【特集】「3日間、食べ物を買っていない…」コロナ禍で急増する若者の生活困窮者 。年末年始の生活支援活動に密着
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放送日2021.01.20
新型コロナの感染拡大で、生活困窮に陥る人が急増している。飲食やサービス業などに従事してきた若年層や女性をはじめ、幅広い世代に影響が出ているのが特徴だ。実態は数十万人に上るとの見方もある中、2度目の緊急事態宣言で事態がさらに深刻化する恐れも。東京都内で年末年始に開かれた生活支援活動で聞こえてきた“声”とは…。
コロナで“雇い止め”「3日間、食べ物を買っていない」
「食べ物はこの3日間、買っていない」
12月31日の午後、東池袋中央公園(東京都豊島区)で開かれた生活困窮者向けの生活支援活動。参加した30代の男性はこう窮状を訴えた。男性は高校卒業後、大手アパレルの店員などを経てホテル従業員に。訪日外国人増
加の効果もあり、1年前の収入はアパレル時代よりも多かったという。だが、新型コロナの感染が日本国内でも広がり始めた昨年3月で“雇い止め”に遭い、“ウーバーイーツ”の配達で生計を立てた。「巣ごもり需要」による業界の急成長で
多忙な時期もあったが、配達員の増加に反比例する形で収入は減少。直近では月10万円弱にしかならず、都内のアパートの家賃を支払うと手元にはほとんど残らない。そこでたどり着いたのが、こうした支援活動だ。池袋を“拠点”に、定期的に開催されている会場を回り、食料や衣類などを確保する。男性はこの日、会場で配布された食パンとバナナで年を越した。
若者と女性が目立つ
元日、聖イグナチオ教会(東京都千代田区)で開かれた支援活動「年越し大人食堂」にも、正午の開始前には50人以上の人が列を作った。若者に交じり、子連れの女性の姿も。
両日の支援活動は、首都圏で活動する複数の支援団体が共同で開催。3日にも開かれ、延べ約700人が参加した。主催団体の一つ「一般社団法人つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事は、12年前にリーマン・ショックの影響による失業者を支援した「年越し派遣村」との違いを指摘する。
「リーマン・ショックでは主に製造業の派遣労働者であった50代以上の男性が影響を受けたが、コロナ禍では飲食やサービス業の業績悪化で、こうした業種に従事していた若者や女性が生活困窮に陥るケースが目立つ。特に居酒屋のアルバイトなど非正規で働いている人の仕事が無くなっている」
リーマン・ショックによる失業は2008年秋から09年春までの約半年間がピークだったが、今回は最初の感染拡大から1年近く経過した現在でも収束の見通しは立たず、2度目の緊急事態宣言による雇用情勢のさらなる悪化も懸念される。
“コロナ失業者”は8万人超え。実態は数十万人規模か
厚生労働省のまとめでは、新型コロナの影響で解雇された人の数は8万836人(1月8日時点、見込みを含む)。だが稲葉氏は、公的な統計には現れない“隠れ失業者”の存在を指摘する。
「十分な補償のないままコロナで業績が厳しい期間の休業を言い渡される“隠れ失業者”の相談も多く寄せられる。肌感覚としては、実際の失業者は数十万人規模でいるのではないか」
稲葉氏は当面の対策として、特別定額給付金(10万円)の再支給や災害時の「みなし仮設住宅」制度のような形での“住まいの確保”の強化などの必要性を訴える。
株式市場はバブル期以来の高値。「K字型」相場の2021年は…
一方、東京株式市場の日経平均株価は1月8日に終値としては30年ぶりの2万8000円台を突破。バブル期以来の高値が続く。実体経済との“乖離”はなぜ生じるのか。大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは、コロナ禍で日銀を含む世界中の中央銀行が金融緩和を行った結果、資金の多くが株式市場に流入。そこにワクチン開発への期待感などが加わり、株価を底上げしていると指摘する。
国内ではITや医薬品、物流など“非接触”業種が業績を伸ばす半面、運輸業や観光サービスなど“接触”業種では苦境が続き、株式市場でも「K字型」と呼ばれる2極化が進行。熊谷氏は「“ポストコロナ”の社会では優勝劣敗が進む。その中で産業の新陳代謝を進め、強いところに人とお金が移動する仕組みづくりが必要だ」と語る。
ただし、熊谷氏も雇用面では当面厳しい状況が続くとの見方だ。実体経済から遅れて影響が出てくるためで、仮に今後世界的な感染爆発が起これば、国内の失業率は5%台に達し、300万人程度の失業者が発生する恐れもあるという。「感染症の拡大傾向やワクチン開発の成否次第では、さらなる景気悪化と失業者増のリスクも警戒しなければならない」。
30代男性「家族を持ちたい」そのワケは…
元日の「大人食堂」には、前日の30代男性の姿も。この日は作り立ての弁当と温かいスープのほか、以前から支援団体に依頼していた炊飯器を特別にもらうことができた。定職に就くために資格取得を目指すといい、今年も費用捻出のために支援会場をこまめに回り、節約生活を心がけるという。生活の立て直しに意欲を見せる男性。そのワケは…。
「児童養護施設出身で、(実の)親を知らないことと、去年はコロナの影響で一人でいる時間が長くなり、家族を持ちたいという思いが強まりました」