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#069「コスタリカ」 8月23日(日) 午前10:25〜10:55


 今回は昆虫の宝庫・コスタリカ共和国で活動する昆虫学者の西田賢司さん(37)と、大阪・松原市に住む母・歌江さん(69)をつなぐ。22年前、中学卒業後すぐに日本を離れ、アメリカの高校へ留学した賢司さん。遠く離れた母の心配は、ひたすら昆虫の研究に没頭する、いまだ独身の賢司さんの結婚のことだ。

 高校卒業後、大学で生物学を学んだ賢司さんは、12年前からコスタリカの首都サンホセに住み、昆虫の研究を続けてきた。専門は蛾の研究で、新種を発見したり、知られざるその生態を明らかにし、論文や写真を世界へ発信している。その研究は今、生物学の世界で高い評価を受けているという。

 深いジャングルや険しい洞窟まで分け入って調査採集する賢司さんを、まわりは"探検昆虫学者"と呼ぶ。標高約3400mの山地での採集に同行すると、賢司さんは虫網を手に、まるで無心に遊ぶ子供のように昆虫を追い、見事に新種を見つけてしまう。木の葉や枝の中に潜む小さな幼虫まで見逃さず、その眼力は学者仲間の中でも群を抜いているといわれている。賢司さんは「自分の知識を増やし、世界の人とそれを分かち合うのが喜び。果てしのない世界です」と研究の魅力を語る。

 2歳の時から虫採りに夢中だったという賢司さん。「学問の道に入ろうと思ったのは大学卒業前。虫しか取り柄がないもので」と笑うが、以来10数年、昆虫一筋。「遊ぶ時間は要らない。寝る時間も惜しい。5,6年前まではトイレにも行きたくなかった。人に会うこともほとんどない」と、一人孤高の研究を続けている。

 自分の思う道をまっすぐに進んできた賢司さんだが、中学時代に、受験のためだけの勉強に大きな疑問を抱いたという。そんな息子に留学を勧めたのは母だった。だが、日本で堅実な道を歩いてほしいと望んだ父・一道さん(享年75)は猛反対した。「父は考えが型にはまった人。母は道がなければ切り開くタイプの人。僕は母親似です」という賢司さん。以来あまり言葉を交わすこともなくなったまま、父は3年前に他界した。賢司さんには自分を理解してくれなかった父に対して、わだかまりがあるようだ。

 そして、母が心配する結婚については「ここでは虫との出会いしかなくて…(笑)。結婚はしたいけど、出会いがない。厳しいです」と賢司さんは諦め気味に笑う。そんな賢司さんへ母からのお届けものは、父が定年退職後に描きためたという水彩画。びわや南天、あじさいなど、自宅の庭にある植物を好んで写生していた父。その中に、唯一想像で描いたという鯉のぼりの絵が…。賢司さんのことを想いながら描いたものだった。「夫がいつも賢司のことを想っていたことを伝えてほしい。今なら彼も分かってくれるんじゃないかな」。お届け物を託す際にそう語っていた母。「父は植物が好きだった。そこにはいつも昆虫がいた…」。父の描いた絵を眺めながら、賢司さんの中に忘れかけていた幼い頃の父の記憶が甦る。父の想いを知り、"父がいたから今の自分がある"と確信した賢司さんは、思わず涙をこぼし…。