「起きようとしても体がついてこない…」怠けていると誤解されやすい“起立性調節障害” 病気と向き合う若者たちの思い

‘’起立性調節障害‘’と呼ばれる一般にはあまり知られていない病があります。朝起きられない、めまいがするなどの症状で不登校になるケースもあり、いま中高生の1割が苦しんでいるといわれています。見た目ではわかりにくいため、怠けている、サボっていると誤解されてしまうことも…わかってもらえない苦しさや罪悪感を抱えながら病と向き合う若者たちを取材しました。

【特集】朝、起きられない…中高生の1割が発症『起立性調節障害』怠けていると誤解され、苦しみながら病と向き合う当事者たちの思い

中高生の1割が苦しむ病「起立性調節障害」

 『朝、起きられない』『めまいがする』などの症状が出る、「起立性調節障害」という病があります。中高生の1割が苦しんでいるといわれていますが、一般にはあまり浸透していません。見た目では分かりにくいため「怠けている」と誤解され、中には不登校になるケースも…分かってもらえない苦しさや罪悪感を抱えながら、病と向き合う若者たちを取材しました。
※年齢や肩書は取材当時のものです。

誰でもなり得る病、「起立性調節障害」とは?

病気のせいで将来に不安を抱える

 午前11時17分。高校1年生の門田奈南花さんが、登校しています。

「授業によって違うんですけど、最近は、一番早くて午前11時ぐらいしか間に合わないので。遅かったら、午後2時、3時ぐらいです」(奈南花さん)

 朝、起きられない…そう聞くと、怠けていると思うことはありませんか?奈南花さんは怠けているのではなく、「起立性調節障害」という病気です。

「立ったら目の前が真っ暗になったり、頑張って早起きしたら一日中だるかったり…。大人になったときに、学校と仕事だと責任が全然違うので、ちゃんと会社に行って働けるか不安です」(奈南花さん)

「ゆきこどもクリニック」神原雪子医師

 起立性調節障害とは、どのような病気なのでしょうか。

「思春期における自律神経失調による循環不全の病気で、10人に1人は罹患していると言われています。成長に伴う疾患ですので、誰でもなり得ます」(「ゆきこどもクリニック」神原雪子医師)

 通常は、起き上がると血液が上半身に循環されるため、血管が収縮し、全身に血が巡ります。しかし、起立性調節障害を持つ人は、起き上がっても下半身に血液が溜まったままになり、脳や心臓にうまく行き渡りません。そのため、めまいや動悸、吐き気などの症状が現れます。発症する原因はハッキリとは分かっておらず、治療が長期間に及ぶこともあります。

理解が得られず、苦しむ子どもたち

悩みを共有する場も

 起立性調節障害の悩みを共有するイベントに、高校2年生の柳田航輝さんと母親が参加しました。航輝さんも起立性調節障害に悩む一人で、息子の病気に両親も苦しみました。

「親として、『何としてでも、治してあげないといけない』という焦りが、私自身にもありました。起立性調節障害に良いと聞いたことは、何でも試してみました。これが良いというサプリを聞いたら飲ませたり、整体に行ったり、家でもマッサージを調べてやったり、漢方薬で有名な病院に行ったり…」(航輝さんの母)

剣道に励む航輝さん

 航輝さんは、中学2年生のときに起立性調節障害を発症しました。朝起きると、めまいや吐き気がひどく、午前中は学校に行けなくなりました。航輝さんは、剣道に励んでいますが…。

「なかなか、起立性調節障害になる前のようには、体が動かないです。なんで、こんなことになってしまったんだろう…。試合にも勝てなくなって、本当にしんどいなと思います」(航輝さん)

両親も最初は理解できず…

 航輝さんの両親は当初、「ただ怠けているだけだ」と思っていたといいます。

「反抗期ということもあり、親子でぶつかることもあったので」(航輝さんの母)
「怠けている感じがするときもありました。反抗期とぶつかって、喧嘩していましたから。でも病名が分かって、ツラい思いをしていたんだなと…」(航輝さんの父)

 起立性調節障害の子を持つ親の傾向について、神原医師は…。

「よく言われるのが、朝は全然起きないのに、昼から元気になって、夜はテレビを見て笑っている、と。『こんなに元気だったら、学校に行けるのに』と不満を抱いている親御さんたちもいます」(神原医師)

病気の知名度のなさを痛感

「日によって病気の程度も違います。この日は行けたけど、この日は行けない、みたいな感じで…。難しめの数学を避けているというか、たまたまそう見えてしまったせいで、『難しい勉強の教科はサボって、体育だけ来ているのとちゃうか』といった感じで…診断書も出しているのに、『サボっているのとちゃうか』と言ってくる先生もいたり。そういうこともあって、この病気の知名度のなさを凄く痛感しました」(航輝さん)

「怠けているのではない」周りの理解で頑張れることも

「自分自身を責めていた」と話す相原さん

 小学生の時に発症したという相原瞳さんは、大阪市内の高校で総務部長兼、公認心理師として働いています。起立性調節障害は成長と共に症状が改善するといわれていて、相原さんもほとんど症状がないまでに回復しましたが、今でも自律神経を整えるための生活習慣を続けています。

「自律神経については、他の人よりは弱いという自覚を持って生活しています」(相原さん)

 自律神経を整える効果があるとされる入浴方法を続けている他、ビタミン類を多く摂取するなど食事にも気を配る相原さん。症状が出ていた時を、「自分自身を責めていた」と振り返ります。

「自分自身が一番、『怠けているんじゃないのか』という思いに苛まれています。本当に身体が動かないのに、『自分の気持ちで動かなくなっている』『自分のせいで動かなくなっている』というふうに責めてしまう…」(相原さん)

周囲の理解があるから頑張れる

 相原さんは現在、働いている通信制の高校で、同じ悩みを持つ生徒らを支えています。起立性調節障害を持つ奈南花さんも、この高校の生徒です。

「高校生になってから友達もできて、みんな優しくしてくれるので、それで頑張れている部分はあります。授業を受けたりするのも、頑張れています」(奈南花さん)

 この高校では登校日や登校時間などを選ぶことができ、奈南花さんは病気と向き合いながら、通学しています。

病名が浸透し、苦しむ人が減ることを願う

 航輝さんも、通っていた中高一貫校から、この高校に転校してきました。自分のペースで学べるようになったからか、朝に起きられるようになり、今は病気の症状はほとんど出ていません。

「とにかく、『怠けているのではない』ということです。だんだんこの病名が広まって、同じ病気で苦しんでいる人や、周りの目のせいで苦しんでいる人たちが、1人でも減ったらいいなと思います」(航輝さん)

(「かんさい情報ネットten.」 2023年3月7日放送)

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