2018年、カナダで恐竜の研究員として奮闘していた宮下哲人さん(当時32)。日本の国土の約1.8倍もあるアルバータ州は、世界で最も多く恐竜の化石が発掘された地として知られる。哲人さんは地元のアルバータ大学で古生物学博士として恐竜を研究。ある日は世界遺産にも登録される「恐竜州立公園」を訪れ、発掘調査を行っていた。広大な公園には7400万年前の地層が露出し、日本で発見されると大ニュースになるような恐竜の化石が至るところで顔を出している。しかし、哲人さんがメインで研究するのは、「ダスプレトサウルス」というティラノサウルス以前に存在した大型の肉食恐竜。化石を求めて、荒涼とした大地の中を探し続ける。こうして6時間、20キロ以上を歩いた末に、遂に希少なダスプレトサウルスの骨を発見。慎重に掘り起こしたこの骨から、生命の謎を解き明かしていくのだという。そして「まだ見つかっていないダスプレトサウルスの骨は確実にある。地中に埋まっていて見つからないだけで、この辺りにはまだ何十体もあるはず」と力を込める。
幼い頃から恐竜が大好きだった哲人さん。その後の人生を決定づけたのは、10歳のクリスマスに両親からプレゼントされた1冊の恐竜本だった。著者はカナダの恐竜研究者、フィリップ・カリー博士。発掘時のエピソードなども交えて綴られた本に魅了され、少しでもカリー博士に近づきたいと14歳から習いたての英語で博士と文通を始めた。やがて一緒に研究をしたいとの思いが募り、16歳の時に高校を辞めて博士がいるカナダへ。32歳の今はカリー博士の自宅で同居しながら研究を続け、私生活では大学の同僚だったキジアさんと結婚。男の子も生まれた。
憧れの博士と家族に囲まれながら、発掘や調査に打ち込む充実した生活をおくる哲人さんだったが、実は9年前、消化器官に炎症ができる難病「クローン病」を突然発症。治癒方法が見つかっていないため、今も食べるものに注意し、病院での定期検査も続けている。そんな中、哲人さんは16歳から過ごしたカナダ、そして恩師からの卒業の時を迎えようとしていた。アメリカ・シカゴ大学の研究員として採用されることが決まったのだ。「もっと自分の世界を広げられるところに行きたい。まだ足りないもの、欠けているものを広げるのは今しかない」と新天地への決意を語ったのだった。
あれから3年。ぐっさんが哲人さんと中継をつなぐ。コロナ禍で恐竜の産地に行くことが叶わない哲人さんだが、現在暮らすカナダのオタワは市中で4億5000万年前の化石が見つかるような街なのだそう。2018年の取材後は、予定通りシカゴに移住。そこにはカリ―博士に匹敵するほどのすごい人たちがたくさんいて、良い意味で「とんでもないところだった」という。そんな環境で揉まれ、大きな経験を積んだ2年間で自身の変化を感じていた頃、オタワにあるカナダ国立自然博物館からオファーがあり、2020年から同館の学芸員に着任。オタワ大学の客員教授も兼務している。哲人さんはリモートで自然博物館の中を案内。3年前に骨を発掘した場所と同じエリアから発見されたダスプレトサウルスの全身骨格や、リアルに再現された恐竜の模型をぐっさんに紹介する。さらに、今も抱える難病についても向き合い方を明かす。