今回のお届け先はベトナム・ホーチミン。この町で、たった一人で美容室を営む山下モモさん(22)と、埼玉県深谷市に住む父・武幸さん(60)、母・悦子さん(60)をつなぐ。16歳で高校を中退して美容師になると決めたときも、2年前にベトナムへ渡るときも、家族には何の相談もなく突然のことだったというモモさん。両親は「娘は思い立ったら何を言っても聞かない。応援はしているが、何かあってもベトナムだとすぐに飛んでいけないので心配…」と、自立心旺盛な娘をハラハラする思いで見守っている。
モモさんの美容室はオープンして8ヶ月。ホーチミンの静かな路地裏にあるマンションの1階フロアを間借りし、内装は自らの手で改装した。完全予約制で、1対1の接客をモットーにする隠れ家的美容室だ。ベトナムには美容師を育成するシステムがなく、そのレベルはバラバラ。そんな美容事情に満足できないベトナム在住の日本人がモモさんの店にやってくる。地元のお店で失敗してモモさんに直してもらいに来るお客さんも多いという。
昔から自立心旺盛だったモモさんは、高校1年のとき母親と言い争ったのをきっかけに高校を中退。誰にも相談することなく美容師の道へ進むことを決め、働きながら美容学校に通って免許を取得した。美容師としての経歴も長く、若くても腕は確かだ。最初は多くのお客さんを次々にこなすチェーン店で働いていたが、個人店に移り、1対1のスタイルにやりがいを感じるようになったという。そして「もっとお客さんに近づき、一緒にスタイルを作り上げたい。自分の腕を試したい」と、すべてを一人で決めて単身ベトナムに渡り、念願の店を持ったのだ。
最近では現地ベトナム人のお客さんも増えてきたという。「日本に興味を持っているベトナム人が多いんです。でも日本人美容師にカットしてもらいたいと思っても、高くてなかなか行けない。だからうちは安くしています。"島の診療所"みたいな"村の美容室"でありたい」。モモさんはそう理想を語る。
現在、モモさんはベトナムで出会ったフランス系ベトナム人で、デザイナーのダオさん(37)と同棲中。「両親にはまだ言っていませんが、2人の間では結婚も考えています」というモモさん。その様子を見て、両親は「(同棲してることは)聞いてない」と仰天する。父は「驚きです…でも娘が決めた人なら…」と諦め顔だが、母は「まだ早い。彼が家族をちゃんと養えるようにならないと…」と、なかなか納得できない様子だ。
ベトナムへ渡って2年。店も軌道に乗り、私生活も充実するモモさんだが、「家族に甘えたくなることもあるけど、自分で選んだ道だから心配はかけたくない」という。そんな娘に母から届けられたのは、モモさんが幼い頃によく読んでいたという詩集「子どもの肖像」。その中に、今のモモさんに読んで欲しい一編があるという。それは「泣くぞ!ぼく泣くぞ!今は笑ってたって 嫌なことがあったらすぐ泣くぞ…」と始まる、谷川俊太郎の「泣くぞ」。そこには若くして独立した頑張り屋の娘を気遣う母の想いが込められていた。モモさんは「これ、すごく覚えてます。これは私だな…。私のルーツですね」と懐かしさに涙をこぼし、両親への感謝の言葉を語る。