日本と海の向こうをつなぐのは、山口智充。
今回の配達先は、ドイツの北西部にあるデュッセルドルフ。
ドイツが与えるピアノ調律師の最高資格「ピアノマイスター」の安田昌弘さん(47)と大阪府大阪市に暮らす父・茂さん(78)と母・勝子さん(69)をつなぐ。
実は、お父さんも同じピアノ調律師と聞いた山口が「同じ職業につかれた息子さんがドイツに行かれたのはどんな気持ちですか?」と聞くと、「私もやりたかった、ピアノが生まれたドイツでもっと高い技術を学びたかった」と悔しそうな父。「父が見た夢を息子が叶えたなんてすごくかっこいい」と山口。
ドイツへは、飛行機で13時間、9400キロの旅。昌弘さんが暮らすのはドイツ北西部、ライン河沿いにあるデュッセルドルフ。
昌弘さんは、日本の音楽大学を卒業後、父親の工房で修行。「ピアノ製作の真髄を学ぶため」に単身ドイツに渡り、苦学の末にドイツが与える職人の最高資格「ピアノマイスター」の称号を得る。ピアノマイスターとは、ピアノの構造を熟知し調律から製作まで、全ての作業をこなす職人のことを言う。
ドイツ国内に、「ピアノマイスター」は531人。デュッセルドルフにはたったの2人。日本人は、昌弘さん1人だという。今から10年前に工房を構え、弟子を取っている昌弘さんだが、これまでの道のりは決して楽ではなかったという。「ピアノマイスター」になるには、国内でたった一つしかない養成学校で1年間勉強した後、国家試験に合格しなければならない。学ぶことは膨大で、専門科目だけでなく経済学や法律の勉強もしたという。学校が自宅から400キロも離れていたため、週末しか家族に会えず。しかもその間は全くの無収入。その間奥さんは当時小さかった息子の世話をしながら昌弘さんを支えた。苦しかった生活の中、経済面を心配することなくピアノのことだけに専念させてくれた父親の存在は大きかったという。結果、昌弘さんはマイスター養成学校を見事に主席で卒業した。
「同じ職業をしているお父さんのことを思い出したりしますか?」というスタッフの問いに昌弘さんは「やっぱり師匠。こんな時、父ならどうするだろうといつも思う」と。
お父さんから、昌弘さんへの届けものは「父が長年愛用したピアノ調律の道具」。そこには、ピアノ調律の仕事を引退する父の決意が込められていた。