今回の配達先は、カナダ。ルアービルダーとして奮闘する西根博司さん(51)へ、鳥取県で暮らす父・雄司さん(77)、母・典子さん(72)の想いを届ける。博司さんが作る「ルアー」とは釣りで使う疑似餌のことで、ルアーで魚の姿や動きを真似することで獲物をおびきよせ、魚を釣り上げる。一般的にはメーカーが大量生産するものなので、博司さんのように個人で手作りして販売しているのは世界でも珍しいそう。農業を営む雄司さんは、「小学校、中学校、高校とルアー作りばっかりしていたので、流れでしょうがないなと思っている」と息子の仕事を認めながらも、「私の家は何百年続いている家で、親としてはいつかは帰って跡を継いでほしいという思いもある。それが一番心配です」と本心を明かす。
アメリカとカナダの国境に位置するナイアガラの滝。その川が流れ込むのが四国と同じほどの面積を誇るオンタリオ湖で、一帯は世界有数の釣りスポットでもある。博司さんは、オンタリオ湖から歩いて5分の場所に自宅兼工房を構え、ハンドメイドでルアーを製作している。まずは完成形をイメージして、魚のデッサンを描くことからスタート。続いて、その形に合わせて木材を切り出す。小さな鼻まで再現し彫り出した木型を元に、様々な素材を駆使しながらいくつかの工程を経てベースが完成すると、次は塗装。何層にも色を塗り重ね、魚が食いつきたくなるリアルな立体感を出していく。計算通りのルアーを作るため、ほぼ全てのパーツを手作り。目玉も一個一個自作したものだ。細部までリアリティにこだわり見事に魚の特徴を捉える博史さんのルアーは、日本では数年待ちになるほどの人気で、世界中の釣り人から絶賛されている。
祖父の影響で釣りにハマり、中学に入る頃には独学でルアーを作り始めていた博司さん。ルアービルダーになるにはどこで何が釣れるのかを知っておこうと、高校卒業後は家に帰ることなく日本中を釣り行脚した。そして、精巧なルアー作りの第一人者であるルアービルダーの遠藤龍美さんに弟子入りし、6年半修業。独立後、開発したルアー「ドリームラッシュ」が大ヒットし、博司さんの名は日本中に知れ渡った。その評判は海外まで届き、27歳の時にカナダの知人から「お金は出すから、こっちで工房を持たないか」と誘いを受ける。ところが、カナダに来て数か月でスポンサーが倒産。突然仕事を失い、資金も尽き心が折れた博司さんは日本に帰ろうとしたが、これまで一度も口出しされたことがない両親から言われたのは「帰ってきたら受け入れるが、ルアー作りはやめて家を継ぎなさい。ルアー作りをやりたかったらカナダに居るべきだ」。この言葉に意欲を取り戻した博司さんは、何とか苦難を乗り越え、ルアー作りに人生をかけてきた。とはいえ、両親のことはずっと気に掛かっているといい、自分の夢を追うべきか、日本に戻るべきかと葛藤する。
今回、4年以上の歳月をかけて開発した世界初の機能を持つルアーの試作品がようやく完成。初めて川でテストすることになる。「どんなにすごいルアーができても魚が好きかどうかは試してみないとわからない」と、最初の1匹が釣れるまでは緊張するというが、見事大きな魚を釣り上げ、喜びを爆発させる。カナダへ渡り24年。最高の環境で充実した日々を送る息子へ、日本の両親からの届け物は、博司さんが中学生の時に作っていたルアー。「納得するまで自分が思う道を進んでほしい」という両親の想いが込められていた。親に隠れてルアーを作っていた頃を懐かしむ博司さん。そして「これを一生懸命夢見ながら作っていた当時の自分に、『40年後に自分はこうしてるよ』っていうのを、タイムマシンがあれば言ってあげたい」と感慨にふけるのだった。