今回のお届け先はメキシコの首都・メキシコシティ。この国の人々を夢中にさせるメキシカン・プロレス「ルチャリブレ」で、悪役プロレスラーとして活躍する柳沼寛香さん(28)と、福島県郡山市に住む母・千香子さん(58)、祖母・ミヨさん(80)をつなぐ。「最初、プロレスをやると聞いたときはびっくりしました。でも小さい時から一度やると決めたら絶対にやる子だったので、反対しても無駄だと思いました」という母。「今、どんな生活をしているのか知りたい」と、寛香さんの暮らしぶりが気がかりなようだ。
ルチャリブレは派手なパフォーマンスと迫力ある対戦でメキシコの庶民に愛される一大エンターテインメント。柳沼さんがその世界に飛び込んでもう5年になる。所属するCMLLは1933年創設。世界で現存する中でもっとも歴史ある名門のプロレス団体だ。実は20才の頃、日本のプロレス団体に所属していたこともある寛香さん。だがその時は思うような結果が出せずに挫折。2年で引退した。そんな失意の中、気分転換にやってきたメキシコでルチャリブレと出会い、再びプロレスの世界で生きることを決意した。そしてデビューからわずか1年3ヶ月でなんと女子世界王者まで上りつめたのだ。寛香さんは「練習して習得した技でお客さんが沸いてくれるのが魅力。この仕事は苦労も多いけど、そんな時すべてが吹き飛ぶ」とルチャリブレの魅力を語る。
試合はメキシコ全土で行われる。リングに悪役の寛香さんが登場すると観客から大ブーイングがわき起こり、場内が一気にヒートアップ。寛香さんも「ブーイングをもらってナンボです」と満足そうに笑う。だが自分の出番が終わっても寛香さんは次の試合が気になる様子。実は夫のホセ・ルイスさんも同じ団体で悪役レスラーとして活躍しているのだ。試合を終えて2人が自宅に戻ってきたのは深夜2時。こんな日が何日も続くこともあるというから、体力的に厳しい仕事だ。
高校業後は動物写真家を目指して東京の専門学校に入学した寛香さん。以来、父とは面と向かって話す機会もないまま、父は昨年他界。そんな父について寛香さんは「いつも黙って何も言わない人だった。私には関心がないみたいだった」と話す。血のにじむような努力で一つ一つ夢を実現させてきた寛香さんだが、最後まで父には認めてもらえなかった…という想いがあるようだ。
だが実は寛香さんが日本でプロレスをしていた頃、父が密かに寛香さんの記事が載った雑誌を買い集めていたことを母が明かす。そしてそんな母から寛香さんに届けられたのが、父が愛用していたカメラ。「これを借りて学校に行っていました。私が専門学校に行くようになって、父もまた撮り始めたようでした。その時には父とカメラの話もするようになりましたね」と思い出を語る寛香さん。そこには父が撮りためていた寛香さんの写真も添えられていた。寛香さんが日本でプロレスをやっていた頃、こっそりと試合を見に行っていた父は、気づかれないように後ろの席から望遠レンズ越しに娘の姿を追っていたのだ。初めて父の想いを知った寛香さんは「いつか父をメキシコに招待して、今の生活を見せたかった。今の自分があるのは家族のおかげです」といって、涙をこぼす。