循環器病チャリティー 医療セミナー
「“口は災いの元”~むし歯・歯周病と脳卒中の危ない関係~」vol.1
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国立循環器病研究センター・脳神経内科 猪原匡史(いはら・まさふみ)部長 -
「悪玉むし歯菌」と「脳出血」との関係についてお話しします。今日のアジェンダは、まずは脳卒中についての概略をお話しさせていただいて、そのあと特に悪玉むし歯菌と脳卒中との関係ですね。我々がこれまで国循の中で行ってきた研究と今後の戦略です。脳卒中予防、特に脳出血予防のために、口腔内の環境をどうやって整えていくかについてお話しします。脳卒中が死亡原因の3位であったり4位であったりします。現在は4位であると言われています。高血圧の管理等、脳卒中のリスク管理が行き渡り、脳卒中がピーク時に比べると減少してきましたが、ここにきて下げ止まっているという状況です。さらに、そうした生活習慣病、脳卒中のリスクの管理以外に何をすべきかが、研究が求められている現状です。
脳卒中は2つに大きくわかれ、「血管が破れるタイプ」があり、その中に「くも膜下出血」と「脳内出血」があります。さらに「血管が詰まるタイプ」で、「脳梗塞」です。その中にも少なくとも3つの病型、つまり太い血管が詰まるか、細い血管が詰まるか、あるいは心臓から血栓が飛ぶか、の3つにわけられています。今日の講義では、詰まるタイプよりも破れるタイプがテーマです。それが口腔内の「むし歯菌」と関係するというお話しをさせていただきます。
詰まる方の脳卒中ですが、虚血性脳卒中の世界各国における頻度、概況を示した図です。中国とかロシアは非常に虚血性脳卒中が多い、真っ赤に染まっていますが、それに比べて日本は、比較的虚血性脳卒中は現在、減少し、少し青みがかった色で示され、中国やロシアに比べると少ないという現状です。一方で「出血性脳卒中」に関しては、これほど真っ赤ではありませんが、まだ赤みがかった色で示され、まだまだ出血性の方は依然多いというのが日本の現状で。アジアの国々では、血管が破れるタイプが欧米に比べると非常に多いといわれています。
「脳卒中」対「心筋梗塞」の死亡数を比率で示していますが、脳卒中が日本人を含めアジア人は比較的、欧米人に比べると多い国・民族であるということが、記されています。まだまだこの脳出血というのは、今後も研究を進めていかなければならない大きな理由です。
改めまして、この破れる方ですね、くも膜下出血と脳内出血について説明させていただきます。くも膜下出血というのは、動脈瘤(動脈のこぶ)が徐々に大きくなり、それが破れて、脳の表面に出血するという病気です。一方でこの脳内出血といわれる病気は太い血管からこの穿通枝(せんつうし)と呼ばれる細い血管が出ていきますが、こうした細い血管が破れて脳の中に出血が起こるというのが一番大きな原因です。これまで言われていたことは、高血圧や糖尿病や喫煙などが「血管リスク」として、脳内出血に関わっているだろうといわれていましたが、リスクが管理されているにも関わらず、脳内出血がそれ以上減ってこないということで、他の原因を探さないといけないと言われるようになってきました。
さらに脳卒中が多発すると、のちに認知症が起こります。認知症と聞くとどうしてもアルツハイマー病のイメージが非常に強いですが、脳卒中が多発すると認知症が起こります。大体初発の脳卒中の方々で、5人に1人が認知症、再発すると3人に1人が認知症といわれていますので、脳卒中予防というのは認知症予防に直結するということがこの図でも明らかです。
血管性認知症というのはいくつかの病型があります。大きな脳梗塞によって起きる認知症や、小さな脳梗塞が多発して起こる、あるいは脳は、領域によって非常に機能が分化していますので、海馬や視床内側といわれる場所に小さくても脳梗塞ができると認知症が起こるといわれています。さらに心不全、頸動脈の狭窄症・閉そく症によって脳の循環が低下すると、認知症が起きます。アジアで非常に重要な病型はこの出血性の認知症です。「脳出血によって認知症が起こる」。こうした病型も非常に多いといわれています。高齢化に伴い、アルツハイマー病との合併率も非常に増えているということですが、この脳卒中を予防することが血管性認知症の予防につながるということが非常に重要なポイントとなっています。
