願だった絵画制作の仕事に就き、2006年には国際絵画コンクールで4位入賞を果たすまでになった。

 だがイタリアへ来て、イタリア人の家族の絆の強さを見るにつけ、自分が家族とコミュニケーションを持ってこなかったことを悔やむようにもなったという。「父はよく働く人だった。でもいつも疲れていて、家族と過す時間もなく可哀相だった。今の自分があるのは両親のおかげ」といい、良磨さんの考えも変ってきた。

 そんな良磨さんに父から届けられたのは1枚の油絵。それは父が1年をかけて描き上げた作品だった。実は父は、良磨さんの影響で60才を過ぎてから油絵を始めたのだ。「良磨にはいい刺激をもらった。(絵の)目標は良磨です」という父。そこには、新たな楽しみを与えてくれた息子への感謝の気持ちが込められていた。父の作品を見た良磨さんは「腕を上げましたね。絵に気合いが入っています。父も自分の好きなことをやってくれるようになってうれしい。いつか父と一杯飲みながら、絵の話でもしたい」と言って顔をほころばせる。