1年前、世界最高峰のサーカス団「シルク・ドゥ・ソレイユ」のエアリアル・ティシュー・パフォーマーとして、ヨーロッパのアンドラ公国で公演を行っていた品川瑞木さん(当時21)。シルク・ドゥ・ソレイユは、アクロバティックなパフォーマンスとダンスが融合した芸術性の高いショーが特徴で、1カ月間にわたるアンドラ公演にも世界中から超一流のパフォーマーたちが集まっていた。フリーのパフォーマーとしてまだ1年目の瑞木さんにとっては初めての大舞台だ。彼女が演じるエアリアル・ティシューは、ティシューと呼ばれる布を使用する空中パフォーマンス。10メートルもの高さから吊るされたティシューに命綱なしで体を預け、華麗でダイナミックな舞を披露する。さらに、シルク・ドゥ・ソレイユのような大きなカンパニーではティシューを上げ下げする機械が設置されており、操作するスタッフと息を合わせることでより複雑で高度な演技ができるのだという。スタッフは「普通のエアリアル・ティシューはソフトでゆったりとした感じだけど、彼女はダイナミックで強さがあって、まるで忍者のようだ」と評する。
幼い頃に見たシルク・ドゥ・ソレイユに衝撃を受けて以来、同じ舞台に立つことを夢見ていた瑞木さん。東京にあるエアリアル・ティシューのスクールに通い出すとますます夢中になり、高校を中退する。17歳で単身カナダのモントリオールへ渡り、本場のサーカス学校に入学。実は、実力をめきめきとつけた彼女は在学中に憧れのシルク・ドゥ・ソレイユからオファーを受けたのだが、別のパフォーマンスでの出演依頼だったため断ったという。昨年トップの成績で卒業しフリーのパフォーマーになると、その実力が認められ、改めてシルク・ドゥ・ソレイユからエアリアル・ティシューでの出演をオファーされたのだった。
1時間のショーの中で与えられた持ち時間は7分。5000人もの観客の視線が彼女一人に注がれる。フリーのパフォーマーにとっては1回1回のショー全てが勝負。しかも初の大舞台とあっていつも以上に力が入るが、「毎回ステージに出る前は『なんでこんな事やってるんだろう』と思うけど、終われば『楽しかった、もう1回やりたい!』って思う」。こうしてアンドラから世界の第一線で活躍するパフォーマーとしての第一歩を踏み出した瑞木さんは、1カ月の公演を終えると感傷に浸る間もなく、次の開催地であるモナコへと向かったのだった。
あれから1年。定住する家すら持たず、旅から旅への生活をおくっていた瑞木さんの姿は今、東京にある空中パフォーマンス専門のスタジオにあった。ぐっさんが彼女の元を訪ね、話を聞く。アンドラでの公演後、日本での仕事も増え、さらに初めてシルク・ドゥ・ソレイユの本拠地であるモントリオールでのパフォーマンスも決定。しかし、胸を躍らせ憧れの地へ旅立った今年3月に、新型コロナウイルスが直撃。突如入国禁止となり、そのまま最終便で日本に戻ることになってしまったという。これまでの契約もすべて白紙になり、遂にはシルク・ドゥ・ソレイユが経営破たん。しかし、瑞木さんはそんなネガティブな状況も「やりたいことをやる時期だ」と前向きにとらえているといい、さらに新しい夢も膨らんでいると目を輝かせる。