日本と海の向こうをつなぐのは、山口智充。
今回の配達先は、ベルギーのワーレヘム。初生雛鑑別師の吉原勝則さん(58)と、大阪府に住む兄・正明さん(64)と義姉・悦子さん(58)をつなぐ。
「弟さんのどんなところを見てみたいですか?」と山口が聞くと、「ベルギーでの生活ぶりと、仕事しているのは見たことがないから、見てみたい」と兄正明さん。
ベルギーへは、飛行機で13時間、9500キロの旅。勝則さんが暮らすのは西部の小さな田舎町ワーレヘム。勝則さんは21歳で日本を離れて以来37年、ヒナ鑑別の腕一本で、アルゼンチンやチェコなど7カ国を渡り歩いてきた。現在ベルギーに、初生雛鑑別師は2人しかいないという。日本で生まれたこの技術は、世界中で引く手あまただ。
勝則さんの仕事場は、種鶏場と呼ばれる、有精卵を温度管理している場所。ここで、孵化した直後のヒナの性別を鑑別する。ヒナは、オスとメスで成長の速度や、エサの量が違うために、養鶏場に出荷する前に鑑別する。ヒナが育ってオスメスがわかるのは2週間以上たってからだという。もし間違えば、養鶏場は大きな損害になるため、求められる正解率は98パーセント以上。一日に鑑別するヒナは2万羽を超えることもあるという。種鶏場のオーナーも「彼はヨーロッパで一番早い鑑別師。とても頼りになります」と勝則さんを評価している。
勝則さんは、スロバキア人の妻・セニアさん(58)、娘の清美さん(26)、えみさん(22)の4人暮らし。セニアさんとの出会いは、スロバキアでの仕事場。1979年に結婚して以来、世界各国を飛びまわる暮らしの中でずっと勝則さんを支えてきた。二人の日課は散歩だという。
勝則さんは飛行機を見ると、日本に帰りたいと思うという。今でも心残りなのは、亡くなったお母さんの看病ができなかったこと。5人兄弟の末っ子に生まれた勝則さんをお母さんは誰よりもかわいがっていたという。
そんな勝則さんに日本の兄正明さんからの届けものは「いちじくのジャム」。
お母さんから譲り受けたイチジクの苗を、兄正明さんが育て、その実で手作りしたジャム。昔、お母さんが手作りし、兄と一緒に食べていた思い出の味。そのお母さんが最期まで、肌身離さず持っていた、大事な形見も一緒に届けると、勝則さんは思わず家族のところに駆け寄って…