• 『アニメ村のステキな住民たち』アニ民93人目
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  • 2011.06.02

 東映アニメーション副社長 森下孝三さんです。

 森下さんに初めてお会いしたのは何時だったでしょうか。「金田一少年の事件簿」の際は当時の清水プロデューサーの上司としていくつかお話しできてますが、絶対その前にお目にかかってると思います。

 僕の尊敬するその清水さんが尊敬するという森下さん。業界各所の評判が良いのはもちろんですが、それまでも業界の雄・東映アニメーションをして森下さん有りと聞いていまして、清水さんともども最近の東映アニメーションの驚くべき躍進の基礎になっていることは間違いありません。

 そもそもは演出家だったそうですね。「聖闘士星矢」で派手なアクションを前面におしだした演出からプロデューサーに転向されたそうです。その後の「ドラゴンボール」もその演出感覚がいかんなく発揮されたプロデュース作品となってますし、演出という武器をもったプロデューサーなんてほぼ無敵な感じですよね。

 でも一番印象に残っているのはもう5年も前になるでしょうか。まだ「ヤッターマン」の企画が決まる前のことでした。今はもう無き月曜夜7時のアニメ枠をどうしたら維持出来るか、企画選びにすごく苦労していた時期がありました。そこである企画を清水さんと開発しようと頑張っていたのです。

 どんな企画にしろキャラクター設定や文芸的なもろもろの作業は発生します。清水さんと僕でマーケティング的な動きなどもこなしていく中で、東映アニメ側の物理的作業フィーが明らかに存在していきます。無事に企画が通ればそれも大丈夫になるのですが、通らなかった時は困ることになります。制作会社というのはそのリスクを含んで行動するのが常ですが、その時はYTV側の事情もあり、結果は多大なご迷惑をかけてしまいました。その際にずっとバックに立ってくれて指導してくださったのが森下さんでした。一連の作業の中、一貫して「金田一少年の事件簿」も活躍したアニメ枠のために、と純粋に協力をしてくださったそうです。そのころの僕がどれだけ助かったことか。改めて森下さんと清水さんに心から感謝いたします。

 そんな副社長という立場でありながら今回映画の監督もされました。経営者が現場復帰であります。5月28日から全国公開されている「手塚治虫のブッダ−赤い砂漠よ!美しく−」。日本人にとっても僕にとってもマンガの神様の著名な原作はじっくり愛読したものです。潮出版社の少し手触りがハードな単行本が思い出されます。およそこうだという回答が無い命のことわりに対して、全身全霊で立ち向かうようなブッダに、宗教感覚を超えて共鳴したものです。全三部の第1作というこの作品では、その表現したいもののために登場人物たちの時間軸をもさわって、あるエネルギーの集中を狙っているかのようなストーリー演出が印象的でした。

 聞けば森下さんは次回作映画にも取り組んでいるとか。その昔時間もかけた華麗な演出ではお金を使いすぎるから、お金を出す方のプロデューサーに回ってみろ、と業種変更を余儀なくされた森下さん。今度はプロデューサーという武器を手に入れての監督業はいかがでしたか。これからも業界の牽引車たる東映アニメーションそして監督&プロデューサーのトップとして、僕らアニメスタッフにその背中を見せ続けていってくださいね。