yamaはなぜ“仮面アーティスト”になったのか?〈前篇〉「春を告げる」大ヒットの裏にあったトラウマと不安…デビュー秘話を赤裸々告白

 顔を出さないアーティストとして活躍する歌手のyamaさん。2020年にリリースされた、自身初のオリジナル楽曲「春を告げる」が、ミュージックビデオの再生回数1億回を突破するなど、飾らない歌詞や透明感ある歌声で、若い人を中心に共感を呼んでいます。今や音楽業界の第一線で活躍するyamaさんですが、今日に至るまでには様々な不安や葛藤があったと言います。顔を出さない理由、自身を担当する藤原さんとの出会いと衝突、仮面を着けて歌う懸念など、今まで明かしてこなかった本音を語ってくれました。

「自分は人前に立てない…」トラウマを救った“仮面”

「人前に出るのが怖かった」

――どうして顔を出さずに活動していらっしゃるんですか?
yama:最初は本当に人前に出たくなくて、怖くて、自信がなかったのが大きくて…。とにかく人前に出ることに対して苦手意識があったから、なるべく視線を遮りたかったのが大きいかもしれないです。あとは、自分の実生活を切り離したかったので、こういう形で素性を隠して、いま活動しています。

――顔出さない分、歌詞や歌声を評価して欲しいという気持ちが大きいですか?
yama:そうですね、それはやっぱりあります。属性をなるべく隠した状態で「楽曲」を評価して欲しかったので。あと、ライブをしたときに生歌になるじゃないですか。それで失敗したら、その楽曲を台無しにしてしまうかなとか、色々不安に思うことがたくさんあったので…。仮面をしていたら、なんとかそれが、ちょっとだけ落ち着いて出来たりしていますね。

――普段、生活をしていて、顔を出さなくて良かったと思うことはありますか?
yama:ずっと思っていますね(笑)。日常生活を普通に送っていても、誰か知らない人に写真を撮られたり、声をかけられることもないので、それがホントに大きいです、自分にとって。

――顔出しが条件だった場合、歌手になることは諦めていましたか?
yama:あぁ…諦めていたかもしれないですね。

――その理由は?
yama:これは今まであまり言ってこなかったんですけど、昔ステージに立って歌ったりすると、ちょっとパニックになっちゃうというか、めまいがして立っていられないぐらいの状況になることが頻発していたんです。そのときに「あぁ、自分は人前に立てないんだ」というトラウマみたいなものがあって。どうしてもライブをやりたくない、顔を出したくない、というのが幼少期にあったので、だから諦めていたと思います。

――今後、「顔を出したい」と思うことはあると思いますか?
yama:うーん、それが難しい…。いや、ないとは思います。

――どういうところが難しいのでしょうか?
yama:人って変わるから、「ない」とは言い切れないかなとも思って。それこそ去年、いろんなインタビューをされる中で、「MCは今後一切やりません」って言ったんですけど、今めちゃくちゃやっているので(笑)。未来の自分がどう思っているのかはまだわからないですけど、今の段階では、ないと思っています。

“弱さを隠す”仮面が“スイッチ”の仮面に

仮面は今や「顔の一部」

――仮面越しに私はどう見えているんですか?
yama:前髪があるので、正直モヤがかかったような状態ではあるのですが、ちゃんと足元付近は、穴から見えています。

――仮面が白のときと黒のときがありますが、それは気分で変えているのですか?
yama:そうですね、衣装のようなイメージで変えています。セットとどれぐらい相性が良いかも考えながら、照明がよく当たるときは白のほうがキレイに映るので白を選んだり、ダークな印象にしたいときは黒を選んだり、その時々によって変えています。

――仮面を着けているときと外したときの自分は、違うと思いますか?
yama:全然違うと思います。自分でも感覚がわからないんですけど、この仮面を着けた状態になると、スイッチが入ったように気持ちは切り替わりますね。“アーティストとしてやらなければ”という気持ちになります。

――もはや、仮面も顔の一部になっている感覚ですか?
yama:本当に、今はそんな感覚ですね。最初はもう、自分の弱さを隠すための仮面というか、自分を守ってくれるものだと思っていたんですけど、今は、皆さんに「仮面」とか「青い髪」とか「フード」とか、こういうファッションを全て含めて「アイコン」として見ていただいてるなと思っているので、確かに顔の一部のような感覚ですね。

不安でいっぱいだった「THE FIRST TAKE」

ソニー・ミュージックレーベルズ 藤原慎太郎さん

「先に『THE FIRST TAKE』を決めちゃったんですよね(笑)」

 そう語るのは、ソニー・ミュージックレーベルズの藤原慎太郎さん。yamaさんを発掘し、ヒットに導いた仕掛け人です。この姿で表に出るようになったきっかけは、2020年12月に配信された音楽系YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」だといいます。

藤原:あれは顔を出さないといけないじゃないですか。決めちゃったけど、どうしようって(笑)

yama:それも結構、自分の中で葛藤があったんです。「いや、ライブやりたくないって言ったじゃん!」と思って(笑)。最初の段階で「配信ライブをしよう」って誘われたんですよ。「配信ライブだったら大丈夫でしょ」「1週間だけくれ」って言われたので、「じゃあ…」って言って渋々1週間だけ東京に出て来て、配信ライブに向けて練習と収録をしたんです。そうしたら、どんどん仕事が増えていったんです。1週間のつもりでキャリーバッグ1個しか持ってこなかったのに、1か月また滞在することになって「あれ?帰れないなこれ」ってなって。その後また2~3か月仕事が続いて…結局、家を借りました(笑)。それで、実家を家出したみたいな感じになっちゃったので、「申し訳ない」と家族に連絡しつつ、結局1年間ずっと家に帰らずに仕事をして、ようやく去年1回帰ったという感じです(笑)。

 だから、配信ライブが決まって、その後すぐ「ファーストテイク決まったから」って言われて…有観客ライブもしていないですし、それなのに「え、いきなり?」と思いましたね。しかも、どういう形で出るのかも話し合いしていなくて。配信ライブのときは、まだ顔の型もとっていなかったので、仮の仮面を借りたんです。それで、ファーストテイクまでに仮面屋さんを巡って「どうする?」って考えて…フルフェイスにしたかったけど、口が開いてないとさすがに歌えないし(笑)、息もしづらいので口は開けようとか。そんなざっくりとしたデザインを、アーティストの仮面を作ってくれる快歩さん(※)に持っていった感じです。それで、こういう形になって、ファーストテイクがほぼ初めての露出になりました。あの頃は一か月くらい「春を告げる」を、毎日毎日毎日歌っていましたね。

 ※快歩…特殊メイクなどを手掛けるアートディレクター。King Gnu、きゃりーぱみゅぱみゅのMVなどにも参加。

――仮面を着けた自分が“流行る”と思っていましたか?
yama:いや、ないですよ!怖すぎて。この格好って異質というか、変わった格好じゃないですか。ファーストテイクはそれまで、メジャーアーティストの方々が出られていて、顔出しをしていないアーティストが出ていなかったので、その流れで自分が出たときに「なんだこいつは?」って言われるんじゃないかなぁと、めちゃくちゃ不安に思っていましたね。

上京しデビュー 不信感を拭った藤原氏の覚悟

「突然DMが届いたんです」

yama:自分は「歌ってみた」っていう、ボーカロイドをカバーしてYouTubeにアップロードすることをしていたんですけど、全然有名じゃない、あまり知られていない状態のときに、突然Twitterに「ソニー・ミュージックの藤原です。歌声に感銘を受けたので、一度お会い出来ませんか?」っていうDMが届いたんです。そのときは、たくさん有名な歌い手さんやアーティストがいる中で「何で自分なんだろう、不審だな…本当にソニーの人なのかな?」と思ったので、「名刺を見せてください」って言って名刺の写真を送ってもらったんです(笑)。それで「あ、本当にソニーの人だ」と思いながら、それでもまだ信用していなかったので、そのときは地方に住んでいたので「いや、会えないです。遠いし、ちょっと時間がないんで、無理です」って言ったら「いや、会いに行きます」と。「いやいや、電話でいいですか?」っていうやりとりが何回かあって、それでも「どうしても会いたいです」ということだったので、地元まで来て頂いてお会いしました。

 それでお会いしたときも、自分がイメージする「THE業界の人」みたいな、こわもての方がいらっしゃったので、「本当に自分の音楽や歌声に興味があるんだろうか?」って、より不審に思って(笑)。そのときは、話はしたんですけどこんなにも話せず、ずっと目も見ずに「はい…はい…」みたいな感じだったんです。でも慎太郎さんは変わらず「一緒にやりましょう!」みたいな感じでガツガツきて、「じゃあそこまで言うなら、お願いします」と言って、そこから一緒にやり始めました。それで、まずは直近の目標を設定して、例えば「Youtube10万人超えましょう」という目標を立てて、それが達成できるように一緒に動いてもらっていたんですけど、でもうまくいかないなってなったので、やっぱりオリジナル曲を自分もやりたいし、いずれはやろう思っていたので、「このタイミングでやりましょう」と言って手伝っていただいた、という流れがあります。でも上京するまでは、まだ不信感がありました(笑)。もちろん定期的に会いに来てくれて、電話やLINEで連絡を取ってはいたんですけど、どこかで人間不信というか、「本当にこの人を信じていいんだろうか?」って思ってて。それで上京したときに、いろいろ思いを確認して…あっ、これ言っていいのかな?

藤原:いいよ

yama:本当にどのくらいの覚悟が、この人にはあるんだろうと思って、「会社員ですよね?もし、ソニーの偉い人の圧力で、yamaの担当を外れなきゃいけないってなったときに、どうするんですか?」って聞いたら、「いや、そんなことはないよ、大丈夫。俺はちゃんとyamaの担当だから」って言ってて。でも「いやいや、絶対わかんないじゃん、会社員だから。社長が外せって言ったら外されるから」って言ったときに、「じゃあ俺、会社辞めるわ」って言ってくれたんで、「あ、この人とだったら一緒にできるな」と思って、そこから二人三脚というか、一緒に歩み始めたという経緯があります。

――めちゃくちゃいい話じゃないですか!
yama:でも、わりと辛辣なんです(笑)。「全然ダメやなぁ」みたいな感じで、ライブもめちゃくちゃダメ出しされますし、音源や他の制作物もインタビューも、全部において、ダメなときはダメって言うし。でも良いときは良いって言ってくれるので、その的確なジャッジが自分の柱になっていて、信頼を置いている部分ではあるので、かなり頼っていますね。

心が折れ藤原氏と衝突…気付いた本当の気持ち

「今まで以上にもぬけの殻に…」

yama:いろいろ衝突があったんですけど、それこそ(藤原)慎太郎さんとも。

――それは聞いて大丈夫ですか?
yama:全然大丈夫です。もう和解してるんで(笑)

――衝突というのは、二人三脚でやっていく中でですか?
yama:そうですね。ライブが苦手と言いつつ態度に出さないようにしていても、やっぱり出ちゃうので、ウジウジしてしまったりとか…。その結果うまくいかないことになる、それが続いてしまうと「やる気ねぇじゃん」って見えてしまって。全国ツアーを回って、なんとかやり切ったんですけど、最後のツアーファイナルをDVD化しようと思って撮影を入れていたんですけど、その大事なときに、自分が今までやってきた最高のライブができなくて、心がポッキリ折れちゃって…。そこから、今まで以上にもぬけの殻になってしまって、1か月くらい口をきかないときがありました。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 1か月もの間、口をきかなくなってしまった二人…心が折れてしまったyamaさんが、前を向くキッカケになった、藤原さんや他のアーティストの言葉とはー。「yamaロングインタビュー」後篇へ続く。

(「かんさい情報ネットten.」 2022年8月11日放送)

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