以前に購入していて、エッセイ集だと思っていたが、なぜか講談社「文芸」文庫なので「あれ?」っと思っていたのだが、実はこれは「純文学の短編集」だったのだ。坪内祐三の書いた解説を読んで「そうだったのか!」と驚いた。
この頃(1970年代)の小林信彦は、純文学の芥川賞と、大衆文学の直木賞の双方に何度もノミネートされていたという。(結局どちらも受賞していないのだが。)つまり一つの分野に留まらない幅の広さを持つ作家だった。純文学というと「私小説」のイメージがあるが、そういった殻を突き破り、純文学と大衆文学の融合のようなものを(意図するとしないに関らず)体現していた作家だったのではないか。「ホテルピカデリー」には少し筒井康隆的な非条理の世界が感じられるし、「隅の老人」にもその老人の隠された過去が見え隠れしてドキドキした。「自由業者」にはテレビ創世記の雰囲気が伝わってくる。 |
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