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温泉の「湯量激減・温度低下」なぜ頻発?

【独自解説】“温泉大国”ニッポンに異変!「湯量激減」「温度低下」破産申請準備の旅館も…全国の温泉街でいったい何が?専門家が分析

 今、日本の温泉に異変が起きています。青森県弘前市の嶽温泉郷では、温泉の温度の低下などが原因で集客が困難となり、破産申請の準備を進める旅館もあるというのです。長野県千曲市や北海道屈指の観光地「ニセコエリア」、さらに温泉の湧出量と源泉の数が日本一を誇る大分県別府市でも、源泉から湧き出す湯量の激減や、深刻な源泉温度の低下が起こっています。なぜ同じ時期に、これほどまで異変が頻発しているのでしょうか?環境省・温泉地保護利用推進室の北橋義明室長が解説します。

青森「嶽温泉郷」湯温5℃低下で旅館廃業の危機

350年の歴史 名湯「嶽温泉郷」

 日本は、言わずと知れた“温泉大国”です。宿泊施設のある温泉地は全国に約3000か所あり、“コロナ禍”前の宿泊利用人員は年間のべ1億3000万人を超え、平均すると1年に1人1泊以上宿泊していることになります。

 青森県弘前市の嶽温泉郷は、岩木山麓の名湯として知られ、350年の歴史があり、6軒の旅館が立ち並ぶ人気の温泉街です。そのうちの「小島旅館」では、2022年12月28日から温泉の温度が低下する現象が発生し、通常なら41℃~42℃で供給されるはずの湯の温度が、36℃前後まで低下してしまったということです。

環境省 温泉地保護利用推進室 北橋義明室長

Q.日本の温泉には長い歴史がありますが、お湯の温度が下がるということは過去にあったのでしょうか?
(環境省・温泉地保護利用推進室 北橋義明室長)
「日本には2万8000本くらい源泉井戸があり、温泉を使っている施設だけで約2万軒あります。温泉というのは生き物ですので、温度が下がったりすることは、昔から日本全国で起こってきたことではあります」

源泉温度が低下…原因は不明

 嶽温泉郷では、温度の異なる4つの源泉をブレンドして、各旅館に供給しています。源泉の温度を確認したところ、一番熱い80℃の源泉が約50℃まで低下し、湯量は毎分200ℓから40ℓまで減少していました。「小島旅館」の小嶋庸平代表は、配管のトラブルを疑い、配管の復旧工事を実施しましたが、配管に異常はなく、トラブルの原因は不明だということです。

Q.このお湯は別にして、全国各地の配管の老朽化問題という側面もあるのですね?
(北橋室長)
「そうですね。やはり人為的な施設というのは、数十年が経過すると維持管理は大事なことです。今回の場合は温泉資源の問題なのか、途中の井戸を含めた施設の問題なのかは、まだはっきりしていないと思いますので、その原因をしっかり調べていくことが大事だと思います」

旅館は新規予約の受付を停止

 「小島旅館」の小嶋代表は、「現在、十分な温度と量が確保できない状況。湯が枯渇した可能性も考える必要がある。春過ぎまでは通常営業に戻れないかもしれない」と言い、現在は新規の予約受付は行わず、すでに予約した客はキャンセル可能にしているということです。

 嶽温泉郷の6つの旅館のうち、3つが休館へと追い込まれ、なかには「破産申請」の準備を進める旅館も出ています。嶽温泉旅館組合は雪どけを待って、残りの3つの源泉を確認するとしていて、市や県・国に対して支援を求めることも視野に入れているということです。北橋室長は「温泉のトラブルの原因は大きく分けて、配管・井戸・資源の3つ。何が原因なのかしっかりと調査を進めるべきだ」と言います。

Q.嶽温泉郷は雪深いところですが、雪がとけてからでないと、根本的な調査はできないのですか?
(北橋室長)
「調査の方法としては、井戸にカメラを挿入して、井戸の壁の状況を調べたりすることも手法としてはあります。ただベースラインとしては、常日頃からしっかりと温泉の温度や湯量などをモニタリングして、異常の兆候があったときに素早く対策が打てるようにしておくことが大事だと思います」

ニセコや別府でも…原因は「温泉の使い過ぎ」

各地で「湯量激減」「温度低下」

 このような温泉の異変は全国で相次いでいて、長野県千曲市・佐野川温泉の温泉施設「竹林の湯」では、2004年は毎分55ℓあった湯量が、2019年には26ℓと半分以下になり、2022年11月下旬からさらに湯量が減少したため、現在は休業中です。長野・千曲市生活安全課の中山秀一係長は「源泉や設備の調査をしても原因は分からず、再開のメドは立っていない」としています。

 さらに北海道倶知安町では、2016年~2019年にかけて、温泉井戸の水位が15mも下がったことが分かっています。そして大分県別府市の竹瓦温泉では、源泉の温度が下がり、過去60年で9℃も低下したということです。

なぜ同時期に異変?

 なぜ、同時期に異変が起きているのでしょうか?北橋室長によると、「高度経済成長期(1955~1973年)以降に全国で温泉が急増した。そこから60年が経ち、井戸を保護するパイプなどの設備を交換する時期と重なっていることや、温泉を大量にくみ上げてしまったことが原因だ」ということです。

別府温泉のしくみ

 温泉の仕組みには色々なタイプがありますが、例えば別府温泉では、雨が降って地面にしみ込んだ雨水がマグマ溜まりで温められて熱水となります。これを掘削して出したり、自噴したものが温泉で、とり過ぎると枯渇してしまいます。

(北橋室長)
「昔はいわゆる天然の自噴泉だけでしたが、その後人為的に井戸を掘る技術が発達したことで、深い所から温泉がとれるようになりました。もっと言えば、人為的に掘削したものも、自然にそこから湧いて出る場合と、ポンプをつけて人工的にお湯をくみ上げる場合があります」

Q.高度成長期の温泉ブームもあって、日本では人工的に掘削した源泉数がどんどん上がっていますが、温泉を掘り出している場所が日本で多くなってしまったということですか?
(北橋室長)
「そうですね。ただ、日本全国の傾向と個別の温泉地の傾向というのは違う部分もあります。例えば、北海道のニセコエリアの中でも比羅夫地区は、近年になってインバウンドの増加を踏まえて、この10年ぐらいの間に急速に新しい掘削が進んだことで、こうした対応が必要になりました」

Q.別府の竹瓦温泉は、過去60年で9℃も温度が下がっているのは、雨水が温まらないうちに掘り出してしまっている、ということが起きているのですか?
(北橋室長)
「掘削の数というよりは、そこからどれだけの温泉をくみ上げるかということです。供給量と温まる速度、それに対してお湯をどれぐらい使うか、そのバランスが持続可能な量よりも多くとり過ぎてしまうと、湯量の減少や温度の低下につながっていきます」

別府温泉の100年後を予測

 別府市では、温泉の温度低下などを分析し、泉温が100年後どうなるかというシミュレーションを行いました。2020年の泉温分布と2120年の予測を比較すると、温度が高い赤色のエリアが少なくなり、全体的に温度の低い青色のエリアが広がっていることが分かりました。

 大分県はこの調査を受け、新たな掘削を認めない特別保護地区を、別府市に2か所追加しました。県の担当者は「温泉は無尽蔵に出てくるものではなく、限りある資源。将来のためにも慎重に使うことが重要」と話しています。

Q.インバウンドでどんどん外国の方にも来ていただきたい、日本の方にも温泉で温まっていただきたいという一方で、温泉を守らないといけないという時代に入っているのでしょうか?
(北橋室長)
「そうですね。全国的な傾向で言うと、むしろ温泉がどんどん掘られて過剰に採取されていた時期、高度成長期の昭和40年代・50年代に全国で問題が顕在化して、それに対応して別府のように新規掘削を規制するようなエリアが、都道府県によって全国各地で指定されてきました。あるいは規制だけではなくて、限りある資源を有効に活用するための温泉の集中管理システムも、その時期から導入が進んでいて、現在では200弱のエリアでそういった管理がなされています。そういうふうに、『保護・規制』と『有効活用』が両輪で進められてきたという歴史があります」

Q.われわれ日本人は、「温泉は限りある資源」だと思っておかねばなりませんね?
(北橋室長)
「そうですね。『湯水のごとく』という言葉がありますが、温泉というのは、冷たい水が地下で温められて作られるものですから、その供給量の範囲の中で持続可能な形で使っていく、ということが非常に大事になってきます」

(「情報ライブ ミヤネ屋」 2023年1月18日放送)

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