• 『アニメ村のステキな住民たち』アニ民65人目
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  • 2010.11.04

 またこのページで訃報を書くことになってしまいました。10月30日夜、友人からの電話でその訃報を知り落ち込んでしまいました。ツイッターで同じ想いをする人たちのつぶやきを丁寧に読んだりもしてみました。今週のアニ民は俳優・故野沢那智さんです。ここではいつものように那智さんと呼ばせていただきます。

 今さら那智さんのことを多く説明する必要もないでしょう。俳優・演出家・ラジオパーソナリティ・そして声優…。実は僕はそんな那智さんとあまり長いおつき合いではありません。この業界にいれば何度でも会っていそうな偉大な那智さんと、初めてのお仕事は2005年「ブラック・ジャック」です。外科手術医の主人公に対して、漢方医学的なハリで治療してしまう“琵琶丸”を演じてもらいました。映画「2人の黒い医者」でも登場したこのキャラクターは、もしかしたらあのドクターキリコよりもブラック・ジャックにとって真の天敵だったに違いありません。その宿命的ないやらしさを那智さんはひょうひょうと見事に表現してくれました。「手ごたえあり」や「うひひひ…」などのセリフは今でも耳の奥に残ってます。

 確か「名探偵コナン」でも一度お世話になってたはずですが、何と言っても僕にとっての那智さんは「結界師」です。第47話「因縁の決着」の回は出演声優がなんと4人、しかも主役の良守も出ないという異例の話数でした。これは放送が深夜に移っていたので出来た離れ業でしたが、この時点で数回登場していた那智さん演じる“松戸平介”はこの話数の完全な主役として、はるか昔にあった“白”との確執を演じてくれたのです。これが本当に素晴らしいもので、キャラクターの持つ不気味さとか不遜さみたいなものが、聞いていてじわじわにじみ出てくるんですね。ほとんど芸術的な上手さです。その後いつものお店Sでの、こだま監督や良守役の吉野さん、時音役の斉藤さんらとみんなで計画していた豪華ワイン会にも参加してくれました。那智さんが代表を務めていたオフィスPACの斉藤さんがヒロイン雪村時音として大活躍していることも含めて、それぞれのプライベート話にも花が咲き本当にうれしそうだったことをよく覚えています。

 そしてそれからしばらくした後の「結界師」スタッフ旅行の時のこと。普通は那智さんレベルの方は参加されなくて当然なんですが、夜9時ごろ突然顔をだしてくれたのです。なんとその場所は静岡県伊豆高原なんですよ。息子の俳優・野沢聡さんの運転でやって来たそうで、参加した20人近いみんなと深夜まで会話を楽しんでくれました。そして実はその次の日の帰り、僕はちゃっかりその車に乗せてもらい東京に帰って来たのでした。野沢聡さんの運転に甘えてリラックス、大笑いしながら車中の親子対談を味わい、ラジオや劇団での那智さんの武勇伝?にひたってこれたのです。あの極上のお話には眠くってもさすがに眠れませんでした。

 僕がちょっとした仲間とコーラスをしていると知って、三軒茶屋でのコンサートを尋ねて来てくれたことがありましたね。僕の伝え方が悪かったのでしょう、あろうことか一日日にちがずれてしまってたのです。公演の次の日、かけてきてくれた電話の向こうで残念がってくれた那智さん。ああ、めったにないことだっただけに本当に那智さんに聞いて欲しかった。でも来てくれたことが驚きでした…。

 「結界師」から後もいくつかのアニメキャラクターを演じていらっしゃった那智さん。勝手を言わせてもらえば僕には「結界師」松戸役が、アニメキャラとして最後のはまり役だったように思います。なかなかマネができないそのスタイリッシュな物腰とファッショナブルなセンス、ホントいつもカッコよかった。那智さんが活動された時間の中のわずかな数年でしたが、僕はすごく楽しく多くのものを受け取ったような気がします。僕は役者でもなく年代も違いますが、自称“最後の友人”として御礼を申し上げます。那智さん、本当にありがとうございました。心から御冥福をお祈りいたします。