拡張型心筋症で心臓移植を待つ2歳の女の子、病室で24時間泊まり込み生活を送る両親、妹の帰りを待つ4歳のお姉ちゃん…離れ離れの家族の日々

心臓の病気で入院を続ける2歳の女の子。移植を待つその期間は、もう2年以上に及んでいます。そんなわが子に両親のどちらかが24時間365日一緒に病室に泊まり込んで付き添いますが、食事も睡眠もままならず気力も削がれる厳しい生活…。家で待つ4歳のお姉ちゃんは妹と会えず、片方の親と過ごします。離れ離れになった家族、その日々を追いました。

【特集】心臓移植を待つ2歳の女の子、病室で24時間付き添う両親、妹の帰りを待つ長女「なんで一緒に居られないのかな…」離れ離れになった家族、行き場のない思い

生後1か月から入院する幸音ちゃん

 カメラにかわいい笑顔を見せる中村幸音ちゃん、2歳。「拡張型心筋症」という心臓の病気で、生後1か月から入院を続け、移植を待つ期間は2年以上に及びます。それは同時に、両親のどちらかが幸音ちゃんの病室に泊まり込みで付き添う生活の期間とも言えます。そして家には、妹の帰りを待つ4歳のお姉ちゃんが…。離れ離れの家族、その日々を追いました。

生後一か月で病気が発覚、一変した家族の日常

短冊に込めた願い「家族みんなで暮らせますように」

 食卓でパパの手料理を食べる、微笑ましい親子。関東地方に住む中村聡志さんと、4歳の長女・みおちゃん(仮名)です。

「パパの自信作なんですけど、お味はどうですか?」(聡志さん)
「おいしくない」(みおちゃん)
「何だと?(笑)」(聡志さん)

 楽しそうに笑う二人ですが、実は、心臓病で入院する2歳の二女・幸音ちゃんとママの帰りを待っているのです。

「忘れもしない、2021年3月24日。その日から付き添い生活が始まることになって、『幸音が寂しくないように、ママが行くんだよね』と、笑顔で送り出したんですけど…これが、いつまで続くかわからない第一歩でした」(聡志さん)

心不全を起こし入院

 小さな体に異変が起きたのは、幸音ちゃんが生後1か月になる頃。泣き声が枯れて苦しそうな様子に、両親が気付きました。心不全を起こしていたのです。

「その日の夜に、医師から『心臓移植の可能性がある』と言われました。衝撃ですよね。びっくりして、言葉が出ない。急に別世界にぶち当たった。調べれば調べるほど苦しいですし、その当時は本当に毎晩泣いていたと思います、夫婦ともに」(聡志さん)

 家族の生活は一変しました。幸音ちゃんは「拡張型心筋症」という心臓の病気で、ドナーと巡り合い移植をする日が来るまで、誰かに付き添われながら入院を続けなければならなくなったのです。我が家から離れた病院で、育休を取った両親が2週間ごとに交代しながら24時間365日、幸音ちゃんに付き添う入院生活が始まりました。夫婦が会える時間は2週間に1度、引き継ぎをする10分程度です。

補助人工心臓「エクスコア」

 ベッドに固定された幸音ちゃんのおなかには、2本の太い管が差し込まれ、小型の冷蔵庫ほどある機械につながっています。これが、命をつなぐために必要な小児用補助人工心臓「エクスコア」です。小児用補助人工心臓は国内にわずか30台ほど、取り扱える医療機関が15施設と限られているため、空き状況次第では、遠くの病院へ入院しなければなりません。しかし、幸音ちゃんには家から1時間半程の病院で空きが見つかりました。だからと言って、それで安心というわけではありません。

「エクスコアのポンプの動きに問題が出ていないかなど、看護師や医師が一日に何度も来て、毎日チェックしてくれます。中に血栓が生じる恐れが常にあるため、その点も毎日チェックが入ります」(聡志さん)

 血栓は、最悪の場合、脳梗塞を引き起こす恐れがあります。また、寝返りを打ったり動き回ったりしておなかのチューブが外れると、一大事なのだといいます。

狭い簡易ソファーで寝る聡志さん

 付き添いの親にはベッドがなく、睡眠は簡易ソファーを目いっぱい倒して取ります。隙を見てシャワーや洗濯もしますが、諦める日もあるといいます。食事も、病院からは出ません。

「幸音が熟睡している時などに、大急ぎで売店に買いに行きます。どうしても偏りが出てしまうので、付き添う側の体調の心配も常にあります。実際これまでにも、体調を崩したことがあるので」(聡志さん) 

 体調を崩す原因は食生活だけではなく、不規則な生活にもあります。夜中に人工心臓の異変を知らせるアラートが40回以上鳴ることもあるなど、見守る親に気の休まる時間はありません。

「ここ数日、幸音の補助人工心臓のポンプの中に、あってはらない血栓がいくつか見つかりました。人工心臓の警報アラームが、昼夜を問わず頻繁に鳴っています。特に夜間になると、幸音が大泣きして起きてしまうので、親子とも寝不足な日々が続いています」(聡志さん)

 こんな生活が、すでに2年以上続いています。いつ終わるのかも、わかりません。

「家族なのになぜ…」我慢の日々、行き場のない悔しさ

心臓移植の待機期間は平均3年以上

 日本では、心臓移植にかかる期間が、子どもの場合で平均3年以上といわれています。待機期間は年々伸びていて、大人では5年以上待機する人も多くいます。

「明日何が起きても、今日このあと何が起きても、正直おかしくはないので、やっぱり怖いです。移植医療というものが、『人の死を願うこと』なのではないかと考えてしまうこともあります。でも決して、亡くなることを願うというわけではなく、亡くなってしまう場面に、普通はできないような優しさ…『誰かに臓器を使ってもらって良い』というご決断をしていただける場合に、その優しさを受け止めさせていただけたら」(聡志さん)

 幸音ちゃんの病気発覚後、家族も検査を受け、聡志さんも同じ病気だとわかりました。今は、病気の進行を遅らせる薬を飲み続けています。

家で料理をする聡志さん

 ママが付き添いする期間は、聡志さんとみおちゃん(仮名)は家で2人暮らしです。料理などの家事も全て、聡志さんが一人でします。

「部屋のその辺で、幸音と長女がギャーギャー遊んでたら、最高なんですけどね。妻にはちょっと休んでもらって。休めないでしょうけど、子ども2人もいると。それだったらな…それだったら、もっと頑張れるんだけど…」(聡志さん)

 4人掛けの食卓に、今は2人だけ。4歳のみおちゃんはまだ甘えたい盛りですが、お姉ちゃんらしい面も見せるといいます。

「ふとした時に『ママが良い』とか、『ママとパパと一緒に、どこそこに行きたい』とか…。でも、必ず幸音のことも言ってくれます。『幸音が帰ってきたら、おむつは私が変えてあげる』とか、『泣いたら抱っこするの』とか、そういうことも言ってくれるんです。だから尚更、離れてしまっている今の現実はツラいです。なんで家族なのに、一緒に居られないのかなって…」(聡志さん)

患者や家族に必要な支援、立ちはだかる現実

NPO法人キープ・ママ・スマイリング 光原ゆき理事長

 聡志さんのように付き添い入院を続けている人は、どのような生活をしているのか…その実態をつかもうと、厚生労働省が調査に乗り出しましたが、集まった回答はわずか41件。多くの声を集めて付き添い入院の過酷な環境を知ってもらおうと、当事者団体も調査を始めました。

「NPO法人キープ・ママ・スマイリング」の光原ゆき理事長は、自身も2人の子どもの付き添いで6か所もの病院に泊まり込んだ経験があるママです。光原さんの所には約3600人分の声が集まり、当事者からの声に応えて、食事や生活用品を届けています。「必要なのは、食や睡眠などの環境を改善して、子どものために親も元気でいることだ」と、光原さんは訴えます。

「私たちは、付き添いをなくしたいとは全く思っていません。でも、付き添いたいけど付き添えないケースもありますよね。その場合に、安心して任せられるとか、週末だけ任せるとか、選べることが理想だなと思っています」(光原さん)

大阪大学医学部附属病院 澤芳樹特任教授

 今、全国で心臓移植を待つ人は、898人。このうち66人が、15歳未満の子どもです(2022年12月時点)。大阪大学医学部附属病院の澤芳樹特任教授は、これまで200件にも及ぶ心臓や肺の移植手術に関わった第一人者。これまでの心臓移植手術のうち、半数ほどが大阪で行われ、澤教授の下にも全国から患者が訪れました。

 約10年前に心臓移植手術を受けた患者は、移植を待つ間、病院から2時間以内の場所に住むよう求められ、北陸地方から身寄りのない大阪に移り住んだといいます。澤教授は、こうした人たちの為に、新たな計画に取り組んでいます。

患者と家族のための「リハートハウス」

 大阪大学医学部附属病院から車で10分ほどの場所に、その予定地はあります。遠方から来る患者や家族が、心臓移植まで待機する間、低価格で長期間滞在できる仮住まい「リハートハウス」を病院の近くに造る計画です。付き添いする親も、身体を休めてリフレッシュできる場になるのではと、期待されています。

 しかし、計画が立ち上がって4年になる今も、いつ施設ができるのか見通しが立っていません。支援者から土地の提供が決まっているものの、建設や運営にかかる費用を確保できずにいます。

「収益性がない状況の中で、運営をどうするか…。ほとんど寄付行為と、継続的な支援の資金的援助ですから、このあたりの目途が立たないと難しいです。本格的に集めていかないといけないと思っています」(澤特任教授)

家族4人で過ごす束の間の時間…当たり前の幸せを、いつか必ず

1年10か月ぶりに再会した姉妹

 中村さん一家に、一日だけ家族の時間が許されました。長女・みおちゃん(仮名)の心臓に異変がないか、検査入院をすることになったのです。姉妹は、幸音ちゃんが生後1か月で救急車で運ばれた日から約2年間、会っていませんでした。両親が、姉妹の再会を見守ります。

「姉妹が一緒の空間にいることが、奇跡みたい」(聡志さん)

 みおちゃんは妹に見せてあげようと、リュックいっぱいに詰め込んできたお気に入りのおもちゃを手に、幸音ちゃんに話しかけます。幸音ちゃんは、そんなお姉ちゃんを不思議そうに見つめました。

「幸音、かわいそうに。まだ心臓取り替えてないの?」(みおちゃん)
「幸音は毎日、とっても頑張ってるよ」(聡志さん)

 大切な4人の時間は、あっという間に過ぎました。翌日、みおちゃんの退院の時。「幸音に優しくしてくれて、ありがとう。優しいお姉ちゃんだったよ」と、聡志さんとママがみおちゃんを褒めてあげました。そして、寂しそうな幸音ちゃんを聡志さんが励まします。

「幸音、次はおうちで、皆で会うぞ!」(聡志さん)

みおちゃんが作った“4人のお城”

 今は、病気の子どもに付き添うために長期間休みが取れる制度はありません。幸音ちゃんの2歳の誕生日で聡志さんは育休期間を終えて、仕事を再開。ママが、幸音ちゃんに付き添い続けることになりました。

「その生活に入って、本当に回せるのかどうか…。回さないといけないんですけど、妻が『もうキツい』となったり、ストレスもあるでしょうし、疲れが溜まって過労状態になると思うので、潰れてしまわないかという心配があります。夫婦お互いに、どちらかが潰れてしまうと成立しないので、それが不安です」(聡志さん)

 パパと2人で行った公園で、みおちゃんが作ったのは砂のお城です。

「(このお城に)ママと幸音がいるの」(みおちゃん)
「ママと幸音がいるの?じゃあ良いな、寂しくないな。4人のお城だもんね、家族の」(聡志さん)

 お城を砂場に残して、家路に着きます。いつになるか分からない幸音ちゃんとママの帰りを、聡志さんとみおちゃんは今日も待ち続けます。

(「かんさい情報ネットten.」 2023年2月14日放送)

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