今回の配達先はイタリア・ジェノバ。イタリア国内だけでなく世界からも注目されている人形作家のフォルトゥナート尚子さん(46)と、大阪に住む父の昌宏さん(72)、義母の典子さん(54)をつなぐ。
幼い頃からヨーロッパに憧れていた尚子さんは、フランスを旅行中だった大学生のときに今の夫アンドレアさんと知り合い、彼の故郷であるジェノバで結婚。それから22年。遠く離れて暮らす娘に対し、父は「私がずっと仕事人間で、子供たちにとっていい父親ではなかったかも」と後悔の念があるようだ。
尚子さんが作る人形は幼い子供を再現した粘土の「抱き人形」。まるで生きているようなリアルさが魅力で、赤ちゃんの手のシワ一本一本、小さな爪一つ一つの細かなディテールまで粘土で表現する。身体のパーツを焼き上げたら、潤んだ瞳や上気したようなバラ色の頬を手作業で彩色。さらに手作りの服を着せて完成させる。1体約20万円。そんな人形が評判となり、世界中から注文が殺到しているが、人形は完全受注制で、1ヵ月に1体作るのがやっと。「3年待ってもらっている人もいて…」と尚子さんは心苦しそうに話す。
尚子さんが一番大切にしている人形がある。それは19年前に他界した最愛の母が作ったもの。元々人形作りには興味がなかった尚子さんだが、母が亡くなった後、なぜか無性に作りたくなり、独学で人形を作り始めた。人形作りは尚子さんにとって心の支えであり、今やかけがえのないものになっているのだ。
映画会社に勤務し、毎日忙しく働いていた父とは、なかなか親子の時間が持てなかったという。「一昨年、父に一番好きな映画は何か聞いたんです。"一つだけ挙げるなら『サウンド・オブ・ミュージック』かな"って。実は私も同じ映画が好きだった。そういうことを子供の時から話し合って知っていたら、もっと楽しかっただろうな…って」と、尚子さんもまた心残りに思っているようだ。
そんな父も2年前に定年を迎え、少しずつお互いのことを話す時間を持てるようになった。遠く離れた2人をつないでくれているのは、17年前に父と再婚した義母の典子さん。「今のお母さんが来てくれて父との関係も変った。一番メールで話をするのも今のお母さんです」と尚子さんは語る。
音楽好きだった父の影響で、尚子さんも4人の子供たちも音楽が大好き。子供たちは皆、音楽院に通っており、一家でファミリーバンドも組んでいる。今回スイスに留学中の次男も帰郷して久しぶりに家族全員が揃い、日本の家族に向けてファミリーバンドの演奏を届ける。
そんな尚子さんへ、父からのお届け物は「パパがしたいこと」とタイトルが付けられた手作りのノート。そこには2人が大好きな映画『サウンド・オブ・ミュージック』の撮影地を一緒に旅行し、やってみたいことが書かれていた。仕事一筋に生き、子供とふれあう時間あまりなかったという父の、あらためて親子の思い出を作りたいという想いに触れ、尚子さんは思わず涙をこぼす…。