今回のお届け先は、歴史的建造物が建ち並ぶ世界遺産の町・メキシコのグァナファト。その路地裏で小さなレストランを営む青柳正則さん(35)と、滋賀県大津市で日本料理店を経営する父・信介さん(62)、母・美智子さん(60)をつなぐ。何のツテもなく、妻子を連れてこの地に移住し3年。父は「突然孫を連れて行くと言い出し、住むところもこれから探すというので驚いた」と当時を振り返り、母は「小さい孫と嫁が心配。とにかくすべてが心配です」と話す。
正則さんが店をオープンして1年8ヵ月。店はデリ(デリカテッセンの略)・スタイルのレストランで、ショーケースに並ぶ総菜の中から好きなものを選んでテイクアウトしたり、店で食べることができる。日本風の味付けと低カロリーのヘルシーなメニューが好評で、店はいつも常連さんたちで賑わっている。中でもひじきを使った料理が大人気。だが最近は手に入らなくなり、メニューとして出すことができず、正則さんは困っていた。そこへ両親から大量のひじきが届けられ、ピンチを救われる。さっそく町の広場の掲示板に「日本からひじきが届きました」と張り紙を出すと、それを目当てに次々とお客さんがやってくる。それほどひじき料理はこの店の看板になっているのだ。
55年続く日本料理店の次男として生まれた正則さんは、幼い頃から調理場に立つ父が憧れだったという。調理師学校を卒業後、一度は父の店で働いたものの、店の跡継ぎという人生にどこか物足りなさを感じていた。「その頃、ヨーロッパへバックパックで旅行をした。でも“海外に出るってこんなことじゃない、そこで何かをしなければ”と、その方法を探していた」という正則さん。そして青年海外協力隊として中米のベリーズへ赴任。仕事は調理の基礎を教えることだった。帰国後は妻の礼奈さんと結婚。長男が生まれてからも海外への思いは尽きず、いつか海の向こうで店を持ちたいと考えていた。
そして2007年、この地に一家3人で移住し、わずかな貯金を元手に今の店をオープンした。ようやく経営も軌道に乗り始め、生活にも余裕が生まれてきたという。昨年秋には次男も生まれ、可愛い子供たちのいる正則さん一家と店は地元の人に愛される存在となった。実家の店を継ぐことを期待されていた正則さん。「両親には30才になったら帰ってくる、と言ったのですが…約束を破ってしまって」と、心を痛めるが、息子の奮闘ぶりを見た父は「いい店になっていてよかった!地元の人に愛される店が一番。この地に根を張って頑張って欲しい」と励まし、母も「息子たちの幸せな姿を見るのが私たちの幸せ」と正則さん一家を温かく応援する。
そんな両親から正則さんに届けられたのは信楽焼のたぬき。地元のお客さんに愛され続けてきた実家の店に創業時から飾られ、その歴史を見守ってきたものだ。たとえ店は継げなくても、地元のお客さんに愛されるという魂だけは受け継いでほしい…そんな思いが込められていた。さっそく店先に飾る正則さん。「自分が思っていたこと…常連さんを大切にし、地元の人に満足してもらうということ。それをやり続けていいんやと言ってもらえたようで。父の意志を受け継いでこれからも頑張りたい」と正則さんは決意を新たにする…。