記事
【独自解説】中国“秘密警察署”が世界中に?53か国に拠点か…尾行、監視、脅迫など広がる監視網…日本でも暗躍か?その実態に迫る
2023年4月27日 UP
4月17日、中国系とみられる男2人が、アメリカ司法当局に逮捕されました。その理由は、中国公安部が繰り返しアメリカの主権を甚だしく侵害し、ニューヨーク市の中心部に秘密警察署を開設・運営したとしています。秘密警察とは、中国政府の代理人として反体制派(中国の体制に批判的な人)を監視する組織のことで、海外にいる反体制派を“自主的”に帰国させているといわれていますが、その方法と実態は?元NNN上海支局長の経験を持つ「ミヤネ屋」プロデューサー、高井望氏の解説です。
習近平政権が始めた「キツネ狩り」…“犯罪者”を自主的に帰国させる方法
中国・外務省の報道官は「事実根拠が皆無」として、秘密警察の存在を否定しましたが、世界中に展開しているとされています。スペインの人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」によると、拠点は53か国102か所にも及ぶといいます。
「セーフガード・ディフェンダーズ」によると、秘密警察の設置目的は“国外の逃亡者・オンライン詐欺などの容疑者への帰国を説得するため”としていますが、実際は国外に出た反体制派を自主的に帰国させるために圧力をかけるのだといいます。具体的には嫌がらせや監視、尾行、脅迫を使い、時には本人だけではなく中国国内に残る家族への脅迫や投獄などで圧力をかけることもあり、2021年4月からの約1年3か月間に約23万人を説得して“自主的”に帰国させたといわれています。
Q.秘密警察が監視しているのは、海外にいる反体制派ということですよね?
(「ミヤネ屋」プロデューサー 高井望氏)
「ターゲットの属性は留学生から華僑まで幅広く、中国政府に批判的な言動をする人物とみられています。中国では政権批判はご法度で、中国国内では政権転覆罪や騒動挑発罪などで取り締まられます。一方、中国人も国外に出てしまうと中国の法律が及ばないので、政権批判が可能になります。昨今の状況では、そのような言論がインターネットを通じて中国国内に入ってくる可能性があるので、中国当局としては取り締まりたいと考えています。当局としては、『どこの国にいたとしても、自分たちの捜査権で連れ帰りたい』というのが、本音ではないでしょうか。しかし、外国では主権の関係でできないので、“自主的に帰ってくる”という形に落とし込んでいるとみられます。極端なケースでは、中国国内の家族を軟禁するなどして、『家族が今、こういう状況にあるので帰ったほうが良いのでは』ということだけを伝え、“自主的に帰国せざるを得ない状況”を作るともいわれています」
そして、秘密警察に関与しているとみられるのは、福建省福州市・浙江省青田県・浙江省温州市・江蘇省南通市といった地方の公安当局ということです。
Q.北京や上海ではなく、地方都市なのは何故ですか?
(高井氏)
「読み解きが難しいのですが、セーフガード・ディフェンダーズが調査した結果、その4つの都市が浮上したということです。実は、最初の調査では2都市だったのが、追加調査で4都市になりました。今後、調査が進むにつれ、都市の数がさらに増えていく可能性も考えられます。現時点で名前が挙がっている4都市に共通するのは、華僑が多いことで有名だという点です。また、福州は、習近平国家主席が昔、トップを務めた都市として有名です」
Q.習近平国家主席の意向も大いに働いているということですか?
(高井氏)
「あくまで中国の専門家の間で出ている話として聞いてほしいのですが、『国家安全部』と『統一戦線工作部』の2つ機関の名前が挙がっています。『国家安全部』は、国務院に所属する政府機関の一つです。例えば、日本人がスパイ容疑で拘束されるといった事件は、ここが動いているとみられています。そして、もう一つが『統一戦線工作部』。中国共産党の情報機関で、公式には香港やマカオ、台湾など海外の“統一戦線業務”をしていると発表されていますが、一般的にはプロパガンダ工作などを行っているとみられています」
中国外務省は「事実根拠が皆無」として秘密警察の存在を否定しており、いわゆる“海外警察署”は運転免許証更新に伴う身体検査などの補助をする「中国人関連の海外サービスステーション」だと説明しました。
Q.なぜ今、表面化しているのでしょうか?
(高井氏)
「直接のきっかけは、セーフガード・ディフェンダーズの報告書が出たからといわれています。ですが、話は2013年の習近平政権発足に遡ります。習近平政権は、汚職をしている高官を摘発する、という反腐敗運動に力を入れました。そして、2014年から力を入れたのが、いわゆる“キツネ狩り”です。賄賂などを貰った高官が海外に高飛びすることが多かったので、中国としては何としてでも連れ帰したいという事情がありました。そして、2015年の全人代直前などには、なぜかそういった“元高官”たちが自主的に続々と帰国する様子が、中国で報道されていました」
Q.賄賂を貰って海外に逃げた人が自主的に帰国することは、まずないですよね?
(高井氏)
「この“自主的な帰国”というのは非常に不自然で、ひょっとしたら“自主的な帰国”の前段階で監視や脅迫などがあったのではといわれています。その延長線上で反政府的な言動をする人たちもターゲットとして加わり、現在、表面化している問題につながるのではとみられています」
実際に、反体制派への圧力を捉えた写真があります。2022年7月、中国政府への抗議集会に来ていた男性が参加者の顔をカメラで撮影しているものとみられ、秘密警察や中国当局側に連絡していたのではないかといわれています。
そして、香港から亡命した人権活動家のサイモン・チェン氏も中国政府からマークされ、尾行されたとされる写真を撮っています。また、脅迫状を受け取ったこともあり、「中国政府の職員がおまえを見つけて、中国に帰国させるだろう」という内容でした。
Q.自分の国にいると命が危ないということで亡命申請して、国籍を変えたりもするわけですよね。中国は、そんなことお構いなしということですか?
(高井氏)
「反体制派の中でもチェン氏は有名人で、中国人からも注目されています。そんな人にネット上などで反政府的な言論をされると、中国の体制に影響が出ると政府は考えていますので、マークされているとみられています」
世界各国では、すでに秘密警察への対応が進んでいます。オランダメディアが「海外警察を欧州にいる反体制派を黙らせるためにも利用している」と報じると、オランダ政府は「非公式な警察拠点の存在は違法」として2022年12月に封鎖を発表しました。また、2022年11月にはイギリスでも「英国内の未申告の警察拠点は極めて憂慮すべき」として、ロンドン警察庁が捜査に着手しました。少なくとも12か国の法執行機関による捜査が始まっています。
一方、4月21日時点では、日本の松野官房長官は「各種情報の収集および分析に努めている」「我が国でも活動の実態解明を進めている」として、具体的な明言を避けました。
Q.日本国内の拠点が東京・秋葉原だけだとは思えませんし、ヨーロッパに比べると日本政府の動きは遅いと思うのですが、何故ですか?
(高井氏)
「他のシンクタンクの報告書では、違う地名もいくつか出ています。しかし、日本の問題としては、『どの法律で取り締まるのか』ということです。例えば、韓国の例では、拠点とされる中華料理店を摘発したというニュースが最近あったのですが、その時は『食品衛生法違反』で摘発したそうです。ですので、日本でも、どの法律を適用するかが難しいのだと思います」
日本は中国から近いため人の交流も多く、様々な事情があるといいます。しかし、世界各国がこれだけ反応する理由の一つは、亡命です。自分の身の上を案じ、母国を捨ててまで来る人を守れない国だということは国際的信用を失うことになり、日本がそういった人々を保護できない国だということをどれだけ深刻に受け止めるかを問われているということです。
(「情報ライブ ミヤネ屋」 2023年4月24日放送)