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#6065月16日(日) 10:25~放送
長野県

 日本でも数少ない「羊の毛刈り職人」として全国各地を行脚する大沢田奈奈さん(37)へ、兵庫県明石市で暮らす母・すみ子さん(61)の想いを届ける。奈奈さんの毛刈り歴は12年。これまで数千頭の毛を刈ってきた。すみ子さんはそんな娘の仕事について、「やっぱり、バリカンは怖い。地方に行って毛刈りをしているんだなと思うと、見えない分ドキドキします」と心配する。
 毛刈りの季節は、3月から6月。奈奈さんはその期間、西は長野、北は北海道まで東日本を中心に飛び回っている。毛刈りは専門職で、しかも彼女のように出張で行う人はとても貴重な存在。今年の仕事始めは、羊をペットとして飼う一般家庭からの依頼で、自宅がある東京から長野の朝日村まで車を運転してやってきた。毛刈りの作業は柔道の寝技のようにして羊を抑え込むところから始まり、バンザイの格好をさせると、バリカンでお腹・首・頭・背中と体を回しながら順に刈っていく。羊は毛刈りをしないと熱がこもって病気になりやすく、さらにスピーディーに作業をしないと体力を消耗して体調も悪くなってしまうのだそう。最初の頃は1頭刈るのに1時間以上かかったというが、今ではわずか5分で終えるまでになった。次に奈奈さんが訪ねた畜舎では、80キロもある羊を11頭刈ることに。大きな羊をバリカンで傷つけないよう刈るのは至難の業。始まる前には準備運動を入念に行い、力任せではなく関節をうまく抑えつけてコントロールする。だが暴れる羊に体当たりされることもあり、「格闘技なんですよね」と苦笑する奈奈さん。こうして今回は2日間の長野遠征で、40頭の羊の毛を1人で刈り続けた。そのまま東京までトンボ帰りし、自宅に到着したのは深夜。毛刈りのシーズンは、ハードで不規則な日々が続く。
 奈奈さんが毛刈り職人になったのは、牧場に勤めていたことがきっかけだった。小さい時から動物が大好きで、そんな一人娘を喜ばせるため、52歳という若さで亡くなった父が計画する旅行先は、必ず動物がいる場所だったという。高校卒業後は動物関係の専門学校に進学。就職した観光牧場で同僚だった夫と結婚し、夫婦で毛刈りを学んで本場のニュージーランドでも修業を積んだ。しかしその頃、がんで闘病中だった父は看病むなしく他界。以来、大好きな父の思い出は胸の奥にしまってきたと明かす。そして「『動物のことを仕事にしよう』ということしか考えて生きてこなかった。こうやって好きな仕事ができているのは、動物が好きだということを両親が小さい頃から察して、好きなところを伸ばしてくれたおかげ」だと感謝する。
 現在、夫は北海道の牧場で修業中。2人には「いつか夫婦で牧場を持つ」という大きな夢があった。さらに自宅の一室には、毛刈りをして持って帰ってきた羊毛が山積みに。現在、日本で流通しているウールのほとんどが外国産。そこで「国産ウール」を盛り上げたいと考える奈奈さんは、産業廃棄物として処分されることが多い国産の羊毛をウェブで販売しようと準備を進めているのだった。人生の大半を動物とともに歩み、今また新たなる夢に向かう娘へ、母の想いが届く。