今回の配達先はスイス・チューリッヒ。バレエ指導者として活躍するロッシ池上理恵子さん(43)と、埼玉県に住む父・正道さん(85)、母・安恵さん(79)をつなぐ。小さい頃からバレエで生きていきたいと夢を描いてきた理恵子さんは、母の反対を押し切り、大学卒業後は海外のバレエカンパニーへ。教員をしていた母は「バレエの世界は厳しい。それで生きていくというのは現実的ではないと思っていた」と反対した理由を語る。
現在は経済学者の夫・エンゾさん(52)、長男・賢造くん(11)、次男・直樹くん(8)と暮らす理恵子さん。自宅地下に作ったスタジオでバレエを教えているが、今もっとも力を入れて指導しているのはフィギュアスケートの選手だ。トレーニングを依頼するのは、スイストップクラスのフィギュアスケーターたち。バレエで表現力が増すだけでなく、バレエの身体の使い方を身に付けることで、ジャンプや回転力も増すという。オリンピックメダリストを始め、彼女の指導を受けた選手は軒並み成績を伸ばし、理恵子さんは“バレエ指導の魔術師”と呼ばれている。今ではフィギュアスケートだけでなく、新体操や陸上選手など、さまざまなアスリートにも指導を行っている。「自分で育て上げた生徒というのは、私の仕事によって出来上がるようなもの。芸術作品ですね」と理恵子さんはいう。
5歳からバレエを始め、その楽しさに魅了された理恵子さん。早くからバレエ一筋で生きていきたいと思っていたが、現実的で厳しい母からは反対された。高校時代にはバレエを続ける条件として、大学で教員免許を取る条件を課せられ、バレエを休まざるを得なくなった。母の言うとおりに教員免許を取ったものの、卒業後は就職せず、海外のバレエカンパニーに飛び込んだ。「自由業ですから、いまも母には理解できない部分はたくさんあると思う。でも自分のやっていることに信念と誇りを持って、生きている限りはやり続けたい」と理恵子さんはいう。
実は次男・直樹君もフィギュアスケートをしている。去年はスイス国内の大会で優勝したほどの実力だ。直樹君には別にスケートのコーチが付いているが、練習に付き合うと「なんでこんなこともできないの?」とつい感情が入ってしまうという。「本人はやる気満々で、19歳でオリンピックに出ると言っている。まだまだ夢を見られる年齢で…。現実はそんなに甘くないけれど、切磋琢磨して成長してくれれば」と、息子の夢を見守っている。
ずっとバレエが好きで、バレエ一筋の人生を歩んできた理恵子さん。その道をなかなか認めてくれなかった母には、いまでもわだかまりがあるという。「母は“その道でトップになったとしても、所詮はバレエを教えながら地道にやっていくしかない。もっと現実を見なさい”と言われ続けた。なぜそんな風に言われなければならないんだろうと…それが一番つらかった」と振り返る。
そんな母から届けられたのは手作りのおしるこ。理恵子さんは「母はどんなに忙しくても絶対に手作りのものを作ってくれた。おしるこは私が疲れて帰ってきたとき、必ず用意してくれたもの。とてもおいしくて何杯もお代わりをした」と懐かしむ。添えられていた母の手紙には、常識的で平凡な自分には理恵子さんがバレエに打ち込むことを全面的に応援できなかったこと、理恵子さんがバレエ教師の仕事を得て、家庭と両立させるなど予想もしなかったこと、そして今の理恵子さんを「素晴らしい。褒めてあげたい」と、初めて明かす胸の内が綴られていた。理恵子さんは「最後は私の事を信頼してくれてたんですね。うれしいです」と、わだかまりも解け、母の思いに涙をこぼすのだった。