今回のお届け先はメキシコ・グアナファト。この地で、病院に入院中の患者やその家族を音楽やダンスなどで癒すアートセラピストとして活動する水谷祐子さん(31)と、愛知県に住む父・廣幸さん(70)、母・郁江さん(68)をつなぐ。3年前に両親の反対を押し切って日本を飛び出した祐子さん。両親は「帰ってきて欲しい。でも"向こうにずっといる"と言われるのが怖くて…」と、この先どうするつもりなのか、直接祐子さんに聞くことができないという。
大学でメキシコについて学び、その文化に魅了された祐子さんは1年間グアナファトへ留学し、そのまま就職。その後、一旦帰国したが、ピアノの経験があった祐子さんは、友人に勧められてアートセラピストになることを決意。両親の反対を押し切って3年前に再びメキシコへと渡った。
現在はグアナファト州政府から依頼を受けてセラピストを病院へ派遣するアートセラピー専門会社に所属。祐子さんらセラピストは病院を訪ねて直接病室へ入り、患者の目の前でフルートやピアニカ、ギターなどの楽器を演奏し、歌を歌い、ダンスを披露して患者たちの心を癒すのだ。それと同時に、心身共に疲れている医師や看護師らを癒す役目も担っているという。パフォーマンスを披露する以外にも、祐子さんはどのセラピストがどの病室でどんな曲を演奏すればいいか、患者を見回ってセラピストを振り分ける現場責任者も任されている。「この仕事は本当にいい仕事だと思う。やけどで入院していたある女の子が痛がって泣くので痲酔をしようとしたが、私たちが演奏を始めると泣きやんでじっと聞き入り、痲酔をしなくても治療ができた」と祐子さんはある患者のケースを振り返る。アートセラピーが患者の治療にとって大きな助けになっているのだ。
祐子さんは現在、留学時代に知り合ったグアナファト出身のアレハンドロさん(31)と同棲中だ。プロのリコーダー奏者でもある彼は、祐子さんと共にアートセラピストとしても活動している。結婚の予定はまだないが「いいパートナーなので、このまま続けば一番いい」という祐子さん。時間を見つけてはアレハンドロさんの実家を訪ねており、今では家族の一員として大切に迎えられている。仕事も私生活も充実した祐子さんは「この仕事をずっと続けたい。両親には悪いと思っていますが…日本に帰るつもりはありません」ときっぱり。その言葉に両親は思わず絶句する。父は「生き生きと仕事をしているのを見て安心したが…(彼の存在は)ショックです。こういう姿を見ると無理やり帰って来いとは言えない」、母も「本人が幸せなら…とも思いますが、やっぱり寂しい」と気持ちは複雑そうだ。
人の死というつらい現実とも向き合わねばならない仕事だが、みんなに生きる力を持ってもらいたいと頑張り続ける祐子さん。そんな彼女に母から届けられたのは、祐子さんの訪問着。日本にいたころ、2人で一緒に選んだ着物だという。和服姿が患者に喜ばれると聞いた両親が、「活動の助けになれば…」と送ってくれたのだ。そこには母が自ら着物の着方を教えるDVDも添えられていた。そんな母に「感謝しています」とメッセージを送る祐子さん。その翌日、病院にはその着物を着て患者に日本の折り鶴を教える祐子さんの姿があった…。