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『アニ民291人目』マンガ家の高井研一郎さん
- 2016.12.15
今年最後のアニ民はちょっと変わったところですがマンガ家の高井研一郎さんです。この日記にマンガ家さんが登場するのは珍しいことではないのですが、実はボクは高井さんとお仕事をしたわけでもありません。ましてやプライベートな交流があったわけでもありません。何度かパーティー会場でお目にかかり、数回ご挨拶をさせていただいた程度なんですが、11月14日の高井さんの訃報に触れ、ここに勝手ではありますがボクなりに書かせていただきたいと強く思ったのです。
お目にかかれたのは小学館の謝恩会・漫画賞パーティーやその後の2次会でが主な出会いですが、その場の高井さんはいつも明るく賑やかでそこにスポットライトが当たっているかのように見えていました。そしてその場は笑い声に包まれているのです。一度近くに同席させてもらった時は、得意のマジックを披露してくれました。高井さんの人を食ったような笑顔や表情が、そのマジック効果をさらに上手に楽しいものにしていたのは確かです。
そのひょうひょうとした人柄は当然作品に色濃く出ています。ほとんどの作品を原作は人に任せてマンガを描くのに集中してるのに、そのどのキャラクターにも本人が重なってくるなんてなんかすごい。生み出されるあの丸っこい絵柄のほのぼの感はたまりません。
高井さんが手塚治虫さんのアシスタントを経験したり、赤塚不二夫さんとは「おそ松くん」の連載に対してキャラクター造形など深く関わってることを知ってる人は多いでしょう。あのイヤミやチビ太やハタ坊は赤塚さんと高井さんの共同作業だそうですよね。一世を風靡した“シェー!”は高井さんの発案だったなんて、ホントかどうかはともかく、高井さんのあのキャラとあの赤塚さんが一緒に打ち合わせした産物なんだと思うと、なんだか想いもひとしおです。
代表作の一つ「総務部総務課山口六平太」主人公の持つなんとも言えない味わい深いキャラクターもおそらく、高井さんそのものであることに異論を唱える人はいないでしょう。六平太の真骨頂はそのトラブルリカバリーにあります。咥えたタバコを舌をくるっと丸めて口の中に隠す(しまう?)動作など、本人同様の人を食ったような面は、あまりサラリーマンを経験してないはずの高井さんをして社会に向けたメッセージだったんじゃないでしょうか。まあなんとかなるから穏やかにいこうよ、と。
六平太のもう一つのポイントはやはり有馬係長でしょう。原作の林律夫さん発のものがたりでしょうが、この有馬係長のどうしようもない自己中心的なキャラクターが、でも実は多くの読者代表になってることを、高井さんは楽しんで描いていたに違いありません。
お目にかかった時はほとんど相手にされてはいなかったのですが、ボクがTVアニメやってますとお話した時「まあ、楽しんでいけるといいな」と言ってくれました。その時にもらった名刺はちょっとしたマジックのネタになるデザインになってましたね。その立ち居振る舞いがいちいち楽しく遊んでるような雰囲気に、やせた背中も大きく感じられたものです。そう言えば生前葬を3回もされた事も有名ですよね。ほぼ大宴会だったというその生前葬のお話は参加した編集者の方から何度もお聞きしました。参加したかったなあ。
ここまで書いてきて一度も高井さんを高井先生とは書かずにいます。お仕事をしたわけではない、と言いながら毎回六平太を楽しみに読んでいたボクにとって高井さんはそーゆー存在でした。最後の掲載作品・第731話「ヒゲ談義」いろんな意味でタカラモノにします。高井研一郎先生、長らく本当にありがとうございました。どうか安らかにお休みください。