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『アニメ村のステキな住民たち』アニ民46人目
- 2010.06.24
今週は「映画名探偵コナン ベイカー街の亡霊」の脚本家・故野沢尚さんです。野沢さんと初めてお会いしたのは、YTVが野沢さん原作の連続ドラマ「リミット もしもわが子が…」の制作中でした。当時麹町にあったYTV東京支社の会議室にいた野沢さんから「子供がコナンを大好き」と聞いていた、ドラマのプロデューサーが僕を紹介してくれたのが始まりでした。
「自分の子供のために書かせて欲しい」とコナン映画の脚本に取り掛かった野沢さん、その道のりは予想以上に大変だったと思います。いくつかの案から選び抜き、初めにいただいたプロットは数回の検討の結果、最終的にアニメとしての映像表現の限界を感じるものであったためNGとなります。普通ならここで降りるという選択肢もあったのですが、野沢さんは違っていました。当時最先端を走るゲーム世界のさらに先を行く“バーチャルゲーム”を舞台にすると提案され、それがコナンの世界観と融合するのがいかに面白いか面白くさせられるのかという、書き手としての強烈な信念を見せつけられたのを忘れることができません。
こだま監督以下スタッフのスケジュールが一致した休日の午後、麹町の会議室に集まったメンバーはそれこそ前代未聞の体験をすることになります。前夜から徹夜して2度シュミレーションしてきたという野沢さんの、われわれコナンスタッフに対する“バーチャルゲームでのコナンストーリー”講義でした。会議室の白板を全面使い、黒ペンや赤ペンを使い分け、絵とチャート図をもって60分以上熱弁をふるったのです。
6月27日の七回忌を前にしたこの13日、6年前と同じ築地本願寺で野沢さんの七周忌の法要が営なれました。僕の隣には6年前と同じく、野沢さんの脚本の師匠であり僕の会社の大先輩であった鶴橋康夫監督が居ました。「この世界はあり得ない事の連続かもしれない、とにかく身体だけは大切にしろよ」なんて大先輩の鶴さんに言われてしまいましたが、本当は野沢さんがその場でそうおっしゃったのかもしれませんね。
「眠れぬ森」面白かったなあ…「青い鳥」このタイトルにしてその新しい中身に驚き…。ミステリーサスペンスから恋愛ドラマまで、その膨大な著作物の中でも唯一のアニメ作品が「ベイカー街の亡霊」です。そしてコナンの中でもコナン自身が父・工藤優作とのつながりをはっきり意識した珍しい作品となっています。それもこれもあの当時の野沢さん自身の、“父と息子”というはっきりと強い意思を持ったテーマに鬼気迫る想いで取り組んだ結果なんでしょう。
この作品をひとつの“竹の節”とした「名探偵コナン」はさらなる位置へと発展を続けています。あの麹町での白板を使った野沢さんの講義を胸に秘めて、明日へと向かってさらにさらにがんばっていきたいと思います。