過去の放送

#7139月17日(日) 10:25~放送
ベルギー

 今回の配達先は、ヨーロッパ。ここでレーシングドライバーとして奮闘する“Juju”こと野田樹潤(ジュジュ)さん(17)へ、鹿児島で暮らす祖母・千鶴子さん(77)の想いを届ける。
 2日後のレース本番に向け樹潤さんたちがやってきたのは、世界的なサーキット「スパ・フランコルシャン」があるベルギー東部の町・スパ。樹潤さんは最高時速260キロで競う「F3」というカテゴリーに参戦している。今回のドライバーの中では唯一の女性であり、唯一の10代だ。チームの監督でもある父・英樹さん(54)は元F1レーサー。そんな父の影響でレースに興味を持った樹潤さんは、3歳でカートに乗り始めた。5歳のとき、憧れだった父が引退。その最後のレースを終えた父に、「この後は樹潤の番だから、パパみたいなプロのレーサーになるね」と決意を伝えたという。そして9歳で世界初の小学生プロレーサーとしてデビュー。優勝を重ねていたが、日本では上位ランクのレースに出るには年齢制限があることから、14歳のときにヨーロッパへ渡った。現在F3の樹潤さんが目指す最高峰F1の現役ドライバーは、わずか24人だけ。しかもほとんどが男性で、女性が挑むには体力的なハンデが大きな課題となるレースの世界。だが、「ヘルメットをかぶっちゃえば同じですから」と本人は意に介さない。
 ライバルチームは巨大なトラックに何台ものマシンを積んで参戦し、年間の予算は軽く2億円を超えるといわれる。一方、樹潤さんのチームは監督である父・英樹さんとサポート役の母・雅恵さん、かなり年配のメカニックが2人と明らかに弱小のファミリーチーム。だが英樹さんは、「樹潤に対して勝ってほしいという気持ちはどのチームよりも強いし、そのためにやるべきことは惜しみなくやる。だから気持ちの上では一流チーム」と胸を張る。こうして一家は、家であり移動手段でもある大きなキャンピングカーで生活しながら各地のサーキットを回っている。その車中では、レポートの作成も。日本の高校に通う現役の高校生でもある樹潤さんだが、ほとんど帰国できないので勉強はもっぱらリモートと課題の提出なのだという。
 幼い頃から「天才」と呼ばれ、そのプレッシャーと戦ってきた樹潤さんが、どうしても上手くいかない時に思い出すのは祖母・千鶴子さんの言葉。「結果が出なくて苦しかったときに、『今は咲かなくても根を伸ばす時期だから』と。そうか、今やるべきことはいつかチャンスが来た時にすぐ結果が出せるよう準備することなんだなって」。そんなひとことが精神的な支えになっている。
 千鶴子さんは息子の時代からレースを見続け、今は親に続いてレーサーになった孫を応援している。足を悪くしたため現地に行くことは叶わないが、樹潤さんたちのサーキットやバックヤードでの姿を見て、「ああいうのを見ると私も胸がワクワクしちゃいますし、そばにいるような気がしました」と喜ぶ。
 今回は勝てば通算ポイントでトップに立てるという重要なレース。樹潤さんはその予選を1位で通過し、見事ポールポジションを獲得した。翌日の決勝戦では、メカニックが徹夜で仕上げたマシンが彼女に託された。F1への足掛かりにするためにも年間シリーズ優勝の実績は不可欠で、確実に勝ちたいこの一戦。そんなレースで最高のポジションからスタートした樹潤さんは直後から独走状態に。後続車が見えないほど他を引き離し、そのままぶっちぎりのトップでフィニッシュ。圧倒的な速さを見せつけただけでなく、年間シリーズでもトップにも躍り出た。
 日本人女性初のF1ドライバーを目指し、さらなる速さを追い求める樹潤さんへ、祖母からの届け物は日本の絣(かすり)と手ぬぐいを組み合わせて作られた羽織。袖を通した樹潤さんは、「かわいい! サーキットで着よう」と笑顔がこぼれる。そして「いつかレースを見に行けるよう、リハビリを頑張ってます」と祖母が綴った手紙を読むと、「本当はこっちに来てもらって、おばあちゃんにこの羽織を着て応援してもらいたいですね。めちゃくちゃ頑張れそうです」とメッセージをおくり、レースでの再会を心待ちにするのだった。