今回の配達先は、インドシナ半島の中部に位置するタイ王国。この国の交響楽団で主席コントラバス奏者として活躍する佐々田ゆかりさん(36)と、神戸に暮らす父・一之さん(63)、母・冨美子さん(60)をつなぐ。
「ゆかりさんの演奏を聞かれたことは?」と山口が聞くと、「タイで演奏しているのは聞いたことがない。主人が病気を患っているので、タイに行きたいけど行けない状態」とお母さん。「一番心配なことは?」との質問には、「前回、ゆかりが帰国した時にけんかをしてしまい、『もう二度と帰ってこない』と出て行ったまま話をしていない。私としては関係を修復したい」とお父さん。
タイへは、4000キロ、およそ6時間の旅。ゆかりさんは、タイの交響楽団で主席コントラバス奏者として活躍している。ゆかりさんが所属するのは、TPOこと、タイランドフィルハーモニックオーケストラで、2004年にマヒドン音楽大学がタイ王国政府の援助を受けて設立した誕生間もないオーケストラ。TPOは、タイ国内ではトップレベルと言われているが、まだまだオーケストラ後進国のタイ。国内の人員だけでは賄えないため、楽団員の半数近くがゆかりさんのような外国人奏者だという。この楽団のコントラバス奏者は、6人。主席奏者であるゆかりさんは、自分の演奏だけでなくパート全体の音をひとつにまとめあげるという重責を担っている。
ゆかりさんが、音楽と出会ったのは3歳のときに始めたピアノ。中学生の時に入ったブラスバンド部でコントラバスと出会い、全国大会で2度の優勝を飾った。大学卒業後もプロのコントラバス奏者として、音楽漬けの日々を送っていた。しかし、若手の奏者がどんどん育って来る中、次第に自分の限界を感じるようになったという。一時は、コントラバスをやめようとまで思ったゆかりさんは、一度完全に音楽と離れるため、2ヶ月の休暇を取りタイに旅行に来た。ところが、その休暇中に偶然、知人にTPOを紹介されたことがきっかけでもう一度音楽に携わることとなる。
一度は、引退まで考えたゆかりさんが再びコントラバスを手にした一番の理由、それは「生徒に教えることにやりがいを感じた」こと。
実は、TPOで演奏する外国人のほとんどが、マヒドン音楽大学で講師もしている。ゆかりさんも朝から夕方までは、生徒たちにレッスンをし、夕方からTPO団員として活動している。
一度決めたらやり通す、頑固な性格は父親譲りだというゆかりさん。しかしお父さんとは、いつの頃からか会えばケンカばかり。「親はいつまでも私を子供扱いする。でも私は大人として扱ってほしい。そこに意識の違いがあると思う」とゆかりさん。
そんなゆかりさんにお父さんからの届けものは「1枚のDVD」。そこに映し出されたのは、幼い頃のゆかりさん。お父さんが8mmフィルムで撮りためてきた、ゆかりさんの成長の記録だった。「お父さんにとってゆかりは、いくつになっても変わらない大切な娘なんだよ」という気持ちが込められていた。DVDを見たゆかりさんは涙を流し…